第14話 二人の関係を推理せよ!

【前回までのあらすじ】

まじめ地味キャラのミフネ、スポーツ万能なフブキ、アート感覚の冴えるサユリの三人は、テイクアウト専門のカフェをオープンする目論見を立てた。

まず、店内設備として、ミフネはカウンターテーブルの設計図を完成させた。

――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日の放課後、ミフネは完成させた設計図を持って倉庫小屋へ足を運んだ。

「よし、この設計図に従って木材をどんどんカットしていくで!」

すでにツナギに着替えて待ち構えていたフブキは、設計図を受け取ると、かくし部屋で丸ノコのセッティングに入った。

サユリもすでに着替えを済ませており、木材を運んだ。

ミフネも、部屋の隅で制服を脱ぎ、急いでツナギに着替えた。


キュイーン。

丸ノコが威勢のいい音とともに大鋸屑おがくずを飛ばしながら次々と木材を切断していく。

切り終えた木材は、ミフネとサユリが紙やすりをかけてから倉庫小屋内カフェ・フロアに持ち込み、組み立てやすいように床に並べていった。

基本的に木材同士はコールスレッドと呼ばれる木工用の長いネジをインパクトドライバーで打ち込んで組み上げていく。

木材にいきなりネジを打ち込むと、木が割れてしまう恐れがあるため、サユリが電動ドリルでネジの下穴を開けていった。

この下穴の位置――つまりねじを打つ位置をいいかげんに決めると、ねじが木材からはみ出てしまったり、板が割れたりすることがあるので、細心の注意が必要である。

その作業をサユリに任せることに、ミフネは一抹の不安はあったが、杞憂だった。

サユリは、美術部で作品制作や展示会場づくりをしているので、意外にも電動工具の扱いに慣れていた。

予想以上の手際にミフネは驚いた。

インパクトドライバーは、強く押し込みながら打たないとネジがなめてしまうため、電動工具の扱いに覚えのあるフブキが担当した。

これまで何かと「優等生」「成績優秀」などと言われる事が多かったミフネだが、DIYの作業を始めると、とたんに自分が一番低劣となることを思い知らされた。

彼女たちの道具さばきは音楽のように心地よいリズムを奏でていた。

電動工具を使ったことがないミフネは、二人の頼もしい姿を羨望のまなざしで見るしかなかった。


 電動工具を使う際は長い髪が巻き込まれる危険があるので、くくるようにイシハラ先生から言われていたことをふと思い出した。

自分に電動工具が使えるとは思えないが、一応それらしい格好だけはして手伝おうと、ポケットから出したヘアゴムを手首に通して、手櫛で丁寧に髪を後ろでまとめた。

その時、入り口の方から聞きなれない声がした。

「お前ら、ここで何≪なん≫しょんな?」

ミフネが振り返ると、そこには野球の練習着を着た体格のいい男子が立っていた。突然の侵入者に驚きミフネは「ひやっ」と短い悲鳴を上げて束ねていた髪を放してしまった。長い髪が空気をまといつつはらはらと肩に流れた。

これまでこの倉庫小屋で当たり前のように着替えたり弁当を食べたりしていたので、つい三人だけのプライベート空間のように思いこんでいたが、見知らぬ男子の出現によって「ここは学内の公共の場だ」という事を再認識させられた。

さっき着替えていた時、見られてた?

ミフネはとっさに記憶を脳内で何度も再生し、その時はまだ、この男子はいなかったことを確認した。


「あー、テツヤ。もう練習終わったんか?」

隠し部屋からフロアに入ってきたフブキがその男子に声をかけた。どうやら知り合いのようだ。

「うちらなあ、ここにカフェをつくりよるんよ。」

「はあ?!カフェ?!なんでそんなもんつくっとんじゃ?」

後ろからテツヤと呼ばれる男子、前からフブキ、二人の親しげな会話に挟まれたミフネは耐えられなくなって、かくし部屋へすごすごと引き下がった。

ミフネは、自分達以外の人物と談笑しているフブキを初めて見て、急に彼女が知らない人物のように思えてきた。

カフェづくりを通して、フブキとずいぶん親しくなった気でいたが、考えてみれば、まだ知り合ってから半月ほどだ。

自分の知らないフブキがいるのも当然だ。

フブキと親しげに話をする男子・・・・一体誰?

ミフネが浮足立った気持ちでいると、サユリもかくし部屋に入ってきた。その表情は、にやけが抑えられないといった様子だ。

「ミフネ~、あの野球少年誰やろ~?まさかフブキの彼氏ちゃう~?」

「彼氏!?」

ミフネは、自分の顔が急に火照るのが分かった。

「な・・・何言ってんのよ?!そんなわけないじゃない。」

ここは、不良がモテるような田舎町だ。

中学時代、学年に数人は「付き合っている」とウワサされる男女はいたが、みな不良まがいの生徒ばかりだった。

いや、でも、ここは高校。

ひょっとして、健康的で爽やかなフブキみたいな子だって、そういうのが当たり前の環境なのかもしれない。

確かにそうだ、中学とは違い、高校ではやたら親しげに話す男女をよく見かける。

ひょっとしてフブキとあの野球男子はもう・・・。

「ミフネ!どうしたん?赤い顔でぼーっとして。エラい(しんどい)んか?」

サユリに両手でほっぺたをぎゅうっとおさえられ、ミフネは我に返った。

「でな~、うちの推理やと、きっと二人は幼馴染やで。サユリもソフトボールやってたやろ~。やけん、二人は小さい頃にキャッチボールした仲や~。でも、今は、特別な関係になっとるんよ~。『フブキを甲子園に連れて行く』とか言って~!」

「キャー!」


そのとき、かくし部屋に踏み入る足音が聞こえた。

「ちょっと!勝手な妄想ふくらませんとってや!」

足音の主・フブキの声に、二人は飛び上がるほど驚いた。

「あ~あ~、フブキ~。彼氏はもうええの~?」

「彼氏やないけん!テツヤはもう帰ったよ。ただの幼馴染や・・・・ん~、中途半端に的中してるから、ややこしいけど、彼氏やない!」

「そうか~まだなんや~。」

「その予定もないけん!小学校の頃、同じソフトボールチームやっただけ。中学からは、野球部と女子ソフトで別々やし。たまたま高校で同じクラスになったんや。」

「な~んや。」

フブキの言葉を聞いてなぜか残念そうなサユリだった。

ミフネは、なぜか胸をなでおろしている自分に気づいた。

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