第36話:踏み絵

「抵抗する者は問答無用で斬り殺せ!」


 今度の敵は大叔父とその一族だが、爵位は士族の準男爵だ。

 辺境伯家内では名門中の名門だが、皇国貴族ではないので、ピーターソン子爵家やエドワーズ子爵家のような城は持っていないのが建前だ。

 だがそれは建前だけの話しで、魔族の侵攻に対処するという前提で、領民を護るための城に住んでいるのだ。

 その城の守りを突破しなければ、敵を、大叔父の一族を捕らえる事などできない。


「「「「「おう」」」」」


 不揃いな返事が返ってきたが、仕方がない事だ。

 今回もカチュアの親衛隊50人が協力してくれている。

 だか彼らだけではなく、俺の元護衛騎士と辺境伯家の兵士も加わっている。

 表向きは魔境に入って魔獣や魔蟲を狩ると言う説明で集めた。

 つあり150人の騎士は、マジシャン准男爵家を襲撃する事を知らなかったのだ。

 だから俺の言う事に返事ができない者の方が多いのだ。


「ためらう者、辺境伯家乗っ取り犯を庇うような者は、マジシャン准男爵家と通じていた謀叛人だと断じて、私が殺す。

 私がお前たちをこの討伐に選んだのは、私がお前たちを信じていないからだ。

 これが生き残る最後の機会だと理解して、その覚悟でこの襲撃に加わるのだ」


 今の言葉は、半分本当で半分は嘘だ。

 今回集めた150人を信じていない事は本当の事だ。

 だが、ここにいる150人だけが信じられない訳じゃない。

 辺境伯家に仕える人間全てを疑っているのだ。

 いや、家臣だけではなく、祖父も父も一族一門のほとんどを信じていない。

 どのような状況になっても信じられるのは、ごくわずかな肉親だけだ。


「「「「「ウォオオオオオ」」」」」


 150人の大半が覚悟を決めたのだろう。

 表向きだけ雄叫びをあげているの者がいるかもしれないが、大半が答えてくれた。

 だが口先だけで信じるほど俺は甘くない、いや、甘い考えを捨てることができた。

 マティルダ義姉さんや弟妹を護らななければいけないのだ。

 俺の甘さが、俺が大切に思っている家族を殺されることに直結してしまう。

 殺されるどころか、麻薬漬けにされて、人間の尊厳を奪われるのだ。


「突撃!」


 俺は前回のように義姉さんとヴァイオレットの3人で敵の本丸に突撃した。

 親衛隊も前回と同じように総構えの城門を突破して、城の奥深くまで来てもらう。

 だが今回は、親衛隊には城門突破以外にも役割がある。

 おかしな行動をする辺境伯家の騎士を取り締まり、場合によったら殺す役目だ。

 今後魔族軍が辺境伯領に攻め込んできた時に、謀叛を起こす可能性のある腐れ外道を排除するという、とても大切な役目があるのだ。

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