ようこそ、金魚荘へ ー 2 ー
母に札束の入った封筒を渡された後、なんとか追放を回避しようと奮闘したが、努力もむなしく私は今車に揺られている………。
「ねぇ、母さん。その、金魚荘ってのはどんな所なの………?」
「あぁ……お母さんの知り合いの息子さんが管理人をやってるアパートでね。
実は、それ以外のことはお母さんも知らないのよ」
「やっぱり帰るぅぅぅ………!」
なんて母親だ!よく知らない所に一人娘を放り込むだなんて!!
まぁ、確かに私は今まで好き勝手に、怠惰に生きてきたけれども………。
だからって、こんな強引な方法で彼女が望むような「仕事も趣味も恋もとっても楽しくて、充実した毎日を送ってます!きゃぴ!」なんてことになるわけがないのだ。自分のことは、自分が一番理解しているから。
そんなことを考えている間に、車は鬱蒼とした雑木林に侵入していく。
普段から車が通ってはいるのだろう、道がならされており、タイヤ跡には雑草が生えていない。
辺りは見渡す限り緑、緑、緑一色。ぼんやり外を眺めている私の視界を、度々黒い物体が横切っていくのは……恐らく虫だろう。
年に一度見るか見ないかの頻度で家に現れては一瞬にして空気を凍らせ、恐怖のどん底に突き落とす茶色いあの子は勿論のこと、ダンゴムシでさえ触れる事は躊躇われるのに、私はこんな所で生きていけるのだろうか………。
ーーーそもそも、ここに電波はきているのか?
慌ててリュックから、先日買い替えたばかりの薄紫色のスマートフォンを取り出して、電波の状態を確認する。
そこにはいつもと変わりなく通信中の表示があり、深く安堵のため息をつく。
どれくらい奥へ進んだのだろうかと、後ろを振り返る。
……なんだ、入口見えてるじゃん。
「ほら、着いたわよ」
そこには、私が想像していたのとは少し違う光景が広がっていた。
リナリアを君に 夜 @manju_loop
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