第450話 ヤベェヤツ

 レイ達が港湾都市カーベル郊外の屋敷に入った頃、同じジルトロ共和国内にある首都マネーベルからある一団がカーベルに向けて出発していた。


 その一団には志摩恭子とアイシャ、オリビアが一台の馬車に乗っており、その周囲を馬に騎乗したA等級冒険者パーティー『クルセイダー』の面々と、同じくA等級冒険者パーティー『ドラッケン』唯一の生き残りであるゲイルが護衛している。


 馬車の前方には旅の物資を積んだ荷馬車が先行し、それにはB等級冒険者パーティー『ホークアイ』の面々が乗り込んでいた。


「なんで俺らが……」

「仕方ないだろ。他に手掛かりが無いんだから」

「ジークとか言ったか? 今はあいつの情報しかないんだ。文句言うなよ」


「っていうか、なんで俺達が荷馬車なんだよ。斥候なんだから普通は騎馬だろ」

「馬をこれ以上調達できなかったんだからこれも仕方ないだろ。これでも色々手を回して苦労して手配したんだぞ?」

「せめて『クルセイダー』の連中と交換した方がいいんじゃないすかね? これじゃあ、襲われたら後ろの馬車は逃げられませんよ」


「最悪、荷馬車に敵を集中させてその隙に護衛対象を逃がすんだろう。俺達は囮だ。あのジークって野郎、言葉を濁しちゃいるが、誰かが襲って来る前提で隊列を組んでやがる。それもA等級の癖に戦う気が無ぇみたいだ。しくったかもな……」


「A等級が戦うのを避ける相手が襲って来るかもしれないのか……」


「「「……ヤベぇな」」」


「まあ、俺達も頼もしい戦力が増えたことだし」

「そうそう」

「頼りにしてますよ、ラルフさん」


「くっ、お前等……」


『ラルフハシナナイワ、ワタシガマモルモノ』


「「「ひゅー! 熱いねぇ~」」」


『ラルフガシンダラ、オマエラモコロス。ミンナコロス』


「「「ひゅ、ひゅー……」」」


 …


「しかし、本当なんですかね? カーベルに旦那達がいるって」


「レイの旦那の名前を出したんだ、嘘の可能性は低いだろう。オリビアもいたのは驚きだが、あの女がいるんだから旦那のことを知ってるって嘘ついてもいずれバレる。俺達を騙すのはいいが、旦那には通用しない」


「旦那のこと知ってて勝手に名前を使うバカがいるわけないですしね」


「でもまあ、それでも胡散臭いことは確かだ。護衛対象の黒髪の女も本部の要人ってことしか教えねぇし、レイの旦那のこともオリビアや護衛対象に言わないように釘を刺されたのは意味がわからん。それは旦那の指示だってんだから言われたとおりにするしかねぇんだが、信用はできないな。あんまり深く関わるととばっちり喰らいそうだ……」


「「「バッツさん、もうすでに深く関わってますけど……」」」


「くっ、言うな! 俺達に選択肢は無い。旦那達を探しにあっちこっち回るのは御免だ」


「確かに、近頃どこもキナ臭い感じがしますからね。魔導列車も警備が厳重になってるし、魔物の被害も増えてる。無暗に動き回ったらどんな面倒に巻き込まれるかわかったもんじゃないっすからね」


「そういうことだ」


(((これ以上、面倒を抱えるのはゴメンだ……)))


 …


 志摩恭子とアイシャを護衛するジーク達は、先の襲撃で失った護衛の補充をするべく、依頼元である本部への連絡を兼ねて、マネーベルの冒険者ギルドに立ち寄っていた。


 しかし、マネーベル支部には今回の護衛に耐えられる冒険者は見つからなかった。ジークとしては、戦闘に長けたA等級の冒険者パーティーが欲しかったのだが、腕利きは全員街を出ており、ジークの希望に沿う者はいなかった。


 本部に掛け合い、ギルドマスターであるイザベルに圧を掛けたところ、ジーク達に紹介されたのは、神聖国へ行き、空振りして帰って来たバッツ達『ホークアイ』だ。イザベルとしてはオブライオン王国国境周辺の情報収集の依頼を本部から受けていたこともあり、丁度良かったこともある。


 当初、バッツ達はその提案を断った。しかし、ジーク達の中にオリビアがいてバッツ達を知っていたこと、レイのことを知っていたことが決め手になり、護衛依頼を引き受けさせた。バッツがオリビアにレイの居場所を尋ねたことでバッツの目的を察したジークは、後に単独でバッツと接触し、レイ達がカーベルにいる情報を伝えて護衛を了承させたのだ。


 勿論、レイ達がカーベルにいることは志摩やオリビア、同じパーティーであるエミューは知らない。バッツ達『ホークアイ』の性質と信用度を聞いていたジークはその情報が漏れる可能性が低いと考え、レイの名を出す判断をした。



 ブツブツ文句を言いながら、不満そうな顔で作業するバッツ達だが、冒険者としての目から見ても、B等級なのが不思議なぐらいにその手際には文句が付けられない。それに加えて『S等級』の実力を知っている人間なら、再度『勇者』に襲われても囮以上の役目を果たすだろうとジークは考えていた。


(しかし、アイツ等マジで動きがいいな……緩んでるようで隙が無い。遠目から見ればただの商人が荷馬車を引いてるようにしか見えん。あれじゃあ、どんな野盗も舐めて襲って来るだろうな。あれはあれで理に適ってる。どうせ襲ってくるなら油断してくれた方が楽だもんな。見栄っ張りな新人共に見習わせたいぐらいだ。……最悪、始末することも頭に入れてたが、ありゃ簡単じゃないな。まあ、使徒様と関係ありそうだからそうなる事態は避けたいところだが……)


「ちょっと、ジーク! ジークってば!」


「ん? なんだい、エミューちゃん?」


「あのオッサン達、大丈夫なの?」


「大丈夫って? ああ見えてちゃんと仕事してるように見えるけど?」


「いや、あのラルフってヤツとか、金ぴかの戦槌と喋ってるし、ヤバイ奴らなんじゃないの? 斥候パーティーって聞いてたけどめちゃくちゃ目立ってんじゃん」


「まあ、確かにあいつだけちょっとオカシイな。目立ってるのはあの戦槌だけだけど、あいつら全員格好が地味過ぎて逆にあの戦槌だけ異様に目立ってるよなぁ~ というか、なんで冒険者、それも斥候が戦槌なんて背負ってんだか……」


 エミューは馬を寄せて更に小声でジークに話しかける。


「(それに、ゲイルのオッサンも大丈夫なの? なんだか思いつめちゃってる感じだよ?)」


「(パーティーが全滅したんだから仕方ないだろうな。俺も街に残れって言ったんだが(言ってないけど)、護衛依頼は続けるそうだ。……復讐でもしたいんだろうよ)」


「(気持ちは想像できるけど、あんなバケモノと二度と遭いたくないんだけど)」


「(俺だって遭いたくないね。でも、もしまた襲ってきたら、そん時はやる気満々のゲイルを置いて逃げればいいだろ? 俺達は助かるじゃないか~)」


「(クズ野郎っ!)」


「ハッハッハッ! まあ、あの『ホークアイ』は魔物討伐が専門じゃないみたいだからバケモン相手に期待はできないが、何事も無ければ十日ぐらいでカーベルに着くはずだ。俺達は元聖職者らしく、アリア様に旅の安全祈願でもしてようじゃないか」


「私はあんまり教会の記憶が無いんだけど?」



「……そうだったな」


 …


 数日後。


 遭遇した豚鬼の集団を、ラルフが『女鬼の戦槌メンヘラ』で蹴散らしていた。



「「「アイツ、ヤベェ奴じゃん!」」」

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