第300話 情報交換②
「話を戻すけど、二百年前にも『炎古龍』を過去の勇者達が討伐したんでしょ? だから変だって話をあの時レイがしてたのよ」
「確かに二百年前、『炎古龍バルガン』は、当時の勇者達が討伐したし、完全に息の根を止めたのも確認してる。だが、死体は火口を滑り落ちて溶岩に沈み、回収できなかった。それが、百年ぐれぇ前にいきなり現れた時にはどういうこったと、あの時は思ったもんだ」
「あー、だから火口の奥の部屋は手付かずだったのね~」
「なんのことだ?」
「火口の奥に部屋があったのよ。財宝が沢山あったから過去の勇者達はあの龍を倒しても部屋に入らなかったのは扉を見逃したからかと思ってたけど、火口へは降りなかったのね。部屋の先は崩れてて進めなかったけど、内壁の材質がメルギドの地下にある古代遺跡と同じだったのよ。レイは繋がってるんじゃないかって言ってたわ。あっ、因みに財宝ならもう殆ど無いわよ? レイのオモチャ代でお爺ちゃん達に持ってかれちゃったから」
「オモチャ? 何のことかわからねーが、財宝なんて興味はねぇ。それより、本当に火口の下に降りられたのか? 当時の『勇者』達も諦めたってのに」
「まあ、それもレイのおかげだけどね。レイがいなかったら龍に遭う前に焼け死んでたわ」
「あの『炎古龍バルガン』を討伐したことといい、まったく規格外な男だ」
「でも、なんか変だとか言ってたわ。思ってたより弱かったって」
「随分、浅薄な言い様だな。彼らしくないんじゃないか?」
「そうですね。旦那らしくない。そこらの調子に乗ってる若造みたいだ。まあ、旦那から見ればどいつも弱いと言い切れるでしょうけど」
アンジェリカとラルフは、自分達で汚したテーブルの上を片付けながら、レイが発したという言葉に二人揃って突っ込んだ。
「ち、違うわよ! レイは古代語の文献に書かれた内容と比べてって言ってたのよ! そこらのガキみたいに安っぽいこと言うわけないでしょ」
「古代語まで読めるのか……。だが、言ってることは間違っちゃいねぇ。いや、『古龍』は決して弱くはないんだが、ワシらが当時戦った
「どうしてそう言えるの?」
「討伐したはずの『炎古龍バルガン』が、百年前に突然現れた時、ワシはバルガンの残した子供が成長したモンだと思ってた。体の大きさも吐き出す
「そう言えば、クヅリも『龍』は不滅だって言ってたわね。存在そのものは無くならないとかなんとか」
「クヅリ?」
「レイの持ってたあの喋る黒刀よ。確か『黒龍の祖』とか前に言ってたわ」
それを聞いて今度はゴルブが酒を噴き出した。
「ちょっ! アンタも何やってんのよっ!」
「こ、こ、『黒龍の祖』、だとぉぉぉ!!!」
「ウッサイッ!」
「オメー、龍の祖って言ったら、始まりの龍、『始龍』ってことだぞっ! あの『黒のシリーズ』の素材がまさかそんなヤバイもんだったとは……」
「あ、そうも言ってたわね。『始龍の一柱』って。でも、あの武具を作ったのはアンタ達ドワーフでしょ? 知ってて作ったんじゃないの? どこからクヅリの素材を手に入れたのよ?」
「ありゃあ、昔『勇者』達と潜ったある古代遺跡で見つけたもんだ。だが、見つけたのは魔石と一部の素材だけで、死体を見たわけじゃねぇ。第一、生きた個体と遭遇してたなら今頃ワシはここにはいなかっただろーよ」
「お爺ちゃん、弱いものね」
「くっ! ……まあワシのことはともかく、あの刀が自ら『始龍』を名乗ったのなら、一度も復活したことが無い龍だってことだ。実は古代の記録では、大陸で確認された『古龍』は、過去に討伐された記録がどの龍もある。最初は同名の龍でもそれぞれ別の個体だと思ってたが、復活した同一個体と分かってからは、属性を冠する古龍はどいつも元は『始龍』だったってことが分かった。だが復活する度にその力は劣化していき今の存在がある。記録上、『炎古龍バルガン』は何度も復活してる。始まりの龍からは大分劣化してるだろう。だが、そのバルガンでさえ、国が総力をあげても討伐なんてできん存在なんだ。それより遥かに強大な「力」をもった龍があの刀に宿ってることになる」
「でも、身体はないわよ?」
興奮したゴルブは、一息つくようにして酒瓶を一口呷って話を続ける。
「いいか、そのクヅリってのが『始龍』のまま死んで、まだ一度も復活してないなら、神に等しい力を持ったままなはずだ。確かに肉体がないから何もできないかもしれないが、その存在があの刀にいるんだ。大体、あれほど鮮明に話せる『
「でも、素材はともかく魔石があるってことは、一度は死んだはずでしょ? 寿命は無いって言われてるから誰かに殺されたってことだろうけど……」
「殺した存在、もしくは殺す方法か兵器が大昔にあったのは確かだろう。あまり考えたくねーが、万一、そんなもんが見つかって悪用されたら世界が滅ぶぞ」
「もし、殺した存在がいたなら一緒に死んでてほしいわね。そんなバケモノがこの世のどこかにいるかもしれないってことの方がゾッとするわ」
スケールが大き過ぎて、話についていけなくなったアンジェリカとラルフを他所に、リディーナとゴルブは少なくとも兵器の存在はあり得るかもしれないと思っていた。『魔導船』のような巨大な遺物が発見されてるのだ。他にもあのような古代兵器がどこかに眠っていてもおかしくない。
「とりあえず、レイが帰ってくるまでこの話は一旦終わりにしましょう。直接クヅリに聞けばいいことだわ」
…
……
………
国王執務室。
「陛下、一体、どうなされたのですか?」
「どうとは?」
「そのようなお召し物を……」
「似合わんか? 昔はよくこういった女らしい格好をしろと苦言を呈していたではないか」
「そ、それはそうですが……」
テスラー宰相の前には、化粧をし、白を基調としたタイトなドレス姿で執務机に座るラーク王の姿があった。
「とてもお似合いです、陛下」
側に仕えるナタリー副長は、ラーク王に無表情でそう伝えると、さも当然といった顔でテスラーに向き直す。ナタリーは近衛騎士団の副団長兼、女性王族を守護する部隊の長でもある。明るい栗色の髪に緑眼、ややきつめの顔立ちの美人だが、真面目な表情を崩すことは滅多に無い。
「うむ。少し窮屈だがその内慣れるだろう。それより、何用だ? テスラー宰相」
「はっ、城壁の門より報告がありました。あの小僧が街を出て森へ向かったそうです。その際、守衛に見せた物に関して少々問題が……」
「小僧ではない、レイ様だ。それに持っていた短剣は私がレイ様にお渡しした物だ。何が問題だ?」
「問題しかありません、陛下! 王家の短剣ですよ? 『女神の使徒』か何か知りませんが、貴族ですらない小僧が手にしてよい物ではありません。ただの通行証で十分でしょう? それも陛下自らの手で下民に授けるなど!」
「宰相閣下、それ以上、女神様の使徒を貶める発言は異端認定されますよ?」
テスラーの発言にナタリー副長が反応し、無表情でテスラーを諫める。
「テスラー宰相。レイ様には私の夫となって頂く。あの短剣はそう言う意味だ。たかが人間の王でしかない私が、神の使徒で在られるレイ様の伴侶など
テスラーは驚愕の表情で必死に口を動かしているが、声が出ない。王の側にいるナタリーの表情に変化は無く、王の発言を聞いても動じる様子はない。
「宰相の言いたいことは分かる。他の貴族達も納得しないだろう。既に法務大臣に調べさせているが、大昔には
「いくらなんでも強引すぎます! それに、陛下との婚姻を望む者は大勢いたのですよ? 有力貴族の子弟からお相手を選ばず、どこの国から来たかも分からぬ者を王配に迎えるなど、誰も納得せず、反発を生むだけです。それに、謀反を起こした『貴族派』達の処分や、冒険者達による各地の暴走行為など、問題は山積みです。今暫くは国内をまとめることに集中して頂きたく存じます!」
「私の醜い傷跡を知った途端に手を引くような者達の反発など捨て置け。それに、この国の問題を蔑ろにするつもりは無いぞ? レイ様が使命を終えるまでに、この国をあるべき姿に戻し、レイ様をお迎えするに相応しい国にしてみせる」
(くっ、これ以上言っても説得できそうにない。一体どうしたものか……。しかし、得体の知れない子供との婚姻なんぞ、絶対に認められん! 他の誰もが認めても儂は認めんぞ! こうなれば、儂自ら厳選し、陛下に相応しい完璧な男を用意するしかない。……くそっ、ナタリーめ、本来お前は陛下を諫める立場だろうがっ! 何シレッとしとるんだっ! お前も協力しろっ!)
今一つ、納得出来なかったテスラーだったが、王の婚姻相手は自分で連れてこようと決意し、この場を離れようとしたその時。
「しかし、私も今年で二十四だからな。早くにレイ様のお子を授かる為にも、レイ様が旅立たれる前に夜伽に参りたいところだが、どうしたものか……」
「陛下ぁあああ!」
「早速、今夜手配致します」
「ナタリーィィィイイイ!」
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