第378話 冒険者ギルド本部②
―『冒険者ギルド本部 屋上』―
冒険者ギルド本部の屋上では、本部に駐留していた複数の高等級冒険者パーティーの姿があった。
「おー おー たまんねーなっ!」
乱雑な金髪に緑眼。自信に満ちた精悍な顔つきと筋肉質で大柄な獅子獣人であるアレックスは、身の丈もある大剣を背中に二本背負い、屋根の淵に脚を掛けて
「目測で約三万。豚共が生意気にも隊列を組んでこちらに真っ直ぐ向かってきます」
アレックスの隣で冷静に進言するのは、同じ獅子獣人の女、ローザだ。アレックスの周囲にはローザの他に三人の獅子獣人が控えていた。
A等級冒険者パーティー『ネメア』。リーダーのアレックス以外は全て女性で構成された獅子獣人の冒険者パーティーだ。
「上からはテイマーを探してぶっ殺せ、だっけか~?」
「違います。テイマーを見つけても、豚共を殲滅するまで殺すな、です」
「ったく、面倒臭ぇな~ まっ、殺しちまったらしゃーねーってことで」
そう言って、アレックスは屋上から飛び降り、豚鬼の群れに突っ込んで行った。
「あー またですか…… 仕方ありません、皆さん行きますよ」
「「「は~い」」」
ローザは呆れたように呟き、他のメンバーを連れてアレックスの後に続いた。
…
「おいおい、『ネメア』の連中、行っちまったぞ?」
「上の話、聞いてたんか?」
「それより、ありゃ三万近くいるぞ? たった五人で突っ込んでバカだろ」
「相手の数も数えれねぇんだろ?」
五人全員が同じ赤錆色のローブと魔術師用の杖を携え、『ネメア』の様子に呆れていたのはA等級冒険者パーティー『アレイスター』。彼らはギルド幹部の指示通り、豚鬼の群れを静観し、新たな指示があるまで魔力を温存していた。
「あんな脳筋共なんか、放っとけ」
リーダーであるロブは、接近する豚鬼の大群に対して、殲滅に適した魔法と必要魔力を計算する。
(……こりゃ、無理だな)
…
「どうすんの、ジーク?」
「んー 何が~?」
「何がって、あの獣人達、突っ込んじゃったよ?」
「エミューちゃ~ん、オレ達の仕事は外壁を登ってくる豚を始末するだけだよ? 突っ込むのは女のアソコだけだっつーの」
軽装の剣士、ジークは、獣人達には興味無さそうに卑猥な言葉を女に返す。
「そー そー 俺も突っ込むなら豚なんかより女だな~」
「ギャッハッハッ 確かに!」
その後ろから軽薄そうな男達が寝そべりながらジークに同意する。
「一匹いくらの仕事じゃないんだ。焦るなエミュー」
そんな中、真面目そうな長身の男がエミューと呼ばれた女を宥める。軽剣士ジークをリーダーとしたA等級冒険者パーティー『クルセイダー』。元神殿騎士や聖職者だった彼らは、教会を離れ、冒険者に転向した者達だ。彼らも『アレイスター』と同じく、指示を無視した『ネメア』と豚鬼達を静観していた。
…
「「「……」」」
額に二本の角が生えた、竜王国ドライゼン出身の
「ゲイルさん、何か視えました?」
「……」
ゲイルと呼ばれた男は、捲っていた眼帯を元に戻し、静かに立ち上がった。
「行きますか?」
メンバーの一人が、先に突撃した『ネメア』を指して追従するかリーダーのゲイルに尋ねる。他のメンバーも闘争本能を刺激されたのか、戦いたくてうずうずしてる様子だ。武装した豚鬼とはいえ、大群に臆する者は一人もいない。
「いや、指示通り待機だ」
「「「?」」」
「『ネメア』の連中は放っておくんですか?」
「奴らも馬鹿じゃない、一通り暴れたら戻って来るだろ。それに……」
「「「それに?」」」
眼帯の下にある『竜眼』。ゲイルは垣間見たおぞましい光景を、パーティーメンバーに話す気にはならなかった。
「いや、なんでもない」
そう言って、ゲイルは屋上を見渡し、他の冒険者達の様子を見る。屋上にはゲイル達の他に、十数以上の冒険者パーティーが豚鬼の大群に備えていたが、ゲイルが『竜眼』で見た男の姿はない。
(やはり、先のことはアテにならんか……)
…
―『冒険者ギルド本部 幹部室』―
屋上で冒険者達が豚鬼に備える一方、建物内の一室では一人の男が机に座り、魔導書を開いていた。
「ジュリアン様、各員配置に着きました。いつでも結界は起動できます」
「ああ、ご苦労様。そのまま待機させといて。まずは豚鬼の殲滅が先だ」
「はい。それと、『ネメア』の連中が指示を無視して突撃したようです」
「またか……相変わらず人の話を聞かない連中だね。まあいい、お腹が空いたら戻って来るさ」
「偵察に出た者から、豚鬼の中に人間の騎士が紛れているとの報告がありました。そちらは如何いたしますか?」
「テイマーかい?」
「分かりません、確認されただけでも数百はいるようです」
「じゃあ、違うね。放っておいていいよ。ひょっとしたら分隊を指揮してるかもしれないけど、テイマーがそんなにいるはずない。指揮を委譲された者かもしれないね。だとしたら、思ったより高度なことができるということだ。これはいよいよトリスタンの言う『勇者』かもしれないね」
「……勝てるでしょうか?」
「豚鬼の群れは問題ない。一匹も逃さず殲滅するのが少し面倒だけどね。しかし『勇者』が本当にいるなら分からない。昔の記録を見たけど、信じられない内容ばかりだからね。故郷の結界も『勇者』が作ったんだ。それらが私達に向けられると思うと私も自信はもてないな」
「……」
「まあ、結界が起動すれば『勇者』と言えど、ただの人になる。心配ないさ」
ジュリアンと呼ばれた男は魔導書を閉じ、席を立つ。絹の様な長い金髪を靡かせ、美青年のエルフは立て掛けられた長剣を手にする。
「とりあえず、少し数を減らしておこうかね」
そう言って、S等級冒険者『水帝』ジュリアンは部屋を後にした。
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