女王陛下は一途な恋心をかくしたいっ!!
風乃あむり/ビーズログ文庫
プロローグ
①
「ですから、たまには私とお話しする時間をもうけていただけないでしょうか」
そう言ったのは私の夫。息がかかるほどの
そう、私は今、
「ただ顔を合わせていただくだけでいいのです」
けれど、やわらかな口調に反して彼の瞳には熱い力がこもっている。
「……こ、このような無礼を働く
その瞳から目をそらし、それだけ言うと、妻である私のすげない返答に彼は小さくため息をこぼした。
「どうしてそのように私をこばまれるのです? 私たちは太陽神ラーにも認められた正式な
彼のもらした息に
彼はさらに鼻先がふれようかという距離までぐいと近づいてきて……。
待って! ちょっと、もう、だめ! それ以上はだめですっ!
だって……
実は私、夫君とこんな風に真正面から顔を合わせるのは、今日が初めてなのだ。
間近で見る夫、ティズカール様はすっと伸びた
だめよ、落ち着きなさいアルシノエ。心の中の自分を
「
うぅ、我ながら落差がひどい。さすが十八歳にして
これで彼もやむなく私から
って、そう思ったのに……な、なんで!? どうして離れてくれないの!?
「お
無理、無理、無理なの! 無理なんだってばー! 目を合わせちゃったらそのたくましいお胸に飛びこんでしま……ってなにを考えてるのよ私ったら!
「ティズカール
「かまいません。夫婦で
む、む、む、睦みあうって何ー!?
「アルシノエ様……私はあなた様と
うぅ、私だって本当はティズカール様とたくさんお話ししたい。でもダメよアルシノエ……なんとか、なんとか
頭の中は大混乱。理性が本能に敗北するまさにその
「わんっ! わんわん!!」
激しく
「わん! わん!」
鳴き声の主は、奥の
白い
「ティズカール殿、ご覧なさい! アヌビス神もお怒りです」
「うぅぅぅぅわんっ!」
「申し訳ございません。〝神の
「わん」
「アヌビスもわたくしも
ピシャリと木の
「ティズカール殿、
「……承知いたしました」
ティズカール様は私に向けて一礼すると、ようやく部屋から出てくださった。大きな背中が少し丸い。
はぁ、なんとか助かったわ。ふにゃりと
「アヌぅぅぅぅ、ありがとう!」
勢いよくアヌビスに飛びつくと、やわらかい毛並みが気持ちいい。うぅふかふか〜! 安心する!
ところがその体はすぐに厚みと重さをなくしてしまう。ついでに実体もなくして
彼は
「おいアルシノエ、助けてほしいならそう言えよ。オレ、出て行くべきか迷ったぜ」
「はぁ!? どう見ても助けを求めてたでしょ!?」
「うそだな、けっこう嬉しそうだった」
ぎくぅ!
くりくりと丸い目で私をからかう少年は、
「しかし、婿殿も気の毒だねぇ。
「だってしようがないでしょう! あと一年は親しくできないんだから!」
アヌはトコトコと寝室に
窓の外を
まもなく季節は
「次の
東の空をにらみつけ、決意を新たにした。
私には
王家のくだらない権力争いに、彼を巻きこむなんて絶対に
だから私は、
「はーそれにしてもあと一年か〜」
黒髪のあどけない少年は、私に向かって意地悪な
「アルシノエは、それまで自分の気持ちをおさえられるかな〜」
「もちろん、その程度のこと簡単よ。
ない、って言い切ろうとしたのに、頭の中にさっきのティズカール様の情熱的な
「あれぇどうした、アルシノエ? 顔が赤いけどぉ?」
「な、なんでもないっ!」
こちらの顔をのぞきこんでくるアヌが私を試すようにニヤリと笑っている。
どんなに
彼がどんなに
……な、なんとか隠し通してみせるんだから……っ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます