File.08 実践訓練
――ドドドドドドドドドドンッ
連続の、迷いのない銃声。
『オールクリア』
20発すべてを的中させたときにしか流れない音声と、Completeの文字がモニターに表示され、室内にいた全員の視線が北見に集まる。
「……これは驚いた」
・
・
・
「実戦訓練はしばらくの間、射撃訓練をする。」
朝、射撃訓練用の円形のトレーニングルームに集められたミナトたち4人は、それぞれの教育係から指示を受けていた。荒谷の教育係は櫻庭になったようだ。そして北見の教育係は、6期の「
「この銃はうちの技術班がmessengerの任務のために作った特殊な銃で、間違っても相手を殺すことがないように殺傷能力が通常の3分の1しかないんだ。それに、自動照準調節機能が付いてるから、静止してる物体を狙う分には誰でも当るようになってる。ほら」
瀬名さんが銃を握った右手をにあげ、僕ら2人の方を見たまま引き金を引く。
―――ドンッ
発砲した方向を見ると、壁に示されたポイントに正確に当っている。
「こんなふうに、見なくてもあたるようになってる」
瀬名が銃にロックをかけながら、「ただし」と続ける。
「任務では常にこっちも動きながらだし、静止したものをねらう状況なんてほぼないといっていい。最終的には動きながら、動いてる物体をねらえるようになってもらう。今日は最初だから、射撃地点は固定で、動いている物体を正確にねらう練習をしよう」
ミナトは初日のテストを思い出した。確かに襲撃者を目の前に悠長にねらいを定めている時間はない。しかも、殺傷能力が低いといっても当たり所が悪ければ命を落とす可能性もある。射撃の正確さはmessengerの必須条件だ。
「最初は結構難しいと思うけど、レベル1番下げとくから頑張ってみて」
「「はい」」
「試しに一回やってみようか」
構え方など基本的なことを説明した後、瀬名は部屋の射撃練習用装置を起動させる。するとゆるやかに動く、こぶしサイズのポイントが全部で20、正面の壁に時間差でランダムに出てきた。
――これで1番下のレベルなのか?思ったよりも難しい。
最初の挑戦で、連続で当てることができたのは、僕が2回、ヒイロが3回のみだった。僕の目の前のホログラムに、「××〇×〇××〇××〇××〇××〇――40%」という的中率が表示される。
「うん、最初はそんなものだから大丈夫。すぐ慣れる。今日はそうだな、3セットを10発連続で当てられるようになったら終わっていい」
―――10発連続を3回?!道のり長っ!!
最初だから、といいつつさらっと厳しいことを要求してくる瀬名さん。
ミナトは、終われるのかどうか不安になった。
そのとき。
よどみのない銃声と、『オールクリア』の音声。
北見が、すべての的に的中させた音だった。的中を示す〇が、ホロに20こ並んでいる。
「え……北見???」
信じられない、という顔の荒谷。きっと僕も同じ表情をしているのだろう。
櫻庭がヒュッと口笛を吹く。
「……これは驚いた。君やるね」
北見の教育係、日下部も心底驚いた顔をしている。そして妙に納得した顔で「なるほどな、だから上は俺をつけたのね」とつぶやいたのは、隣にいた北見にしか聞こえていない。
「すごいな。彼にコツ聞きながらやるといい。報告は17時以降に来てくれ」
そう言って、瀬名さんは部屋を出て行った。
教育係の先輩たちが全員、トレーニングルームを出て行くと、北見の回りにワッと3人が集まる。
「なんでできんの!?」
「おまえすげぇな!なんかやってたのか?」
「コツとかある?」
ミナト、荒谷、ヒイロの3人に矢次ぎに質問されて、たじろぐ北見。
「えっとたぶん、僕シューティングゲームとかよくやってたから……かな?」
……そういう問題かな。
・
・
・
昼の休憩を挟んで1発目。
「あ。できた」
隣でつぶやいたのはヒイロだ。見ると、10回連続を3セット達成している。的中率は90%。
「え……そんなさらっと達成されるとへこむんだけど」
とぼやきつつも、僕はヒイロの要領の良さに心底感心する。
昼休憩を終えて1時間が過ぎた頃から、集中力が切れてくる。昨日の訓練の筋肉痛もなかなかひどく、銃を構えた腕が痛む。ミナトは1回だけ、10回連続で当てることができ、的中率は70%まで上がっていたが、そこまでだった。連続、というのが難しく、3セット当てるにはほど遠い。荒谷も似たようなものだった。
北見はいうと、ミナトたちより5つレベルを上げて、より早く動く的での10回連続3セットに挑戦していた。しかももう少しでできそうだ。
「俺昨日の訓練の方が楽だ……」休憩中にぼそっとつぶやく荒谷。心なしか元気がない。確かに荒谷は集中力が求められる射撃訓練より、ひたすら体を動かす方が得意そうだ。
「で、できた――――!!」
ミナトと荒谷は結局、そこから4時間後にノルマをクリアした。2人は飛び上がって喜んだ。ヒイロと北見が根気強くつきあってくれたおかげだ。かれこれ、10時間以上やっていたことになる。
「お疲れ様。……神崎が92%、城川が81%か。初日としては悪くない」
報告に行くと、瀬名さんが記録に目を通しながら簡単にアドバイスをくれた。
「まだまだ序盤だからね。今日のノルマは最低ライン。静止した状態なら的中率100%まで持って行かないと、任務には出せない」
「……頑張ります」
まだまだ道のりは長そうだ。
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