赤い風船

遠野麻子

赤い風船

 とある自転車置き場での話。

 駅前にあるその自転車置き場は、 預けた時に番号札を管理人さんから受け取り、返してもらう時にはそれを渡して、奥から持ってきてもらうシステム。


 私が自分の自転車を待っていたときのことです。

 風船を持った3~4歳くらいの女の子とスーパーの袋をいくつも持った母親が来ました。

 入り口で、「風船から手を離しちゃダメよ」と念を押して自転車を受け取りに行く母親。


 ダメと言われればやってしまうのが子供です。

 母親が自転車受け取りの手続きを始めると、子供は風船から手を離してしまいました。


 フワフワ飛んでいく風船。


 とっさに掴もうとしましたが、間に合いませんでした。

 そこに母親が戻ってきました。


「あぁー、手、離しちゃったの?」


 そう聞く母親。


 その後にはきっと「だからダメっていったでしょ」とか「もう風船は買ってあげないからね」だ とかの言葉が続き、子供は大泣きするんだろうとその風景を眺めていました。


 でも、ちょっと違いました。


「あぁ!あんなに高くまで飛んでるねぇ!」


 楽しそうに母親は空を仰ぎます。


「さぁ!追いかけよう!乗って乗って!」


 と子供を自転車のチャイルドシートに座らせました。

 子供は泣くどころかおおはしゃぎです。

 そんなこんなで私の自転車がやってきました。


 私も二人の後に続きます。


「見えなくなったねぇ。どこまで行ったかなぁ」


 と話しながら進んでいく親子。


 そんな会話を聞いていると、気持良さそうに空を飛びながら

 親子を見守る赤い風船が見えるような気がしました。


 あれから約10年。

 あの子は中学生くらいにはなったかな。

 きっと素直ないい子に育ってると思います。


 おかあさん、あの時のあの優しい風景は今も私の心に残っています。

 私もあの風船に今も見守られているような、そんな気がするのです。

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赤い風船 遠野麻子 @Tonoasako

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