2 逆にアイドルじゃなかったらアウト

「……は?」


 ぱっちり二重に、長い睫毛。人形のように整った小さな顔を、ふわふわした細い栗色の髪が包んでいる。華奢な肩も、こてん、と少しだけ傾げた首も、目尻の下がった笑顔も、オーバーサイズのパーカーも、女の子のように可愛らしい。


(誰だ、この子。というか、さっき、何て言った?)


 異常に顔面スキルの高い男の子に、意味の分からない自己紹介。苺みるく担当?……アイドル?

 混乱する私をよそに、彼は自動販売機の取り出し口から、苺ミルクのペットボトルを取り出すと、それを私に差し出した。


「どーぞ」


 ふわ、と風で髪が揺れる。にこっと笑った口の端から、八重歯が覗く。


「……可愛い」


 言葉にしてしまってから、はっと口を押さえた。いきなり見ず知らずの人間にそんなこと言われたって、嬉しいわけがない。気持ち悪いと思われただろうか。いや、可愛いと言われ慣れてる、アイドルならセーフだろう。うん。アイドルならセーフ。

 自分に言い訳しながら、半ば奪うようにペットボトルを受け取り、その薄ピンクの液体を眺めるフリをして、彼の気配をこそこそと窺う。

 ちらちら彷徨わせた視線が、ガラスのような瞳に触れてしまった、その瞬間。

 彼のきょとん、とした表情が、にこにこ笑顔に変わった。


「ほんとー?ありがと!」


 ぽんぽん、と私の肩を叩く。


「キミもかわいーよ!」

「!」


 自分の耳が、一瞬信じられなくて、でも、急に熱を帯び始めた顔が、その言葉を確かに聞いたと肯定していた。

 可愛い、なんていつぶりに言われただろうか。

 お世辞だ、勘違いするな、と自分を落ち着かせようとしても、真っ直ぐ言われた言葉が、その自制心ごと溶かしてしまう。可愛い、と軽く言われただけなのに、体の奥まで熱くなる。

 きっと顔も真っ赤になっているだろう。忖度にまみれた「可愛い」に真っ赤になるなんて、呆れられるかもしれないと思ったが、彼は笑顔を崩さず、尋ねてきただけだった。


「名前、なんて言うの」

「……佑衣」

「ユイちゃんね、可愛い名前」


 確信犯だろうか。可愛い、のところで目を合わせてきた彼は、自分の顔を指差して、言った。


「ボクのこと、ミオって呼んでね」

「ミオくん?」

「あ、できれば呼び捨てで。無理なら、ミオちゃん、の方がいいな」

「……なんで?」

「だって、ちゃん付けの方が可愛いじゃん」


 当然、といった表情を浮かべるミオ。呆気に取られる私の隣で、座れるとこないかなー、と呟きながら、きょろきょろと辺りを見回している。


「あ!あそこで話そ!」


 お目当てのものを見つけたようで、大きな目をキラキラと輝かせたミオは、細い人差し指で、ある場所をぴし、と指差した。

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