異世界では主人公だったけど、地球では違うようです

夢桜 カキ

第1話 エピローグ1

「お主か。今まで我の計画の邪魔をしてきたのは」


 自分は今、この異世界で全ての人間を奴隷化する計画を実行しようとしていた魔族の前に居た。


「なんじゃ、ビビって声も出ぬのか。これなら我の敵は魔王のみ。あいつを殺れば、我が人間を奴隷化する計画を実行しても止められ奴は存在しないじゃろうな」


 目の前の魔族は人間を奴隷化する計画を実行に起こそうとしている。なのに自分は、それに対して怒りが湧いてこない。何故だろう。


(桜…もしかして、私の呪いがまた発動してるの…?)

「お前のその顔、良いな。その端麗な顔をした男の娘と呼ばれる人種は一部の奴らに高く売れるんじゃよ」


 何故だろうか。今まで人間を奴隷化しようとしているこいつに怒りが湧いていたのに。今はそれを感じる事が出来ない。


(まさかこれって…私の…せい…?)

「さて、計画の実行を起こすために………」


 分からない、自分の気持ちが。少し前までは、自分は人間の男だと分かっていた。なのに今の自分は、自分の事が分からない。何故こうなってしまったのか、それは分かっている。この魔族…エラガント・バルマルの部下にアイジス・ガーストが放った最後の呪いのせいだろう。その呪いは、呪いに掛かった相手をと同一化させる力を持っていた。それによって、自分…神倉かみくらさくらとアイジス・ガーストは、少しづつ同一化していた。最初はアイジスが自分の中に宿ったのだと知り、怒りが凄く湧いていたが、段々と同一化していくごとにアイジスの生涯が分かっていき、殺してしまったのを後悔していた。そんなアイジスと精神の中で仲良くなり、あのエラガントを止める為にエラガントの前に出る…その時に。それは…多分、アイジスが自分と完全に一体化したくないと願った結果なのだろう。その残りの呪いは、自分の異能である【性別種族不明】と自分の精神を同一化させたのだろう。その結果自分は…自分が分からなくなっていた。でもこれは、アイジスが悪い訳じゃ無いよ。だってアイジスは、自分と一緒に居たいと願っただけなんだから…。

 自分はやっと、自分の事が分かって来た。そう自分は、この世界を守る為に呼ばれた勇者。だから…エラガントを倒さないといけない。だけどエラガントを倒せたら、その時は…。

 そこでやっと自分は、がどうなっているか見る事が出来た。でもきっと、時間は殆ど経っていなかったと思う。だって、戦闘は始まってなかったから。


(桜…ごめん。私が…桜と一緒に居たいなんて…願ったせいで…)

(いや、アイジスは悪く無いよ。それに…大丈夫。自分の事が分からなくなっただけ。記憶を無くした訳でも無いし)

(で、でも…これじゃあ桜は…人間じゃなく…)


 アイジスが泣きそうな声で自分の心配をしてくれる。でもうん、大丈夫。だって…


(アイジスと一緒に居られる…その為だったらこの程度大丈夫。それにアイジスだって精神しかないし、きっと自分はアイジスと同じになりたいと願ったんだよ)


 そう、きっとアイジスが一緒に居たいと願ったように自分もアイジスと一緒の存在になりたいと願ったのだろう。それが叶ったんだ。


「だから自分は大丈夫。とにかく、これからの話は、アイジスをこんな風にした元凶であるあいつを消してからにしよう」

(…うん)


ここで自分達の話は終わった。そう…敵の目の前でこんな事を話していたのだ。


「ほう、やっと言葉を発したかと思えば…我を消すとな?それにお主、アイジスの呪いで一体化しておるな」


 ここまで一人で話し続けていたエラガントにまさかの正解を当てられる。だけど、良く考えれば当たり前の事だった。


「お前はアイジスの事を操っていた。ならアイジスが死んで発動する呪いを知ってて当たり前、という訳か」


 だが、それと同時に一つ分かった。


「お前は、今まで自分…ぼくとアイジスが一体化していた事に気付かなかったようだね」


 そう、こいつは一体化しているというのを今まで知らなかったようだった。つまりそれは、


「なるほど、その強過ぎる異能にもちゃんと弱点があるようで安心したよ」


 存在を奴族させるという強力な異能にも、弱点がある事を示していた。


「ほう…だがお主の言う通りならば、奴族した相手の詳しい事が分からない、という程度。それはそんなに弱点と言えるかね?」


 確かに、もしそんな弱点があったとして、時間を掛ければ色々と仕掛けられるかもしれない。だけど今この時点では、自分にはどうする事も出来はしない。だけど違うのだ。


「確かにその程度じゃ駄目かもしれないが…お前のその異能に弱点が存在する。それが重要なのさ。そしてお前はぼくの事を奴族させていない。つまり、ぼくの事を奴族させられないか、時間が掛かるということだろうと思うんだけども…どうなの?」


 そう、もしこの場で自分の事を奴族させられるのなら、こいつは既にしているだろう。だけどこいつはしていない。それがどうしてか、詳しい事は分からないとしても、今はこいつの異能が効かない可能性があると分かるだけで十分だった。


「ふむ、確かに我の【存在奴族化】は相手が我に屈している且つ我より力が弱く無ければ奴族させる事は出来ない」


 なるほど、だからこいつは魔王を殺そうとしていたのか。この世界で最強と呼ばれる魔王を殺せば、誰もがこいつに逆らえず、屈することになるのだから。


「お主の事は奴族させようと思っておったが、やめじゃ。我が直々に殺してやろう」


 そう言い、エラガントが放った闇魔法を俺は持っていた刀で斬り捨てた。それが戦闘の始まりだった。


‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋‎﹋


その戦いはおよそ1時間で終わった。

そこに立っていたのは自分…神倉桜だけだった。

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異世界では主人公だったけど、地球では違うようです 夢桜 カキ @kakinotanemoto2003

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