第307話 魔導銃

「とりあえず、コイツは『魔導銃』とでも名付けておくか。因みにコイツは魔封の結界内では使えないから気を付けろよ」


「魔力を流さなきゃ使えないから武器というより魔導具よね」


「そうだな。船内には魔力を使用しない武器は無かったから、魔力を封じられた場合、どうやって古代の人間が戦っていたのか謎なんだよな。まさか、剣と槍で戦ってたとも思えないが、船内の動力が死んでるから、それを調べるのは無理だった。まあそれはともかく、魔法よりも使い勝手がいいから状況に応じて使い分ければいいだろう。


「しかし、不思議ですね。こんな小さなモノがあれ程の威力だなんて……」


 イヴが魔導銃の弾丸を取り出して興味深そうに呟く。


「原理としては、爆発の力を利用して金属の弾を射出するんだ。どうやってかは分からんが、薬莢の中に爆発の魔法が込められてる。発射時に破裂音が鳴るから間違いない」


「レイなら爆発も魔法で再現できそうよね~」


「実はこの世界に来たばかりの頃に試した。爆発を魔法で再現しようとしたんだが、諦めた」


「再現出来なかったの?」


「いや、原理は知ってるから再現はできる。だが、使用魔力が多い上に、イメージも複雑で咄嗟には使えない。それに、どうしても手元でしか発現できないから自分にも爆発の影響を受ける。『火球』や『水球』のように爆発を飛ばせないんだ。至近距離で人を殺傷できる威力の爆発を起こしたら、相手諸共、自分も一緒に吹っ飛ぶから相打ちぐらいでしか使えん」


「絶対、やらないで!」


「やらないよ。火や水のように単純なモノなら、ある程度離れた距離に発現させることは出来るが、複雑なイメージが必要な魔法は自分に近い距離でしか発現できない。訓練でなんとかなるかもしれないが、こうして道具があるなら、そちらの方が早いし消費魔力も少なく済むから態々魔法に拘ることもないからな。他にも色々回収したから旅の合間にでも試して、有用なら使うつもりだ」


 …

 ……

 ………


 翌日。


 魔導船の処理を終えたレイの目の前には、二つの魔法の鞄があった。二人の『勇者』、東条奈津美と城直樹から奪った物だ。レイは『魔刃メルギドクヅリ』を手に鞄を破壊して中身を調べるつもりだ。


「クヅリ、本当にいけるんだろうな?」


『当たり前でありんす』


 レイは、刀を構え、地面に置いた鞄に向かって垂直に振り下ろす。子供の身体では黒刀を振り回すのは厳しいが、単純に振り下ろすだけなら問題なかった。


 斬ッ


 城直樹の鞄が真っ二つになり、その瞬間、鞄の中身が飛び出してきた。


「「「うっ!」」」


 出てきたのは大量の死体だ。老若男女、数十体の死体が目の前の空間に現れた。その光景と腐臭に全員が目を顰め、腐乱死体に慣れてないアンジェリカは口元を押さえ、込み上げる吐き気を堪える。


「うぷっ」


「半分は腐ってやがるな……」


「なんなのこれ?」


「ジョウナオキが殺した人間でしょうか?」


「なんてことだ……」


 ゴルブは死体と共に、自分が所持していた戦鎚を見つけ、この中身が紛れもなく城直樹のモノであると確信し、怒りに震えた。ゴルブの中で『勇者』であった異世界人は平和をもたらした英雄だ。同じ異世界人とは言え、こうも非道な行いをする者を許せなかった。


「とりあえず、中身の精査は後だ。あまり見たくないが、もう一つも開けるぞ」


 続けてレイは東条奈津美の鞄を真っ二つにし、中身を出現させた。



「……保存食?」


「こっちの皮袋の中身は水よ? 他には何も無いわね」


「こっちはなんだか拍子抜けだな。これなら壊さなくても良かったな」


「ホントよね。まあ、中身が分からないんだから仕方ないけど」


「まあな。こっちは問題ないが、城直樹の方は問題だ。殺した人間を鞄に仕舞って証拠隠滅してたんだろう。高校生ガキのクセにとんでもない奴だ。まあ、もうこの世にいないからどうでもいいがな。……死体の他は装備品と金か」


「こいつはワシの『巨人の戦槌タイタンハンマー』だ。やはり、こ奴が持っていたのか……」


「自分のモンなら持ってけよ……って、なんだこれ? 重過ぎるだろ」


 レイは戦槌を手に取るも、持ち上げることが出来なかった。子供の身体だということを考慮しても、重過ぎる戦槌だ。


「それでもソイツはワシに合わせた複製品だ。オリジナルの『巨人の戦槌』はとてもじゃないが、人には持てん代物だ」


「おいおい、複製品でこの重さかよ……」


「元は巨人が使っていたと言われる古代の武器だ。遺跡で発掘したものをワシが解析して模造した。コイツは魔力を込めて振るえば振動を起こす魔導具だが、本物は地震を起こすと言われとる。まあ本物を手に持って振るえた奴はおらんがな。持ってくか?」


「こんなクソ重たいモノいらん」


「そうか、ならこれを持ってけ」


 ゴルブは自分の魔法の鞄から一丁の拳銃と箱を取り出して、レイに渡す。


「コルトM1911……。それに予備の弾倉三つと弾が五十発か。なんだ爺さん、いいモン持ってるじゃねーか。トリスタンからは冒険者ギルド本部にあると聞いてたが、他にも持ってるのか?」


 コルトM1911。コルト社が開発した軍用自動拳銃、通称『コルトガバメント』を受け取り、レイはニヤリとした笑みを浮かべながらゴルブに他の銃について尋ねる。


「いや、手持ちはそれだけだ。昔、弾を作ることを模索してずっと鞄に入れてたモンだ。このまま仕舞っておくことより、お主に使ってもらったほうがいいと思ってな。ワシの鞄は時間停止もついとるから、品質は当時のままだ。当時、勇者達が残した他の銃が欲しいなら本部へ行け」


 レイは、手慣れた様子で銃を分解し、状態を調べる。


(余分なグリスも多いし、銃身に火薬の残りカスも殆ど付着してない。箱出し新品に近いな。よくもまあ、こんな年代物が新品に近い状態で残ってたもんだ。これは、ギルド本部に残ってる他の銃器にも期待が持てそうだ)


 分解したコルトガバメントの部品を布で磨き、組み立てていたレイに、リディーナが冒険者達の所持していた金塊を持ってきた。


「ねえ、レイ、これどうする?」


「貰っておいて構わんだろ。リディーナの鞄に入れといてくれ」


「……そいつもワシが預かって換金してやろうか? 金塊のまま持ってても仕方ないだろ」


「あら、じゃあ一緒に頼もうかしら」


ゴルブとリディーナのやり取りを見ていたレイは、ふと疑問が浮かんだ。


「金の鉱脈か……それに、古代の遺物『魔導船』……」


「どうしたの?」


「いや、なんか疑問に思ってな。大昔に今より優れた文明があったんだろ?それなのに、まとまった金が産出される鉱脈が手付かずだったのが気になってな」


「見つけられなかったんじゃないの?」


「どうかな。古代は金に価値が無かったのなら納得できるが、手作業で採掘できる浅い表層で希少鉱物が大量に眠ってるのは、どうも腑に落ちない」


 地球に置き換えれば考えられないことだとレイは思っていた。重機を使わず手掘りで採掘できる程度の場所で、金鉱脈が発見されるなんてことは、人の生活圏ではありえない。高度な文明がありながらも、大陸全土を掌握していた訳ではなかったのか? 言い得ぬちぐはぐさに、この世界の歪さを思わずにはいられなかった。

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