第155話 あと一人
「レイ様、アンジェリカ様とクレア様を、神聖国までお連れすることは出来ないでしょうか?」
「「は?」」
「イヴ、アナタ何を言ってるの?」
リディーナが、真剣な表情でイヴに問う。
「申し訳ありません。出過ぎた発言とは重々承知です。レイ様が『勇者』討伐を優先すると仰られたことに反対な訳ではありません。ですが、このままクレア様とアンジェリカ様を見殺しには……」
「見殺しって……」
「気遣いは無用だ。聖女様をお守り出来なかったのは事実。その罪は罰せられるべきであり、私はその責任を取らねばならない」
アンジェリカが覚悟を決めたように、イヴとリディーナに言う。
「ですが、クレア様も……」
「聖女はどうなりそうなんだ?」
「……あの状態ではお役目を果たすことは無理だろう。だが、本国で丁重に保護されるのは間違いないはずだ。……心配はいらない」
「一つ聞きたいんだが、もし、聖女が死んだらどうなるんだ? 後継者的な意味でだ」
「あまり例は無いが……、万一、病や急逝で後継者を選出できなかった場合は、他の聖女様に神託が降り、後任が選出される」
「オブライオンの後任に関しては神託があったのか?」
「いや、まだそのような神託は承ってない……はずだ」
「聖女クレアがああいう状態だと、残り一人の聖女の神託が重要になるのか……。ヤバくないか? それ」
「「「え?」」」
「神聖国の聖女が洗脳されてたんだ。もう一人、確か『サイラス帝国』だったか? そこの聖女も正常かどうか分からないんだ。その聖女が今現在、唯一の聖女なんだろ? 神託が正しいかどうか、誰が判断するんだ?」
「「ッ!」」
アリア教会。別々の国にいる三人の『聖女』が同時に神託を受けることで、一人の人間、聖女や教皇によって「神」の言葉が捻じ曲げられることが無い。女神が作ったのか、よくできたシステムだ。しかも『聖女』は世襲では無く、聖女が死ぬ前に神託によって選ばれると以前イヴから聞いた。地球で最初に興った宗教がこのシステムだったら宗教戦争なんて殆ど起こらなかったろう。教義や解釈の仕方による、宗派の分離や新しい宗教も起こり難い。
だが、今そのバランスが崩れる。いや、崩れた……か?
「『サイラス帝国』がどんな国かは知らんが、オブライオン王国の聖女が死に、神聖国の聖女も精神を病んでいる、そのことを権力者が知った時に、どうなるのか……」
「「……」」
「このことを神聖国が知ったらどんな行動を取るか……。『サイラス帝国』に関しても、『神聖国セントアリア』についても俺は良く知らない。全員が善人で、欲を持たないなら協力してこの危機を何とかしようとするかもしれない。だが権力者の内、誰か一人でも欲をかけば……」
「教皇様は、欲などかかないっ!」
「だとしても『勇者』に騙された」
「くっ!」
「『サイラス帝国』は野心を持たないか? それに、『勇者』の手が及んでないと言えるのか?」
「そ、それは……」
「レイ、『サイラス帝国』は、あまり他国との交流が無いのよ。自由に行き来もできないし、人間の国だけど冒険者ギルドも無い。強大な軍事力があるって噂があるだけよ。ここからもかなり遠いし……」
「神聖国の教皇が正常かどうか、そしてサイラス帝国の聖女が正常かどうか……か」
「レイ様、それを判断できるのはレイ様だけです」
「イヴ……」
確かにそうかもしれない。実際にはイヴの『鑑定の魔眼』で看破するのが一番確実だが……。問題はそこじゃない。最悪なのは勇者共に教会、
くそっ……。なぜ気づかなかった? 女神に疑惑が湧いたことで、聖女を軽視した。あと一人いるしと思ってたが、馬鹿か俺は。
騎士を何百人殺せても、アリア教徒全てが敵になるのは拙い。戦術で圧倒して戦略が見えてなかった。流石に大陸中のアリア教徒が全て敵の状況で、勇者を殺して回るのは無理だ。
聖女クレアを保護し、クヅリの闇魔法で治す、ではどこで保護する? ここマネーベルはダメだ。最悪、メルギドのジジババに頼めば保護はしてくれるだろう。だが、サイラス帝国の聖女が堕ちてた場合……。
「今ならまだ間に合う……か?」
「「?」」
「はい。止められるのはレイ様だけです」
(イヴは何かが視えている。その眼の力か、それとも……)
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