【序章】Antinomy―六芒星の彼方―

赤蜻蛉

――――――零―――――― 


ガキの頃から、他人ひとには見えないものが見えた。


恨み言をぼやきながらいつまでもこの世から離れられない、

いわゆる「怨霊おんりょう」ってやつ。

それから明らかにこの世のものじゃない、

異形いぎょうな―――

「物の怪」って言えばいいの?


とにかくは至る所にいた。

風景の一部のように、常にそこに在った。

逆になんで見えないのか、鈍すぎるんじゃないかと思うくらい、俺にとっては身近な存在だった。


世間では「見える」ことは異常らしいが、俺のまわりでは日常だった。

だって俺の家は、代々だったから。


陰陽師おんみょうじ”って聞いたことあるだろ。

そう、俺の家は、平安から続く陰陽師の家系だ。

親父おやじが現当主で、現役の陰陽師をしている。

占術で吉凶きっきょうを占ったり、人間に害を為す霊や物の怪のたぐいを祓うのが仕事だ。

まあ、現代いまでは後者がほとんどだが。


家に出入りする親父の仕事関係者も、当然のある連中だったから、俺は小学校にあがるまで、見えることが全人類のスタンダードだと思っていたくらいだ。




陰陽師っていえば、やっぱ真っ先に思い浮かぶのは、安倍晴明あべのせいめいだろ。

俺の祖先はなんとあの清明――と言いたいとこだが清明ではなく、

清明のライバルとして知られる、あいつだ。



蘆屋道満あしやどうまん

非官人ひかんじんの陰陽師にして、清明と並ぶ実力者。

――正義の清明、悪の道満。

清明も道満もいろんな映画やゲームなんかのモデルになっているが、道満の名は悪名あくみょう名高い。

諸説アリだが、清明と三日三晩闘って負けたんだとか。

残念なことに、俺はその蘆屋道満の直系らしい。

よりによってそっちかよ。

同じ陰陽師なら、どうせなら清明の方がよかった。




ところでこの俺――蘆屋圭一郎あしやけいいちろうが、この世で1番嫌いなものは、陰陽師だ。

だって、信じらんないよな。

この現代に、科学的には証明できない力で、普通の人には見えないモノを祓うことで生計を立ててるんだぜ?

陰陽師なんて胡散臭うさんくさい連中に、依頼する方もどうかしてると思うが。



好きで蘆屋の家に生まれたわけじゃないのに、俺が後を継ぐことになってんも気にくわねぇ。

陰陽師はある程度、生まれ持った「」が必要らしいが、不幸にも俺はその素質を備えているらしい。6歳になる妹は全く見えず、生まれてきたから、後を継げるとしたら俺しかいないんだそうだ。




俺は陰陽師と同じくらいに、学校という場所も好きになれなかった。

他の人には見えないモノが見えること。

家柄が特殊なこと。

生まれつきある、顔のアザ。

周囲まわりから浮く理由はいくらでもあった。


俺はいつしか、学校をサボったり、抜け出したりするようになった。

他校の不良連中と揉めて、一発お見舞いしてやったこともある。

気づいたら、ここらで有名な不良になっていた。


まぁ、簡単に言うとグレたって事だ。



――繰り返しになるが、俺は陰陽師が嫌いだ。

生まれ持ったこのが嫌いだ。

霊や物の怪が見えたって、何一ついい事なんてありゃしねぇ。

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