第228話 黄金と真紅
――『エタリシオン王都 東門』――
夜。
森を疾走する二つの影。
月明かりに照らせた一つの影は、金色の髪をなびかせ、吸血鬼の首を次々と銀色の
もう一つの影は、暗闇に溶け込むような青い髪と、それとは対照的な真紅の瞳が暗がりの中で赤い軌跡を描いていた。瞳の色と同じ、真紅の短剣を吸血鬼の心臓や頭に突き刺し、再生する間も与えずその身体ごと燃やし尽くす。
金髪の女は、まるで閃光の様な超スピードで森を駆け、青髪の女は流水のような滑らかな動きで木々の間を通り抜け、森の奥へと消えて行った。
王都城壁にて、その様子を見ていたエルフの兵士達。
今まで、安全な城壁の上から弓や魔法で吸血鬼を攻撃していたが、二人の女は躊躇無く地上に降りて、門に群がってくる吸血鬼達を相手にし、駆逐していった。その様子を兵士達は、悔しそうにする者、興味深く観察する者、そしてその美しさに魅入る者とが只静かに見つめていた。
昼間、リディーナが疲労により中断した吸血鬼の討伐を、夜間に再開したリディーナとイヴ。『
レイの探知魔法が無いとは言え、静かな森で動いている吸血鬼を見つけるのは、二人にとっては難しいことでは無い。知能の高い第三世代の魔法さえ気を付けていれば、
「あら? ちょっとウデを上げたんじゃない、イヴ?」
シュバッ
「そうですか? リディーナ様を待ってる間に『魔の森』では大変だったので、その所為でしょうか……?」
ズッ ゴウッ
「ああ、そう言えば大変だったみたいね~」
シュバッ
「恐らく、ブランのおかげだったと思うのですが、いなくなってからは絶えず魔物の襲撃に会いました……」
ズブリ ゴウッ
「あの馬どこいったのかしら?」
「街に入る前に、森に置いてきましたからね。……文句言ってましたけど」
「流石に街中に
「それはそうですが……」
他愛ない会話をしながらも次々と吸血鬼達を仕留める二人。気付けば、周囲に動く者はいなくなっていた。
「まあいいわ。それより城壁沿いに南に向かいましょう。今夜中に全部片づけておきたいわ」
「それは同感です」
そう言って二人は、その場を後にして、残敵を掃討しに森へと消えて行った。
…
「フォッフォッフォッ。いやはや驚きましたの。まさかリディーナ様があれ程のウデをお持ちとは……。それにお連れの方も若いのに大したものですじゃ」
「ヨーム爺……。笑い事じゃないよ、まったく……」
城壁の見張り台の上から、リディーナとイヴの戦闘を見ていたトリスタンとヨーム公。夜間とは言え、元々の視力に優れ、夜目が効くエルフ族には二人の戦闘が見えていた。
「確かにあの子は、A等級以上の腕前と『妖精』を扱うことで「S等級」以上の認定に値する。それに、あの青い髪の子はちょっと特殊でね。『魔眼』を無くし、戦闘能力は下がったと聞いてたけど、あれ程やれるとは思わなかった。B等級以上はあるだろうね」
「爺に、外の世界に興味がありそうな者をギルドに紹介してもらってるけど、リディーナはその中でも群を抜いてる。つい最近まで、ちょっと「優秀な子」止まりだったんだけどねぇ~」
「やはり、異世界人の影響ですかの。リディーナ様が連れ帰った双子の二人も少なからず影響を受けているようで……」
「そうなのかい? 外の世界に興味がありそうなら、いつものように手助けしてやってくれ。この国の引き籠り気質はどうにもならないからね。危険なのは承知だけど、好奇心のある子を少しでも外界と触れさせたい。国にいる者も、今回のことで少しでも外の世界を知る切っ掛けになって欲しいもんだよ……」
「結界が出来てから、この国は緩やかになりましたからの」
「はっきり言いなよ、退化したって。見なよ、あの兵士達を。あの中で実戦を経験してる者がどれだけいる? あの程度の吸血鬼に恐れをなして、安全な城壁に守られてる。あれが人間の兵士達だったら、とっくに占領されてるよ、まったく。それに精霊と契約できる者も少なくなった。外に出た者は皆扱えると言うのに、平和ボケもいいとこだ……」
「陛下が『勇者』の件を伏せていたのも致し方無いことですかの……」
「今のこの国の現状じゃ「S等級」一人で簡単に滅ぼされるからね。それなのに、無駄に自尊心が高くて困る。いつまでも自分達が優れているという思い込みから現実が見えなくなってるままだよ」
「耳が痛いですの……」
「さて、帰ろうか。リディーナ達に支払う報酬も見繕わなきゃならないしね」
「しかし、第四世代以下とは言え、あの数の吸血鬼をたった二人で対処するなど、どれだけの報酬が必要か、見当がつきませんですじゃ」
「レイ君は早速、王室の薬師に薬草を用意させてるよ。しかも劇物ばかり……。あの不気味な強さは、幸三さんの弟子って聞いて納得なんだけど、性格は正反対だ。あの子達を見てると、人に教えるのは断然レイ君の方が上手いみたいだけどね」
「『剣聖シン』の弟子ですか……。何の因果ですかの。しかし、あの御方の弟子とは…… よく務まりましたの」
「皆、あの人から剣を教わりたがっていたけど、誰もついていけなかったからね。模擬戦ですら真剣を使って普通に斬りつけてくるんだから当然なんだけど、それに耐えてたってことだからね。まったく、ホント、オカシイよ……」
「あの御方が元の世界に帰られたのも、戦争が無いから、ですからの」
「向こうの世界の言葉で「
「……不敬ですが、帰って貰って良かったようですの」
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