決戦1
斎藤たちが雑木林を抜けると、海へ突き出した草原が広がる。
そこに敵の部隊がいた。
海の方を警戒して斎藤たちに気づいてはいないが、やはりかなりの兵力が割かれている。
斎藤は後ろの林へ振り返った。
「やれるか?」
「もちろん」
「よし、じゃあ…」
斎藤は腰から爆弾を取り出した。
「派手に頼む」
庸平たちは雑木林を奥へ進んでいた。
この辺りまで来るとますます樹木が生い茂り、昼間でも薄暗い。
「あの先だ」
今井の指す先は崖になっている。
崖の先から下を覗くと、小道が伸びている。その小道を挟む岩壁、というよりは岩を切り開いた廃墟らしい。人工の穴が開いている。
「残りの入口は?」
「あと2ヶ所」
ドン
と遠くで爆発音に続けて、銃声が轟きはじめた。
「派手にやってるな」
満足げに頷くと、庸平は二人の方へ振り返った。
「お前たち二人は残りの入口から行け」
今井と寺内は頷くと走り去った。
海岸の警備軍は林たちの襲撃で混乱に陥っていた。
永井組はしっかり統率されてこそいるが、根はヤクザである。殺し方はめちゃくちゃだ。
壬沓社の連中も盛んに戦っているが、やはり殺しに迷いが見える。
蒼龍隊はというと…
「おっ、出ていく出ていく」
双眼鏡を覗きながら野村が呟く。
蒼龍隊は遺跡の正面入り口前で身を潜めていた。
入り口からは敵軍が海岸へ応援に出ていく。
「斎藤、そっちに行ったぞ」
「了解」
野村のもとに山内がやってきた。
「やるか?」
「もう少し、そうだなぁ、2分待て。
そしたら気づかれないように奴らの後を追え。
斎藤たちが迎え撃って疲弊した頃に後ろから突っ込め」
海岸の斎藤も林たちと作戦を整理していた。
「もうすぐ敵の応援が来る」
「俺たちは茂みに隠れて挟撃すればいいんだな?」
「そこへ壬沓社が後ろからとどめだ」
「わかった」
「頼んだぜ」
斎藤は遺跡へ向けて駆け出した。
「野村、今向かっている。
突入の準備を」
「了解」
「そういうことだ桐野。
俺たちが突入したら敵は任せて、伊藤に専念しろ」
耳の中で鳴る無線を聞き流しながら、庸平は暗い洞窟を進んでいた。
道だけは雑に舗装されている。
前方に光が見えてきた。庸平は拳銃を構える。
開けた空間に出た。
道は左右に分かれ、中央は下まで空洞になっている。
見下ろすと、光は下から来ていた。
下にも細い道が伸びている。そこに武装した男たちがうごめいていた。さらに道の下は、湖になっている。
敵軍が設置したのだろう。下の道にはライトが一定の間隔で置かれている。
「おい!」
一人が庸平の方を指さして声を上げた。
「やべっ」
駆け出した庸平を追って一斉に銃弾が飛んでくる。
しかしそれらは岩壁に跳ね返され、男たちに降り注いだ。
「やめろ!撃つな!」
敵軍の指揮官が叫んだ。
「追え!銃は使うな!」
庸平は階段を駆け下りる。
また道が分かれている。右の道を覗くと、血眼で男たちが走ってきている。
踵を返して左の道へ駆け出した。
奥へ行くと、次第に高くなる天井を青いライトが照らし、岩に反射している。
その先は…、行き止まりだ。
庸平は岩壁を背に、追っ手を睨み据える。
男たちは庸平を囲むと、一斉に刀を構えた。
庸平は静かに刀の柄に手をかける。
腰が徐々に沈む。
動く者はいない。
正面の坊主頭の男の額から一滴、汗が落ちた。
右手のひげ面の瞳孔がカッと見開かれ、上段に構えた刀が振り下ろされた。
その刃の下へ庸平が滑り込む。
頭上へ持ち上げた刀でひげ面の一振りを受け止めると、右足でそのくるぶしを払った。
続けて左の男の胸を一直線に突く。
引き抜くと同時に後ろへ払った太刀を、坊主頭が間一髪で飛び避けた。
間合いをとって男たちが再び囲む。
壁を背に庸平は大の字に腕を広げた。
男たちはジリジリと間合いを詰める。
左から鋭い奇声とともに、茶髪の男が突き込んだ。
それをしゃがんでかわしながら下段から斬り上げ、その懐へ滑り込む。
茶髪の死骸を背中に乗せ反転、その死骸へ勢い余った男たちが斬りかかった。
男たちへ後蹴りで死骸を飛ばす。
怯んだ男の額に、庸平が投げたナイフが刺さった。
その間にもう一方の男の首が飛ぶ。
しかし庸平も背中へ坊主頭の一太刀を浴びた。
傷は浅い。
庸平の瞳孔が大きく開いた。
坊主頭は気づいたときには腹を裂かれていた。さらに次の男に飛びかかると、首筋を左手のナイフで引き裂く。
なお、庸平は止まらない。
次の獲物を捕らえ、気の済むまで斬り裂いていく。今度は後ろから迫る男を見る。
庸平に睨まれた男たちからは、次々と血しぶきが舞った。
キレている、わけではない。
車はガソリンのもつ限り走る。
扇風機は電気のもつ限り回る。
そこに感情など何もない。
庸平は命のもつ限り、殺す。
千紗は銃を向ける男たちに囲まれ遺跡を奥へ進んでいた。
すると入り口の方から銃声が響き出した。
男が走ってきて千紗の横の男に何か耳打ちする。
「お前の仲間が来たらしい。
だがどうせここまでは来れまい。
助かりたかったら余計なことを考えず案内しろ」
「わかってるわよ」
千紗は男をキッと睨んだ。
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