3 あの花

Q.夕暮れ時、知らない人に、公園に行こうと誘われたら、どうすべきか。

A.断る。


 簡単に見えるが、これがなかなか難しい。いや、私は悪くない。誘ってきたのがおじさんだったら、真っ直ぐ家に帰ったはず。仕方ないね、人間みんな、イケメンに弱く作られてるんだから。うんうん。

 頷いて、強引に自分を丸め込む。

 ジャージのポケットに手を突っ込んで、私はあたりを見渡した。


 公園なんて、いつぶりだろうか。

 知らぬ間に、一回りも二回りも小さくなった気がする遊具が、夕日に染められて、オレンジ色に光る。学校帰りに好きな人と公園に寄る、みたいなシチュエーションは、少女マンガでよく見るけれど、あいにく私は失恋直後で、連れはほぼ初対面。見た目からしても、私は全く女の子っぽくないはずで、まったく、少女マンガとは程遠い。

 そして、その連れと言えば。


「パンダだ!可愛い〜。写真撮ろ!」


 小さな子供がまたがって遊ぶ、パンダの遊具がお気に召したようで、ピンク色のケースのスマホで、写真を撮っている。

 半ば強引に連れてきたというのに、私のことは完全に置いてけぼりだ。

 もちろん、楽しそうなところを邪魔する理由などないし、かといってぼんやり立って待っておくのも馬鹿らしい。


「はあ……」


 溜息をつくと、私は、少し離れたベンチに腰掛けた。錆びついたベンチが、ギイ、と小さく音を立てる。

 あちこちペンキの禿げた遊具をぼんやり眺めていると、急に喉の渇きに襲われた。


(喉乾いてる時に苺ミルクって、もしかして逆効果?)


 しかし、水筒はとっくに空になっている。逆効果でもいいか、と、私は、さっき買った苺ミルクのペットボトルの蓋を開けた。

 ふわ、と香る、甘ったるい香り。とろとろしたピンク色の液体を、目を瞑ってごくんと喉に送り込んだ。


(あっま……)


 乾いた喉を、甘い香りがじわじわと焼いているような感覚に陥る。


(こりゃダメだわ)


 自業自得、という言葉が、脳内でピカピカ光る。それでも辞めずにゴクゴク飲んでいたら、いつの間にか苺ミルクは半分にまで減っていた。


 パンダの遊具の写真を撮り終え、近くの茂みの中でもシャッター音を響かせていたミオが、ベンチに走ってきたのは、それから十分ほど経った後だった。


「ユイ、見て見て!この花、可愛くない?」


 真っ直ぐ自分のところに走ってくるミオの笑顔を見て、こんな女の子がいたら相当モテるんだろうな、と考える。守ってあげたくなるような華奢な体つき、キラキラ光る大きな瞳、花が咲いたような笑顔。どこをとっても、完璧に可愛い。


「ほら、これ!丸くて可愛いでしょ」


 隣に腰掛け、ぐいっとスマホの画面を向けてくるミオ。

 そこに映る、丸い小さな花に、見覚えがあった。

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