第19話 看板を掲げよ!
【近況ノートで挿絵を公開中!】
【前回までのあらすじ】
なんとか校長からカフェの営業許可を受けたミフネ、フブキ、サユリの三人は、いよいよカフェ・オープンの追い込みにかかっていた。
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ミフネは、保健所に食品衛生法に基づく営業許可書を作成し提出した。
カフェの代表者氏名は、発起人であるフブキとした。事実上の[[rb:店長 > マスター]]である。
まもなく、保健所が倉庫小屋を訪ねてきて、水質や衛生状況の検査を行い、無事営業許可が下りた。
正直なところ、この古い倉庫小屋の水質や衛生状況が、食品を扱う営業に適合しているか不安ではあったが、電気・ガス・水道などの基本的なライフラインは校舎のものと共通しているため問題はなかった。
フブキが[[rb:店長 > マスター]]に就任したことによって、他の二人も役職名をつけようということになり、 ミフネは、[[rb:経営戦略担当 > マネージャー]]、サユリは[[rb:企画開発担当 > ディベロッパー]]という肩書を名乗ることとなった。
「できた~!」
最後の一筆を入れ終えたサユリの声が、空梅雨の空に響く。
「すごーい!かわいい看板やのう。」
茶色いワックスが塗られ木目の美しさが際立った細長い板の中央に白のアクリル絵の具で「Cafe YASHIMA BASE」と書かれた看板だった。
板を切っただけの長方形ではなく、端がゆるやかな曲線にカーブしていて、角もきれいに面取りされている。
シンプルだが、趣を感じる。
「きれいな看板……。」
ミフネが看板に触ると、丁寧にヤスリがけされた、さらりとした木のやさしい質感が伝わってきた。
自分が保健所相手の仕事に追われている間に、フブキとサユリは、隠し部屋にこもってこれを作っていたのだ。
「お!かっこええ看板ができたのう。」
いよいよ来週から開業と聞いて、イシハラ先生も倉庫小屋にやってきた。
「店の名前が『カフェ・ヤシマベース』か。名前の由来は?」
「三人で決めたんです。屋島は源平の古戦場ですから、そこにちなんで英語で『基地』を表す『ベース』がいいかなと。戦いに疲れた兵士に癒しの場を与える基地のように、部活に打ち込む生徒や勉強に疲れた生徒の憩いの場になればと考えています。」
「おー、コンセプトもしっかりきまっとるのう。」
ミフネとイシハラ先生が話しているところにサユリがあのウサギのぬいぐるみを持ってやってきた。
「な~な~ミフネ~。このウサ坊、入り口にかざろうや~。マスコットみたいでかわいいや~ん。」
「いいね。この倉庫小屋の昔からの住人だもんね。」
かつてこの倉庫小屋を住居にして、住み込みで働いていた校務員家族の忘れ物だ。おそらく、小さな子どものものだったのであろう。
ミフネは、サユリがウサ坊と名付けたぬいぐるみを受け取ると、ぎゅーっと両手で抱きしめた。
先日の掃除が終わった後、たらいで徹底的に洗ったので、ウサ坊の毛並みはまばゆい白さやふわふわとしたやわらかさを取り戻していた。
入り口の前に脚立を二つ置き、片方にフブキ、片方にサユリが上り、二人で看板の取り付け作業を行った。
「サユリ、あと五センチぐらい上げて…………うん、それぐらい。」
ミフネは、店の正面から見て、取り付け位置や傾きの補正を指示した。
看板の取り付けが終わると、フブキが倉庫小屋から何やら木工製品を持ち出してきた。
それは、長方形の二枚の黒板が裏表についたサインボードだった。
二枚の黒板は上部に蝶番がついていて、開くと自立する仕組みになっている。
その黒板には、サユリが書いた「Next Monday OPEN」という美しい書体の文字がチョークで書かれていた。
「うわー。なにこれ?!かわいい!」
ミフネは、目を丸くして思わず高い声を上げる。
「サインボードや。店の前を通る客にアピールする屋外広告やな。廃棄する黒板を切って作ったんじゃ。
「ウチがカリグラフィで、『[[rb:次の月曜日開業 > ネクスト・マンデー・オープン]]』って書いたんや~。ミフネ~、つづりおうてる~?」
「うん、合ってるよ。二人ともすごいよ!一気にカフェっぽくなったね。」
「営業開始したら、ドリンクの価格一覧や今日のおすすめメニューなんかを書くとええの。」
その黒板の横に、校舎内の机椅子倉庫から拝借してきた教室用の椅子を置いて、そこにウサ坊を腰掛けさせた。
「かわいい!店の看板娘だ。」
「なに~?!じゃあ、ウサ坊はウチのライバルってことやな~。こいつめ~!」
サユリは、かがみこんでウサ坊を撫でまわした。
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