第15話 初オーダーを取れ!

【前回までのあらすじ】

校内の倉庫小屋にカフェを開業しようと準備を進めるミフネ、フブキ、サユリは、テイクアウト専門の店舗開業を目指すこととした。

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「それより、ニュース!初オーダーを取れそうやで。」

「オーダー?」

「注文や!野球部のお弁当、四十人分!これで、活動費がだいぶ稼げるがあ。」

「えー!」

二人が声を揃えて驚く。

「タツヤと話してたらな、今月末から高校野球の地区予選が始まるんやけど、朝が早くて弁当の準備が大変やって話になったんじゃ。弁当手配は一年生の仕事やけんな。」

たしかに、国道まで数キロ坂道を下らないと弁当屋やコンビニがない。

しかも、早朝となると、なおさら大変だ。

「そこで、うちらで弁当の販売を提案したら、ぜひ頼みたいって!うちらやったら、校内で作って出発前の部員にすぐ渡せるけんな。」

そう話したフブキは、どんなもんだ、と言わんばかりにブイサインを出した。

「すご~い!フブキ~!」

サユリが高い声を出して喜んだ。


喜び小躍りする二人を見ながら、ミフネの心には、あるわだかまりがあった

「あ~、その話なんだけど・・・実は・・・」

「どうしたん?ミフネ。」

盛り上がる二人がミフネの方に向き直った。

「実は、カフェの営業を始めるためには、資格がいるみたいなの。」

「え?!調理師免許とか?」

「そう。昨夜、本を読んで勉強してたんだけど・・・まず、飲食店を開業するには保健所に営業許可を申請しなきゃいけないの。そのために、食品を取り扱うお店には、調理師、製菓衛生師、栄養士、食品衛生責任者のいずれかの資格取得者が必要なの。」

「え~!そうなんや?!じゃあ、ぜんぜんダメやの。うちら高校生がそんな資格持ってるわけないがあ。せっかく初オーダーの話が来たのに。」

「じゃあ、今までやってきたこと全部無駄やったってこと~?」

二人の表情に一瞬で暗雲が立ち込めた。

もちろん、知り合いとして材料費だけもらって、弁当を作ることもできる。しかし、それでは、利益が得られない。つまり、今後の活動につながっていかないのだ。

活動を維持するためには、たとえ少額であっても、利益は上げたいところだ。


「でも、なんとかなるかもしれないんだ。」

ミフネの言葉に、二人の視線が集まった。

「どういうこと?ミフネ、調理師の免許、持ってんの?」

フブキがミフネの顔を覗き込む。

「いや、調理師とか栄養士の資格は、それなりの経験や学歴が必要なの。でもね、食品衛生責任者は、香川県の場合、地元の社団法人が開催している講習会を受ければ、十五歳から取得できるの!」

「え?!じゃあ、うちら高校生でも取得できるってこと~?」

「よし、みんなで講習会受けようや。」

フブキとサユリの顔に差した影が一瞬で霧消する。

「フブキ、そういきたいところだけど、営業許可申請に必要な有資格者は店舗に一人でいいんだ。だから、三人のうち誰か一人が受けにいったらいいの。受講料もそれなりにかかるし。」

「え?いくら?」

「ひとり一万円。」

「うっ!!高校生には厳しい金額やな。」

フブキが顔を引きつらせていると、

「それならうちが受けに行こうか~?うちは、家が飲食店やっとるけん、頼んだら親もそれぐらいのお金出してくれると思うで~。」

サユリがあっけらかんと言う。

「さすが社長令嬢。言う事が太っ腹やなあ。」


これで円満解決かと思いきや、

「だめよ!カフェのことで、誰か一人が出費を負担するなんてことはだめ。自分たちでやりくりしなきゃ、開業する意味なんてないわ。」

ミフネが強い口調で異議を唱えた。

「そうは言ったって、誰かがその講習を受けないと、開業もできないんやろ。」

二人は、ミフネのもっともな言葉に納得しつつも困り顔になった。


 しばらくの沈黙のあと、伏し目がちな二人を覗き込むようにミフネが口を開いた。

「来週にその講習会があってね、六時間の講習を受ければ、一日で食品衛生責任者の資格を取得できるの。そこで提案なんだけど、私が受講していいかな。その間に二人はカウンターテーブルを完成させておいて。受講料は立て替えておくから、売り上げ金が出たら返してもらうってことでどうかしら?」

二人の表情が再びぱっと明るくなる。

「お勉強はミフネの得意技やもんな。お願いするわ。」

「一日六時間も勉強したら頭おかしくなるわ~。ありがとう~、ミフネ~。」

「うん。やっぱり食品を扱うからには衛生面や安全面について勉強しておきたいし。がんばってくる。」

ミフネは、かけてもいない眼鏡を手で上げる仕草をして見せた。

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