第48話 外伝◆暗黒竜その9

◆メキカ帝国

帝都 (旧カイオス王都)

叡知の塔 現在


「あれから30年以上たったのに、本当にモモ様は変わらないですね」


「それは、言ってほしくないわね」

アメリアに言われ、ため息をついたモモ。

人離れを指摘されるのは、精神的ダメージが大きい。


「取り敢えず、いま立ち上げている電力会社が軌道にノリ次第、コンプレッサーの開発にはいりますね。でも、ほんとに汎用性が広い。十年前の電球やタービン、電池は、まだまだやっと量産化に成功したばかり。コンプレッサーは、次の十年で開発出来れば、私の在任中に出来るでしょうけど、少し厳しいかもしれません」

設計図を見ながら、お茶に手を伸ばすアメリア。


「そうね。試作品は、早い段階で出来るでしょうけど、量産化までとなると、基礎技術の蓄積が必要なるわ。その流れだと、貴女の後継者との折衝になりそうね」


「まだ、後継者は決めてはいませんが、そろそろ検討が必要ですね」


アメリアの言葉に、また、顔が曇るモモ。

「貴女も何時か、私を置いていってしまうのね。マリアのように」


「まだまだ先の話しです。私、まだ38ですよ?そんなに、年を取った様に見えます?酷いです。モモ様!」

唇を尖らせて、抗議するアメリア。


「ごめんなさい。失礼だったわ。マリアとは、結構長い付き合いだったから、貴女との交代がまだ受け入れられてないみたい。悪かったわ」


モモは、一年前にマリアが死去して以来、ずっと黒いドレスで過ごしている。


モモにとって、マリアは初代メヌエット会長、リンレイに次ぐ心を許せた人間だった。

そして、それはまた、一人、モモを人間として見てくれていた、身近な人との別れでもあったのだ。


モモは愛想笑いをすると、一息してから、お茶を取った。


そのモモの一挙一動を、目で追いながら羨望の眼差しで見るアメリア。

黒いロングドレスに、腰下まである艶のある黒髪が映えて、その姿は、まるで夜の女王の様だ。


おそらく、この世界で黒髪は、この人とメアリーだけ。



だからと言うわけではないが、アメリアは思う。

この人はもしかすると、本当に女神なのではないのだろうか。


おそらくこの人は、この世界の始まりから生きていて、世界が終わるまで生きていくのだろう。


私達は、この人にとってただの幻に過ぎないのかもしれない。

だからこの人は、特定の人物以外、その心の全てを明かさないのだろう。


幻にいくら思い入れをしても、それは虚しい事だからだ。

何故なら幻はいつか、消えてしまうものだからだ。



「アメリア、今日は貴女が来てくれて、楽しかったわ。また次回も、私の道楽に付き合ってちょうだい」

モモは、ニッコリとアメリアに笑いかけた。

それを見たアメリア、やや顔が赤い。


「い、いえ、こちらこそ、いつも時代をリードする最先端の技術に携わる機会を与えて下さり、有り難う御座います。今後も、メヌエット商会は、モモ様と共に有る事をお誓い申し上げます」

少し、恍惚な表情のアメリア。

モモに、深くお辞儀をした。


薄笑いで頷いた、モモ。

また、お茶に口をつける。



二人の会話を、ずっと横で見ていたメアリー。

二人の関係は、まるで教祖と信者の様だと思う。


前任のマリアの事は、会った事がないのでわからないが、おそらく、アメリアとは違う関係だったのではないか。


何故なら、モモはアメリアとの会話で、普段、メアリーに話しかける一人称を、一度も使った事がないからだ。


黒いドレスを着込んで、喪に服する程の思い入れのマリア。

きっと亡くなった彼女は、モモにとって心から信頼出来る友人だったに違いない。



こうして、アメリアとの話し合いが終わり、その日の午後、アメリアは、ガルガ王国に帰って行った。


◆◆◆


「メアリー、悪いけど今日は、もう、一人になりたい。いいかな?」


アメリアを見送った後、部屋に戻ってからずっと窓の外の景色を眺めていたモモ。

振り返ると、メアリーに言った。


「分かりました。では、今日は私は一旦、王宮に戻りますね」

メアリーは、モモが頷いたのを見ると、カーテシーをして退席した。


メアリーが部屋のドアを閉め、エレベーターの音が鳴りや無まで、窓から町を見ていたモモ。



しばらくして、何もない部屋の隅を見て、話し出す。



「それじゃ、話しを始めよか。暗黒竜」

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