君の大切なひと
山川ぼっか
前編 先生の優しさ。
「皆さんに、質問です。彼を虐めたのはだれですか。正直に出てきなさい」
そう言って「僕がやりました」と出てくるものがいるわけがない。ましてやいじめられている本人である僕が同じ空間にいるのにも関わらず。
「私は皆さんがそういうことをする人たちではないと信じたいです。ですが、実際にやられたという被害が出ているのです。私はもちろん、いじめられてしまった本人である子も守らないといけません。でも、いま出てくれば、虐めた子もしっかりと先生は守ります! だから…素直になって…!」
彼女の言っていることはよくわからない。きっとみんなにとっていい先生でありたいという仮面をかぶったまま、守るとかなんとか言っているのだろう。僕からしたら早くこの地獄のような空間から開放してもらいたい。
「わかりました。ここで手を上げたら公開処刑になってしまいますものね。明日以降、私に直接、こっそりでいいので申告してきてください。それでいいですね? それなら誰かもザワつかないですからね? では、今日のホームルームを終わります。委員長、挨拶」
「き、起立っ。気をつけ、礼。さよなら」
地獄のような
「おいおい、ぼくぅ? 先生に言っちゃたんだ。俺らにいじめられてるってこと。普通、言っちゃだめなことくらいわかんねーかな。ってかあいつも馬鹿だよな。あの場面で俺がやりましたって言う馬鹿なんていねぇつーの。あのババァが一番馬鹿だよな。思い出したらむしゃくしゃしてきた。おりゃっ!」
溝を一発殴られる。日に日に痛みを感じなくなってきている。殴られ続けていると慣れてきたのだろうか。良くない慣れだ。
何人もの男子が僕を囲って殴ったり罵声を浴びせたりをしてくる。これを教室でやってくるのに、誰も気づかない教師陣にも責任があると思う。ここで、助けてくれるような先生だったら良かったのかな…。
そんなことを考えながら無心で殴られていると、扉が開く音が聞こえてくる。
「あ、あなた達! なにをしているの!!」
「あ、やべっ、ババァが来たぞ!!」
「まちなさい!!!…って大丈夫?」
「せ、先生…?」
「そう、先生よ。どこか痛いところない? あ、今すぐに保健室に連れて行ってあげるから!」
そういうと、先生は意識が朦朧とする俺を肩に引っ掛けて保健室へと連れて行く。体格差もあり、足がずっと引きずってしまっていたが助けてもらえて少し嬉しかった。
そのまま保健室のベットへと俺は横にしてもらい休む。
「ごめんね…。もっと私が早く来ていれば。。いや、私があんな方法でみんなに聞かなかったら今日はなかったかもしれないのに…」
「そうですよ、先生。俺がチクったって思われちゃいますから。。あのやり方はだめっすよ」
「やっぱりそうだよね、私、先生失格だ…」
先生はうつ向き、涙を流しながら話す。
「本当はね、こういうのを未然に防がないといけないし、あったとしてももっと早く気づいてあげなきゃいけなかったのに。君は絶対に私が守るからね…って軽々しく言えないよね…。」
「そんなことないっす、俺。今日先生が来てくれたからこれだけで済んでいるので。嬉しいし、今度も守って欲しいっすよ。ってかそれが先生の役割っしょ」
「本当? こんな私でも全然頼ってくれていいからね。絶対に君は私が守るから」
頼りのない先生だと俺は思っていたが、そういうわけではなかったみたいだ。ちょっと抜けているだけで生徒思いのすごくいい先生なのだと感じた。しかし、殴られていた時は感じなかったが今日は痛みが引かない。今日は当たりところが悪かったようで時間が経てば経つほど、顔を引きつってしまうほど痛みが続いている。
「すごく痛そうにしているね。そうだ、痛み止めがあるはずだから飲もっか。少しは痛みが治まると思うよ」
先生は痛み止めと飲むための水を用意してくれ、俺はそれを飲む。徐々に眠気が襲ってくる。きっと副作用なのだろう。
「眠くなってきたかな? 大丈夫、先生がいるから安心して寝ていいからね」
俺は先生の言葉に甘える、というよりも眠気に勝てず寝てしまっていた。
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