破滅の呪文[Ruin]β版

黒畜

プロローグ

 桐生 司は自室で止まると死んでしまう回遊魚のように、落ち着きなく歩き回っていた。

 時折、嘆息ともにソファに座ってはスマホを見る。三十分以上はそれを繰り返した。


『帰ってきてくれ』


 司がLINEにうった短いメッセージは既読にならずに一時間が経とうとしている。

 画面をフリックして、浮気御用達アプリと別名をとるSNSを表示し、一時間前にやり取りしていたメッセージを開く。


『妻を返してくれ』

『もう、終わりにしてくれ』


 司が送ったメッセージに対し『了解です』と返信があったきり動きはない。

 日付けが変わった今、妻が帰る交通手段は車しかない。何時ぞやに見てしまったように送ってもらうのだろうか?

 地獄だ、と司は思った。自業自得とはいえ、ここに至って深い後悔と焦燥感に司は身悶える。

 いや、地獄はこれからなのだ。

 司の妻が帰ってきて終わりではない。

 終わりの始まりでさえない、始まりの終わりだろう。


 ピコン。

 通知が届くと同時に表示されたメッセージ。

 差出人の名前は研二とあった。


『いま、送りました』


 続けてメッセージが届く。


『これが最後だと思ったら名残惜しくて、帰り際に一回しちゃいました‪w』


『あとは夫婦で話し合ってくださいねー』


 司は苦々し気に顔を歪め、アプリを終了させLINEを表示する。

 妻に送ったメッセージは既読が付いていたが、返信はなかった。


 ガチャリ。

 ドアが開いた音が静寂を破った。



 ━━━━━━━━━━━━━━━


 淡々と進行します。

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