第154話 責任

 「ゆ、勇者……?」


 マリガンに『勇者』に関して話すか迷ったが、ここまできたら話した方がいい。なんせ、『勇者』の半数近くが冒険者として登録し、活動しているんだ。いずれどこかのギルドと揉めることになるのは間違いない。それに期待はしていないが、多少の打算もある。


 「そうだ。半年以上前に、オブライオン王国で三十二人の『勇者』が召喚された」


 「「なっ! さ、三十二人!」」


 マリガンとアンジェリカが同時に声を上げる。勇者に関する詳細は、教会も把握はしていないようだ。


 「俺は、女神アリアから『勇者』暗殺の依頼を受け、こことは別の世界から転生した異世界人だ」


 「「―ッ!」」


 「い、いや、ちょっと待ってください! レイ殿が異世界人? それに『勇者』を女神様が暗殺ぅ?」


 「まあ混乱するだろうが、今回召喚された『勇者』に関しては、女神は関係してないらしい。二百年前の『勇者』とは別物だと見ていいだろう。だが、今回召喚された『勇者』も強力な力を持っているのは変わらない上、暴走している。まあ遭遇した限りじゃ、私利私欲に走ってる感じだが、一部は国を乗っ取ってる。オブライオンの聖女も殺され、女神も黙ってられなくなったみたいだ」


 「せ、聖女様がっ? そんな話は聞いてないですぞ……」


 「レイ殿、遭遇したと言われましたが、あの『聖騎士クズ』以外にも?」


 「『聖騎士アレ』を含めて、既に七人始末した。三人は取り逃がし、残りはまだ居場所も特定できていない。だが、三十二人中、俺が来る前に三人が死亡、一人が行方不明らしい。その一人を入れて、残り二十一人だ」


 「ゆ、ゆ、『勇者』を始末したっですとぉ? それも七人も……」


 「ま、まさか『伝説の勇者』を……」


 

 「あら、内一人は私が殺ったんだけど~?」


 「「噓でしょ?」」


 俺の隣に座るリディーナが、ドヤ顔で自慢する。


 「話を戻すぞ。今回、俺の名を騙って教会に入り込んだ『聖騎士』は、その勇者の一人だ。始末したと思ったら化け物に変わったんで、教会ごと破壊する羽目になった。神殿騎士達も多くがその『勇者』に洗脳されて襲われたから始末した。悪いな」


 「ば、化け物……ですか? それに、洗脳?」


 「イヴの鑑定だと『悪魔』らしいが、俺にもよくわからん。『聖騎士』に俺の情報を渡し、洗脳の力を与えたみたいだ」


 腰の黒刀に目をやるが、クヅリは沈黙したままだ。コイツは何か知ってる。


 「『悪魔』ですか……? あれが……」


 「俺はこの世界の魔物に関しては、ギルドの資料以上のことは知らない。女神から貰った知識の中にもあのような化け物の存在は無かった。聖属性が有効だったが、それ以外では大したダメージは与えられなかったな」


 「不死者アンデッドでしょうか?」


 「さあな、近いとは思うが、どうだろうな……。 それより問題は、教会が『勇者』に浸食されたってことだ。何者かが『勇者』を使って、女神の依頼を受けた俺を排除しようとした。今回のことで、俺は教会を信じることができなくなった。あの謎の声の正体が分からない以上、もう一人の聖女の言葉も鵜呑みにはできない」


 「そ、そんな……」


 「レイ、これからどうするの?」


 「オブライオン王国に行く」


 「「「オブライオン王国へ?」」」


 「本当だったら、聖女から女神にコンタクトを取ってもらって『勇者』の情報、奴らの居所を聞きたかったんだ。この世界に来た時に、女神からは勇者共の顔と名前しか貰わなかった。半年以上前に、オブライオンに召喚されたとしか情報が無いのに、この広い大陸で全員探し出して殺すなんて、無理に決まってる。教会や聖女の情報が当てにできない以上、今現在、居場所が分かってる奴らを先に始末しに行く」


 (あの謎の声の正体も、女神の思惑も分からないままだ。勇者を殺していけば何か分かるかもしれないしな……)


 「レ、レイ殿……。申し訳ないが私は話についていけません……。ここでの話は聞かなかったことにして頂きたいのですが……」


 「マリガンさん、『勇者』の内、半数は冒険者として活動してる。別に巻き込むつもりは無いが、奴らが冒険者としてこの街に来ることもあるだろう。現に、メルギドで遭遇した三人の勇者は、この街から魔導列車で移動してきたんだろうからな。名前と特徴だけでも知っといた方がいいとは思うぞ? 言っておくが、あいつ等の殆どは十代のガキだ。それが、強大な力をもってその辺うろついて好き勝手やってる。知らずにいることの方が危険だと思うけどな」


 「な、な、な、なんですとっ!」


 「後で、名前と特徴を教える。ただ、同じ名前と姿で、ギルドに登録してるか分からないけどな」


 「……」


 マリガンは、魂の抜けたような表情で呆然としていた。まあ、一気に情報が入って混乱してるのは分かる。暫くそのままにしておこう。


 「それと、アンジェリカといったか、聖女のことに関しては、保証は出来ないが何とかなるかもしれない」


 「ほ、本当ですかっ?」


 「保証はできない。しかも方法としては闇魔法による記憶の消去だ。都合よく『聖騎士』との記憶だけ消せるかはわからないし、いつになるかも約束はできないがな。まあ、あのままにしとくよりはマシだろう」


 「……」


 アンジェリカも思いつめた顔だ。イヴの話では、闇属性魔法は忌諱されてると聞く。葛藤もあるのだろう。


 「レイ様」


 「なんだイヴ?」


 「アンジェリカ様と聖女クレア様ですが、如何されるおつもりですか?」


 「どういう意味だ? 如何も何も、怪我は治してやったんだ。今後俺の邪魔をしなければ、国に帰って好きにしたらいい」


 「このまま教会に戻れば、クレア様は分かりませんが、アンジェリカ様は恐らく処刑されると思われます」


 「は? なんでだ?」


 アンジェリカは俯いたまま言葉を発さない。否定しないということは、イヴの言う通りと思っているということか……。


 「『聖女様』をお守りできなかったということは、専属の護衛騎士としては死を以て償う程のことです。いくらローズ家の威光があっても処刑は免れないかと……。それに数百人の神殿騎士の死の責任も、このままですとアンジェリカ様が負うことになるかと」


 「……」


 (半分くらいは、俺が原因でこの女が処刑されんのか……) 


 「でも、それってあの『聖騎士クズ』に騙されてた教会が悪いんじゃないの?」


 「リディーナ様、教会は恐らくその非を認めることは無いでしょう。……そういう組織ですので」


 「……」


 (まあ、そりゃそうか……。大陸最大の宗教団体が、騙されて聖女を傷物にされ、騎士数百人を失いましたなんて公にできる訳無いか。内々に処理して隠蔽できる被害でもないしな。責任を取るヤツは身分が高い方がいいということか。……まあ、半分俺の所為だけど)


 

 「レイ様、アンジェリカ様とクレア様を、神聖国までお連れすることは出来ないでしょうか?」


 「「は?」」

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