第273話 突入

 「ブラン、少しペースを落とせ」


 『了解ッス』


 レイ達の前方には大きな城と、その城門の周囲には、篝火に照らされた数百人の騎士達が見えてきた。


 「城門は閉じてて、跳ね橋も上がってんのか。というか、あの人数で包囲して何チンタラやってんだ? クーデターはスピードが重要ってアイツら分かってんのか?」


 「お前はどっちの味方なんだ?」


 呆れるレイに、メサが突っ込む。


 レイにとって重要なのは城に入ることであって、反乱軍が占拠してても構わなかった。強引に突破し、城内には入れれば、少なくとも上空からの攻撃の心配はなくなる。あとはゆっくり反乱軍を始末していけば良かったからだ。反乱側が包囲したままというのは戦術的にあり得ず、予想していなかった。


 謀反を起こすなら、素早く新政権を樹立し、国内の安定化と外国への対応をしなくてはならない。他国が介入する隙を作らないことは当然だが、王都を封鎖し、政府が機能してない状態が長く続けば、反対勢力の体制を整わせることにつながり、経済的損失も日を追うごとに膨大になる。政権を奪取しても、民衆の支持を得ての反乱では無い場合、時間が掛かれば泥沼の内戦になるのは間違いない。一日の遅れが命取りだ。勿論、国内に現政権を指示する勢力がどれほどいるかは分からないので、一概には言えないが、『王党派』なる派閥がある以上、一定の勢力は残ってるはずだ。


 先に上空の黒い潜水艦を何とかしたいが、馬車にいる三十人の子供の安全を確保しないと難しい。潜水艦の戦力が不明な以上、潜水艦を攻める戦力と、馬車を守る戦力を分散する余裕は無いからだ。


 

 「おい、メサ、他に城に入る通路はあるのか?」


 「無い。…………いや、地下に隠し通路がある」


 メサは一瞬、極秘の隠し通路のことを話すか迷ったが、この期に及んで隠し事は誰の利益にもならないと判断し、素直に話した。城がまだ陥落してないことに安堵するメサだったが、レイは逆だ。


 「出入口は?」


 「城壁の外だ」


 「ならそれを使うのは無しだな。街を出れば遠慮なしに攻撃される。ミサイルならなんとか迎撃できるが、それ以上の兵器を使用されたら防げるか分からん。予定を変更してウォルトの屋敷に行く」


 「え?」


 「自分の屋敷を爆撃してまで俺達を殺したいと思ってるかは分からんが、あそこに突っ込むよりマシだ。門だけならまだしも、跳ね橋が上がってるんじゃ馬車は通れない。強引に突っ切る予定だったが、あれでは城門前に留まって、橋が下りるまで馬車を守りながら戦うことになる。魔法も使えないし、跳ね橋が下りる保証もない。流石に無理だ」


 「侯爵の屋敷に行ってどうするのだ? 敵地だぞ!」


 「だから? お前も見たろ、警備の数は僅かだ。全員始末するのは問題無い。一旦、屋敷を拠点にして先に上の黒い潜水艦をどうにかする」


 レイにとっての脅威は上空からの爆撃や狙撃だ。ウォルトの性格は分からなかったが、街中で爆撃してこないということは、街を破壊したくないのは間違いない。ウォルトが自分の屋敷を犠牲にしてでも自分達を仕留める気になれば、屋敷も安全とは言えないが、膠着状態の城門に向かうよりは危険は少ない。


 どの道、上空の黒い潜水艦と反乱、両方をなんとかしないと、どうにもならない。このまま逃げることも出来るが、あの人数を連れて旅をするのは無理がある。かと言って、子供を放置する選択はしたくなかった。レイは権力争いなどどうでもよかったが、後味悪いまま国を去るのは気分が悪い、それだけだった。


 「……ん?」


 城門前の騎士達が騒がしくなる。視力を強化して良く見ると、少しづつ跳ね橋が下りてきているのが分かった。


 「跳ね橋が下りてる、門が開くぞ」


 「馬鹿な! 一体なんで……?」


 メサが信じられないといった表情で叫ぶ。城が内部から開かれるということは、内側から制圧されたか、裏切った人間の仕業だ。


 「屋敷に行くのは中止だ。丁度いい、全員の目が城門に向いてる。リディーナ、ブラン、合図したら全速で門まで全速で走ってこい」


 「レイは?」


 「俺はちょっと数を減らして道を作ってくる」


 そう言うと、レイは外套を脱いで魔法の鞄マジックバッグに仕舞い、代わりに金属製の筒を二つ取り出して、城門に向かって走り出した。


 …


 「はっ!」


 城内では、ラーク王が金色に輝く魔金オリハルコン製の長剣で、『魔導無人機』を一閃、両断していた。


 「陛下っ! お下がりください!」


 ロダスが慌ててラーク王の前に出る。城内には至る所に『魔導無人機』が入り込んでおり、ラーク王とロダスはそれらを薙ぎ払いながら通路を進んでいた。


 「私のことはいい!」


 「し、しかし、下に降りるのは危険です!」


 「ふん、この状況では安全な場所など無いではないか、私が一緒ならお前も下に行ける。問答している暇はない」


 「くっ、……仕方ありません。しかし、無茶はしないで下さい。陛下の腕は承知ですが、もう何年も剣は振っておらぬでしょう?」


 「まさか、再び剣を振るうことになるとは思わなかったが、心配は無用だ。それより、急げ! 城門が破られれば終わりだぞ!」


 『魔導無人機』は近衛騎士を見れば襲って来るが、使用人やメイドなど、非戦闘員には目もくれない。ロダスはそれに気づいたが、だからと言って王から離れることはできない。王の幼少期に剣の指導をしたロダスは、ラーク王の近衛に匹敵する剣の腕を知ってはいたが、守護する者としては気が気ではない。


 …


 「ハインっ!」


 「団長! って、陛下? なんでここに……?」


 「私に構うな! 状況は?」


 「は、はい。申し訳ありません、城門はもう駄目です。城壁塔にはナタリー副長が向かいましたが、状況は分かりません」


 ハインは王宮玄関口で、他の近衛騎士達と襲い来る『魔導無人機』を攻撃しながらラーク王に報告する。ハインは両手に双剣を持ち、器用に無人機を無力化していくが、相手の数が多く、城門までは進めなかった。


 初期に城門前で対処していた近衛騎士達は、陣形を組んだままその場で動けずにいた。流血している騎士が何人もおり、城門の操作盤に取りついた無人機に近づくどころか、その場を維持するのがやっとだった。


 「拙い、跳ね橋が……落ちる」


 ガラガラと門の外側で跳ね橋が下ろされる音が響き、近衛騎士の一人が声を漏らす。跳ね橋が下ろされれば、外の反乱騎士達が雪崩れ込んでくる。魔法も使えず、この状況を打破する手段が何もないことに、誰もが絶望する。


 「まだだっ! 城門を開けさせるわけにはいかんっ!」


 ロダスが大剣を横薙ぎに払いながら無数の無人機に突っ込む。


 

 ピシッ



 城門の扉に線が入る。その後も縦横無尽に線が入り、閂ごと扉がバラバラに崩れ落ちた。


 「「「なっ!」」」


 崩れた城門の扉から、黒い刀を持ち、血だらけの一人の男が入ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る