第31話 お香?
なんて事だ。
まだ、たった10歳で死ぬ?
もっとこれから、いろんな事を経験する事もできずに?
もっと、世界を見て回ったり、楽しい事や、うれしい事が経験できるはずの歳で死ぬ?
そんな理不尽、あっていいのか?!
リンゴちゃんは、衣服を直すとおれに言った。
「だから、モモお姉さま、私の夢を叶えて下さいませ」
「おれに、出来ることであれば、何でも叶えるよ」
「はい、モモお姉さまにしか出来ないんです。どうか、私にお二人のお子を抱かせて下さい」
「お香?二人でお香を作って、リンゴちゃんに抱かせればよいの?ん?二人って、もう一人は誰だ?」
「いやですわモモお姉さま、ベルンお兄様に決まってますわ。こほっ」
「ベルン?でも、おれが一緒に作っていいのか?」
お香だったら、リンゴちゃんがいっしょに作った方が良くないか?
「モモお姉さましか、ベルンお兄様と一緒になれる方はいませんわ」
そうか、リンゴちゃんはベルンとおれの手作り品が欲しいのか。
よし、ここは一肌脱ぐか。
「わかった!必ず、ベルンと二人で作って抱かせにくるから、任せてくれ」
「うれしい、メリダお姉さま、証人ですよ?」
「勇者ちゃん?いや、モモさんか。そんな慌てて頑張ってするものでもないが、今は頼む。六の、いや、リンゴ姫の願いを叶えてやってほしい」
確かにお香作りは、慌てて頑張って作るものでもないが、メリダさん?何故に顔を赤らめる?
その日、リンゴちゃんは危機的状況は脱して容態は安定した。
ベルンも帰らず、結局、その日はお香を作る事を約束して終わった。
次の日、おれは検索を使ってメリダさんの為に義足と車椅子の設計図を検索、羊皮紙に書いてアーノルドさんに渡した。
内容に大変驚かれたが、さっそく鍛冶屋と家具職人に当たって見るとの事だ。
あとで、スポーツ義足も書いて渡そうと思う。
それと、動物がほとんど居なくなったカイオスでは、羊皮紙はもはや貴重品だ。
なので大量に何故か生えた、サトウキビを利用したバカス紙の作り方も書き出して渡した。(パピルス紙製法)
その過程で、サトウキビから砂糖が採れる事がまだ理解されていなかったので、むしろそちらの方が驚かれたが。
この世界、砂糖は貴重品だった。
これで砂糖生産が始まれば、バカス紙の生産と合わせてカイオスの貴重な外貨獲得手段に成りうる。
最貧国から脱する力になるだろう。
リンゴちゃんの病については、検索は全く使えなかった。
現代医療を以ってしても、リンゴちゃんの症例はなく、全くの未知の病だったからだ。
検索はあくまでも、スマホが過去に受けたデータ蓄積の中から検索しているに過ぎず、リンクしている訳ではない。
まして、この世界の情報は皆無だ。
所詮、おれのチートはこの程度、中途半端この上ない。
◇◇◇
バタンッ、「モモ、会いたかった!大丈夫か?!身体は?なんともないか?」
「?!ぎゃあああ、はなせーっ、抱き締めるなーっ、苦しーっ!!」
「勇者モモ様!」
「精霊モモどの!」
三人に代わるがわる抱きつかれたおれは、もみくちゃ状態で息も絶え絶えだ。
「お前ら、おれを押しくら饅頭で殺す気か?!」
「「「マンジュウってなんだ??!」」」
「そこからか………」
◇◇◇
三人プラス一人が帰還したのは、おれが城に到着してから五日後だった。
「もう、お前を痛めつけたガルガ王はいない」
「は?」
「そうです。世界の救世主にして、我が妃を傷つけたのです。当然の報いですよ、勇者モモ様」
「我が国の守り神であり、我が妃である精霊モモどのを害した罪、神罰がくだるは必然です」
いやいやいや、また、おれの二つ名が増えてない?世界の救世主とか、守り神とか、要らないんだけど!
しかし、そうか、あの野郎はもういないのか。
まあ、借りは返したから別に構わんけど?ん?そういえば、嘘っぱち騙し男子はどうしたんだ?
おれは、ベルンに聞いた。
「キラキラの片割れ、嘘っぱちはいるのか?」
「キラキラ?嘘っぱち?なんだ、それは?」
「あ~って、カイエン?」
「弟か?、今、メリダのところだ」
はは~ん、さては、メリダさんに大目玉を食らってるな?自業自得だからな。
そうだ!
「ベルン!おれ、リンゴちゃんにお前と一緒にお香を作って渡す約束をしたんだ」
「!お前、お子って、本当にいいのか?!」
「あ、ああ?いいよ?」
なんだ?、ベルンが真っ赤になって?お香をおれと作るのがそんなに恥ずかしいのか?
仕方ない、なら、手伝いを増やすか。
「おい、お前ら二人も一緒に作ろう。人手は多い方がいいだろう?」
「な?!」
なんだ?ベルンが呆気にとられた顔をして?
「勇者モモ様?!本当によろしいので?」
「精霊モモどの、その、お体の方は大丈夫ですか?初めてですよね?」
なんだ?二人も真っ赤になって、急にドキマキと落ち着きがない?
「初めても、初めて。一度も触れた事もないんだよ、はは」
は?おい、お前ら、なんでそんなビックリした顔をしてんだ?おれ、変な事を言ったか?
「その、いまさらですが、やはり、こういう事は、もっと心を通わせてからの方が良いと思うのですが」
ストーカーが、なんかもじもじしながらおれに言ったな。
心か、そうだよな。
やはり、心を込めてリンゴちゃんに愛してもらえる物を作ろう。
「そうだよな、ん、わかった。心から愛してもらえるように頑張ってみる。だから、お前ら、手伝ってくれ」
おれは、なんか楽しくなってニッコリ微笑んだ。
だって、誰かと共同で誰かの為に何か作るなんて随分久しぶりだからだ。
「「「?!!」」」
なんだ?三人がまた、真っ赤だ。
なにがそんなに恥ずかしいんだ?
「もう、止まらんからな。いいか?」
ベルンが真剣な眼差しで、おれを見てくるんだが?なんで?
「ああ、構わない。時間が惜しい、出来るだけ早くしよう?」
はぁっ、ベルンがため息?なんだ?
「よし、大部屋の寝室を使う。いくぞ!」
「は?寝室を使うんだ?汚れたりしないかな?」
「構わん。俺たちが使うんだ。誰にも文句は言わせん」
「そ、そうか。よし、いこう!」
おい、三人共、何そんなにおれを、優しそうに見てんだ?
なんか、恥ずかしいんだが。
こうして、おれは三人と大部屋の寝室に入って行った。
キィッ、バタンッ
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