第37話:身食い
これからは、大叔父以外の名前は伏せさせてもらう。
辺境伯家の正史にも長男とか次男とか、長孫という表記になる。
名前すら剥奪されるという厳罰を受ける事になる。
それくらい、本家を乗っ取ろうとしたマジシャン準男爵家の罪は重い。
そして俺は手心を加える事なく厳罰に処す覚悟をして、その通りになった。
マジシャン準男爵家だけでなく、加担していた家臣たちも厳罰にした。
「何事だ、カーツ殿、いや辺境伯代理。
あ、まさか、我が家なのか、我が家が謀叛人だと言うのか。
間違いだ、そんな事はありえない、×××が辺境伯家を乗っ取ろうとするなんて。
そんな事は絶対にあり得ない、捏造だ、すべて捏造だ」
大叔父が泣き叫ぶように嫡男の無罪を主張する。
「それは、私が×××に罪を着せていると言われるのか、大叔父。
自分が子育てに失敗した事を棚に上げて、私に罪があると言うのか。
辺境伯家を、いや、人類を護るために命懸けで戦っている私を罵るのか。
その言葉、死した後にアーサー様に言えるのか、恥知らずの出来損ないが!」
俺の言葉を受けて、大叔父ががっくりとその場に崩れ落ちた。
嫡男可愛さに、法も論もない身勝手な主張をしていた大叔父も、さすがに英雄である父親の名を出され、その名を穢したと言われては、反抗心も砕けたようだ。
大叔父はそれで無抵抗にできたが、大叔父を護衛していた家臣たちは無理だった。
家臣たちは辺境伯代理の俺を殺そうと剣を抜いて襲い掛かってきた。
大叔父を護衛していたのではなく、監視していたのかもしれない。
「これで叛逆が明らかになった、問答無用で叩き潰す」
ヴァイオレットが背筋も凍るくらい冷たい口調で言い放った。
前回の襲撃と同じように、こいつらに証言させるために殺さないのだろう。
殺しはしないが、楽に気絶させる気もないという宣言だった。
言葉通り、ヴァイオレットは護衛たちの四肢を粉砕した。
手首と足首、肘と膝、肩と股関節の骨を砕いて身動きできないようにした。
「辺境伯代理閣下、マティルダ様、×××を捕らえて拷問にかけます。
もしかしたら、ほとんどの分家から一味の者が出てくるかもしれません。
全ての分家を潰す事になるかもしれませんが、よろしいのですね」
この期に及んでヴァイオレットが再度確認しやがる。
今回の襲撃を決断した時に、全ての分家を潰す覚悟はしていたのだ。
今回の件の真の黒幕が、マジシャン準男爵家ではなく、父上の長弟、叔父上だと言う可能性も考えていたし、叔父上を厳重に処す覚悟もしたのに、まだ確認するか。
これも俺の覚悟と本性を確かめるための試験なのか、ヴァイオレット。
ほとんどの分家を厳罰に処すと言うのは、自分の身体を傷つけるに等しい行為だ。
家臣が信用できず、領民に叛乱を越されるかも知れない状況では、最後に最後に信じられるのは、分家などの一族一門衆になる。
それを自ら厳罰に処すのは、自殺行為だと考える貴族は多い。
当事者だけを内々で処分して、分家自体は残すのが普通の貴族のやり方だ。
「構わない、全てを明らかにして、辺境伯家に溜まった膿をすべて絞り出す」
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