第176話 教育
「「わあ~」」
シャルとソフィは、馬車の中から、森から上がる大きな炎の柱を見ていた。帰ってきたリディーナから、野盗の襲撃があった村を見つけたと聞いて、不安になった二人だったが、既に野盗は去った後と聞いてホッとしていた直後のことだった。
また攫われたら……。その考えが一瞬よぎる二人だったが、炎の柱と、それを放ったのがレイだと聞いて、そんな考えは吹き飛んでしまった。
「お兄ちゃん、すごーい!」
「オ、オレだってすぐにあれくらいできるようになるよっ!」
レイがこの場におらず、リディーナが側にいる状況から、強がりを見せるシャル。
「私達エルフには、レイみたいな火の魔法は難しいわね~」
「「なんで?」」
エルフ族は、森で生活する環境から、風や水の精霊が多く、その属性魔法を覚える方が早い。それに、普通は一つの属性魔法を行使できるだけでも、人間社会なら魔術師と見なされるくらい難度は高いのだ。相反する属性まで扱える者など殆どいないと言っていい。それは長命なエルフでも同じで、風や水の属性魔法を覚えた者が、火や土の属性まで習得するのは困難を極める。当然のように火や水、光や闇の属性を操るレイは、特殊過ぎるのだ。
リディーナも、薪に火をつけるくらいのことは魔法で起こせるが、攻撃に使用できる威力の魔法は使えない。
それに、精霊と契約して精霊魔法が扱えるようになると、相反する属性との相性が極端に悪くなる。リディーナの場合、火の魔法を使おうとすると、水の精霊が邪魔をしてしまうのだ。複数の精霊と契約出来る者が少ないのは、精霊同士を衝突させないよう、精霊と交信ができなければならず、努力よりも生まれ持った適性が必要だと言われている。
リディーナは、シャルとソフィにそのことを教える。
「森には、火の精霊は殆どいないから、火の魔法を習得しようとするなら、結構遠回りになっちゃうわよ?」
「えー……」
「そんなに残念がらないの。それより、二人共、身体強化はできるようになったでしょ? 私の弓を貸してあげるから、ちょっと引いてみなさい」
リディーナは二人の気を集落から逸らすように、
「「わあ」」
銀色に光る綺麗な弓を見て、二人の表情が輝く。子供の二人に対しては、サイズが大きかったが、シャルはリディーナから受け取った弓を見様見真似で構えてみる。
「シャルは右利きでしょう? 左手はここ、右手でここの弦を持って引いてみて」
リディーナはシャルの後ろからそっと手を添えて、弓の構え方の手解きをしていく。
「そんなに緊張しなくても壊れないわよ? もっと肩の力を抜いて」
シャルは初めての弓に緊張してるわけでは無く、リディーナに触れられて心臓が飛び出るくらいドキドキしていた。少年の初心な気持ちなど欠片も察していないリディーナは、シャルの体に触れながら次々と説明していく。シャルは当然ながら、その説明が頭には入ってこず、身体強化どころでは無かった。
ソフィがニヤニヤしながらシャルを見る。リディーナからは見えないが、シャルは顔が真っ赤だ。
ソフィの視線に気づき、気を取り直してなんとか弦を引くシャルだったが、腕がプルプルと震え、とても矢をつがえることは出来そうに無かった。
「うーん、でも十歳ならこれだけ引けたら十分よ。もうちょっと大人になってからかしらね~」
もうちょっと大人になってから……。その言葉に落ち込むシャル。
「シャルが無理なら私もまだ無理かも。お姉ちゃん、私、魔法を教わりたい! 精霊とも早くお友達になりたいっ!」
「はいはい。じゃあ、風の魔法からやってみましょうか」
リディーナは、そう言って双子に魔法と精霊の説明をする。
基本的に人へ魔法を教える場合、まず、魔法の詠唱の文言を覚えさせる。文言を覚えたら、魔力を体外に放出して、発する文言を元に、起こす現象をイメージさせるのだが、リディーナはレイに教わった理屈を、自分の中で噛み砕きながら教えることにした。
呪文の詠唱は、確かに魔法の発動に有効だ。教える側も教え易いし、言葉を発すことで、イメージもし易い。それに、命のやり取りの戦闘状況では、ルーティーン化させた発動方法は、安定した魔法の行使に繋がる。しかし、リディーナは長年の戦闘経験から、双子には「無詠唱」の魔法の習得をしてもらいたかった。イメージをダイレクトに現象に起こすことができれば、戦闘で優位に立てるばかりか、属性に囚われない、幅広い魔法を習得できる可能性があるからだ。無論、精霊と契約すれば、特有の制限が発生するのだが、それでも一般的な魔術師に比べて将来的な幅は広がる。リディーナのように、雷属性のような複合魔法を使用出来たり、既成の概念の外にある、飛翔魔法なども使えるように、将来的にはなって欲しかった。
「ではまず、「風」とは何なのか、から説明するわよ!」
リディーナはレイの真似をして、シャルとソフィに講義をはじめた。
…
一方、『
「頼むっ! 私に剣を……、魔法を教えてくれっ!」
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