第47話 外伝◆暗黒竜その8

◆メキカ帝国 32年前

アメリア視点


叡知の塔


塔の最上階からの眺めは帝都を一望し、帝城までまったく遮るもの無く見ることが出来た。


マリアさんが、私を前に誘って紹介する。

「この子が、メヌエット商会の後継者に推す予定のアメリアです。アメリア、挨拶を」


「アメリアと申します。先ほどは、助けて頂き有り難うございました」

私がお辞儀すると、黒髪の女性は同じようにお辞儀してきた?!


え、高貴な方だよね?

貴族以上の方々は、決して平民なんかにお辞儀なんてしないのに、この方は、自然体でのお辞儀で違和感無いんだけど?


「モモと言います。宜しくお願いしますね、お嬢さん」

「は、はい、宜しくお願いします」

なんか緊張していたけど、あまり怖くない?

なんか、近所のお姉さんみたいな感じ。

調子狂うな。


ん?私をじっと見てる?

どうしたのかな?なんか、失礼があったかな?!


「懐かしいですね、マリア。貴女と最初にあった時と変わらない」

「ああ、お恥ずかしい。あの頃は、私も子供でまだ、何もわからない時期でしたから、かなり失礼な応対でした」

マリアさん、顔を赤らめて手で顔の頬を押さえてる。


あれ?今の会話、なんかおかしい?

マリアさんが、子供の時にこの方に会った様な話しだった?

え?マリアさん、今60歳だよ?


だって目の前の人、どう見ても20歳前後、下手したら、10台後半だよ?

マリアさんが私と同じ歳で会ったのなら、最低でも50年以前の話しになる。

あり得ない。


「ところで、の件だけど」

モモ様が、あの❪黒い棒❫を出してきた。

あの魔法の武器だ、何の話しだろう?


「護身用に商会に作って貰ったけど、設計図や内容説明は」

モモ様、俯きながら確認する様に話した。


「はい、間違いなく、私の手で焼却処分いたしました。世に出る事はありません」

マリアさんが言った。

設計図を焼却処分?商会が関わってるの?


「良かった。これはまだ、世に出るのは早すぎますから。出来れば、誰も考えつかなければいいけど、恐らく無理ね。この世界も、いずれ私の世界に追いつく事になるのかしら」

モモ様は、何だか悲しそうな顔をした。


私の世界?

何の事?意味が分からない。

まるでモモ様は、別の世界から来たみたいな話し方だ。

どういう事だろう?


「無理やり家族と引き離され、この世界に呼び寄せられた挙げ句、その様なお姿で長い年月をお一人で過ごされる。さぞや、お寂しいでしょう」

「…いいえ、その事にはもう、区切りはつけております。それに、一人ではない。私の子孫達がいますから」

マリアさんの言葉に、モモ様は寂しそうに微笑んだ。


この人の目、まるで愛する人を何度も見送ったような遠い目をされている。

ずいぶん、悲しい事があったのだろうか?

は?!子孫って何?


その後、モモ様とマリアさんは、私が分からないような事を沢山話していた。

そして、あっという間に時間が過ぎ、帰る時間になっていた。



塔の出口での挨拶で、モモ様はしゃがんで私に言った。

「貴女とは、きっと長い付き合いになる予感がするの。これからも、どうか宜しくね」


「は、はい。こちらこそ、末長く宜しくお願いします」

こうして、モモ様との始めての顔合わせは終わった。


でも、私はまだこの時点でモモ様の本当の言葉の意味を、理解してはいなかった。



◆◆◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



帝国中央駅


また、塔を守る騎士達に見送られ私達は帰路に就いた。


マリアさんが言った。

「アメリア、良かったわね。あの方に認めていただけた様だわ。でも、本当に長い付き合いになるから、覚悟しておきなさい」


「は、はい。あの、一つ質問してもよいでしょうか?」

私は、おずおずとマリアさんに聞いた。


「どんな質問かしら?」


「メヌエット商会は、いつ頃からあの方とお付き合いをされているのですか?」



マリアさんは少し間をおいた後、私の目を見つめて言った。

「あの方との商会の付き合いは、初代会長リンレイさんからになりますね」


私は、しばらく言葉が出なかった。

商会の初代会長といえば、200年近く前の人物だ。




その日、私は確信した。

あの方は、人ではなく女神さまなのだと。


❪黒髪の女神❫様なのだと。

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