陽炎

傍野路石

陽炎

 夏というのは起承転結を知らぬ。朝から既にクライマックスである。

 にわかに目が覚める。時間を見れば、目覚まし時計はまだ眠っている。

 湿度を持った熱気が身体髪膚に絡み付く。

 食欲は無い……が、野菜や果物は欲しくなる。

 冷えた桃を口に放り込む。一度ひとたび咀嚼すれば瞬く間に口の中は果汁でイッパイになった。

 そうして氷の融け切ったグラスの水を一息に飲み下し、畑へと出立いでたつ。

 燦燦然たる熱線と耳慣れた蝉時雨が降り注ぐ。

 ぬるい井戸水……

 青天井にモクモクと隆赫する入道雲……

 そして其のもとに広がる茸茸じょうじょうたる青田のソノ鮮やかさ……輝かしさ……

 畝をほじくり返す。馬鈴薯じゃがいもがゴロゴロ顔を出す。蚯蚓みみずも次々に湧き出づる。最早馬鈴薯を掘っているのか蚯蚓を掘っているのか分からぬ。

 汗……頭から輪郭を伝って滴り、鼻頭からは泉のように湧き、腕は水を浴びたかのごとくギラギラ光り、シャツはピッタリと背中にへばり付く。

 ナンだか少しクラクラする。何か大事なモノが抜け落ちているような感覚……

 気がつくと土の上にしていた。汗と土が混じり肌にへばり付く。

 ジワジワと蒸発するような意識の中、おぼろに此方を見下ろす大きな白い女を見た。見るに背丈は、ひぃふぅみぃ…………八尺といったところか……

 ハハ……イヤ……デカすぎんだろ……

 やがて思考は止まった。

 そうして再び気がつくと、知らない天井……

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陽炎 傍野路石 @bluefishjazz

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