第45話 外伝◆暗黒竜その6

◆ガルガ王国 32年前

アメリア視点


王都 黒髪の女神駅


ボォーーッ、ガシュッンッ、ガシュ、ガシュ、カシューッ、ガチャン


汽車が発車した。

景色が後ろに流れる。

私は、車窓の虜になった。

馬車で3日以上かかるメキカ帝国帝都まで、僅か1日で着ける。

凄い時代になったものだ。


「この汽車の開通は、帝国との貿易において大きな力になるでしょう。ガルガは今後、開発の遅れている北部まで線路を伸ばします。そうなれば、物資の輸送や人の流れが活発化し、さらなる経済の発展が期待できる。うちの紡績工場もフル稼働になるでしょう」


対面の座席から私に説明するマリアさん、経済の事はよく分からないけど、メヌエット商会がぼうせき?工場なる物を所有している事は、分かる。


ガラガラッ、私達が乗る二等車両に、前から一人の紳士がやって来た?


すでに汽車は走っているのだから、ワザワザ一等車両から移って来た事になる。

紳士は、私達が座る座席まで来ると、立ち止まって言った。


「相席、宜しいかな?」

「ええ、どうぞ。空いてます」

マリアさんが返答した。


基本、汽車の座席数は限られる為、相席を断れない。

紳士は、お辞儀して私の橫に座る。

私は、緊張でカチンコチンに固まった。


「娘さん、と帝都まで行かれるのかな?」

紳士は、マリアさんに聞いた。


「ええ、親戚の叔母の家に挨拶に行くところですの」

マリアさんは、紳士に合わせて急ごしらえの作話を話しているようだ。


「そうでしたか、か弱い女性と幼い娘さんとの長旅。さぞ心細いと思いましたが、向こうに縁者がいるなら安心ですな」

「はい、予定時刻に駅まで迎えに来て頂く事になっておりますの」


「なるほど、それは有難いですな」

「まったく、ほほほほっ」

マリアさんは、普段の喋りではない演技の話術で紳士と話している。

まあ、会う予定の方が貴族ならば、道連れとはいえ、情報は秘匿するのがセオリーか。


私は、見上げて紳士を見た。

髭を蓄えた40代くらいか、片眼鏡を付けている。

まあ、其れなりの小綺麗な紳士だ。

やはり、貴族っぽい。


けれど、おかしい。

ならば、何故、発車してから二等車両に移って来た?

それも、最初から私達の座席を目指て来たみたいな??!


一瞬、紳士が私を見た。




?!


こ、この人、断じて貴族ではない!

もちろん、平民の金持ちでも、没落貴族でもない。

まるで人を殺せる様な、鋭い眼光!


怖い、何かを狙ってる?

うう、逃げ出したい。

?!


私が恐怖でガタガタ震えていると、マリアさんが私に手を伸ばしてニッコリした。

「ほら、私の橫にお出でなさいな。景色がよく見えますよ」


私はマリアさんに引かれ、マリアさんの座席の窓際に座った。

マリアさんは、そのまま私の左手を握り、俯いて静かに座っている。


マリアさんの手から、マリアさんの温かさが伝わる。

まるで私が怯えているのが、分かったみたいだ。

お陰で私の恐怖は和らぎ、落ち着いた。


結局、紳士は暫くすると、お辞儀をして一等車両に戻っていった。


私が安堵していると、一等車両の方を睨みながらマリアさんが言った。

「不味いわね、確認された様だわ」

「確認?」


「……あなたは気にしないでいいわ」

「?」



その後、マリアさんは帝都に到着するまで、まったく喋らなかった。



◆◆◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



◆帝都中央駅


ガシューッ、ガシュ、ガシューッ

汽車は、定刻の1時間遅れの翌朝11時に、帝都中央駅に到着した。


「しっかりなさいな、これくらいでへばっては、商会を継げませんよ」

「は、はい」

私は今、ふらふらだ。


正直、眠い。

あれから慣れない汽車の揺れや、あの鋭い眼光を思いだし、一睡も出来なかった。

マリアさんは普通に座ったまま、眠っていた。

さすがに、旅慣れている。


「どうやら、迎えが来たようです。待たせてはいけませんので、行きますよ」

「は、はい。大丈夫です」

見ると、駅出口の階段下に質素に見える馬車が止まっている。


え?!

待っているのは、帝国騎士?

なんで、騎士がいるの?


私は疑問に思いながらも、階段を早歩きで降りるマリアさんの後についていく。


「お待たせしました。汽車が定刻より遅れ、この時間になり、申し訳ございません」

マリアさんがお辞儀をしたので、私も合わせた。


騎士は三人。

マリアさんのお辞儀に頷くと、馬車に案内され乗車した。

こういった事は、執事か御者のする事だが、それを騎士にやらせてる平民、不敬に当たらないだろうか?


私は、マリアさんをチラっと見る。

なんか自然体で、緊張の欠片も感じない。

まあ、いいか。

誰に会いに来たのか、知らない自分がやきもきしても始まらない。


ただ、騎士がいるという事は、相手は帝国絡みの人物という事。

一介の商会長、それも他国の平民がよく帝国の関係者に会うことが出来るものだ。


本当にマリア会長は、底が知れない。


間もなく馬車は出発し、平民街の方に向かっていく。

平民街?そんなところに、帝国の関連施設があるのだろうか?


だが、そんな私の杞憂はすぐに吹き飛んだ。


「あれが、目的地です。私達はこれから、あの塔の主に会う事になります」

マリアさんが指差した先に、それはあった。



信じられない高さ、80メートルはあるだろうか?

巾は、下部で50メートルくらいか。

奇抜で外から見るには、素敵な外観だ。



だが、住む家というより、何かの施設なんだろうか?

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