第143話 謎の声

 ―『よくやった? 彼にはまだまだ働いてもらわなきゃ困るんだよ』―


 何処からともなく男の声が礼拝堂に響いた。

 

 ―『鈴木隆スズキタカシ……いや、今はレイだったか……』―


 「ッ!」


 ―『君はもう必要ない』―


 「……」


 (四方から声が聞こえる……。それに俺の前世の名前を知っている? 女神アリアの関係者か?)


 ―『依頼は中止だ』―


 「依頼は中止? 誰とも知れんヤツに言われて、はいそうですかってなる訳ないだろ。誰だお前は……。中止したいなら女神本人が言いに来い」


 ―『女神? クックックッ アーーーハッハッハッ! 女神はもういないよ? この様が新たな神だっ! だから依頼も何も無いんだよっ! まったく、の目を盗んで異世界人を召喚するのにどれだけ手間が掛かったと思ってる! それにどうやってか知らないが、『封印』がいくつも解けてるじゃないかっ! アリアめ、余計なことしやがって……』


 ザリオンと名乗る謎の男は、感情的な口調で捲し立てる。


 ―『はぁ……まあいい。今コレを覚醒させるのは本意ではないが、最後に役に立ってもらうとしよう。まったく、し易そうなヤツに聖属性を与えたというのに、次々始末しやがって……。これ以上、他の『勇者』を殺させる訳にもいかんのでね。君はここで処分させてもらうよ』―


 

 謎の声が途切れると、礼拝堂を覆う圧のあった空気も同時に消えた。



 ドクンッ



 イヴに滅多刺しにされ、息絶えたはずの伊集院の死体が跳ねる。



 『アレを殺してくんなましっ!』



 突然、レイの持つ黒刀から声が上がる。


 「「「なっ!」」」


 「クヅリ、お前何か知ってるのか?」


 『早くっ! は人では勝てんせんっ!』


 レイが視線を黒刀から伊集院に向けると、身体の内側から肉が盛り上がり、みるみる身体が肥大していく伊集院の姿があった。


 「なんだ、あれ……」


 は、全身が赤黒く変色し、いつの間にか腕や足も再生されていた。その背中には蝙蝠の様な翼が生え、まるで悪魔のような容姿に変貌したソレは、魔封の手錠を引き千切り、体長三メートルを超えたあたりでその変化が止まった。


 『$#〇$%▽&×$ーーー!』


 「古代語? ……復活だと?」


 悪魔の様な化け物から発せられた古代語にレイが呟く。


 『早く逃げてくんなましっ!』


 しきりに警告を発するクヅリだったが、誰もが目の前の光景に言葉を失い、動くことが出来なかった。


 「なんなのよ……あれ」


 リディーナの呟きに、イヴが『鑑定の魔眼』で伊集院を視た内容を思い出す。


『DEVIL(HUMAN)/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN/UNKNOWN……』


 ―悪魔(人間)、その他一切不明―


 「あ、悪魔……」


 

 斬ッ



 突然現れた化け物に誰もが動揺する中、レイが真っ先に飛び出し、斬撃を放つ。


 「ちっ 硬ぇな……。リディーナ、イヴ、離脱しろっ!」


 袈裟懸けに斬り付けた胴体の傷は浅く、出血も殆ど無い。その上、傷が恐ろしい速さで修復されていく。


 『#$〇$◇$%&#!』


 「誰が下等生物だ……」


 『&%$#!』


 化け物が掌をレイに向け、何やら口走るが、一瞬の黒い霧が発生するも、すぐにそれは霧散した。


 (コイツ、バカなのか? それとも伊集院の記憶は無いのか? 魔法が使えない結界を魔導具で作ってただろ……。しかし、聞いたことない呪文だ。誰が撃たせるかよ)


 レイは、自身も身体強化が使えない結界内で、連続で斬撃を繰り出し、化け物に斬り付ける。


 「レイッ!」


 「早く離脱しろっ! 俺もすぐ行くっ!」


 「――ッ!」


 レイの斬撃を受けても、虫でも払うような仕草をしながら何かを探す化け物。


 (眼中に無いってか? だが


 レイは、一目見て直感で判断した。この化け物はその辺の魔物とは違う。この世界に来て、どんな巨大な魔物を見ても脅威と感じなかったレイが、目の前の化け物が内包する膨大な魔力を感じて、初めて恐怖を覚える。刀を振り、己を鼓舞して化け物と対峙するレイ。背を見せれば殺られる、そうレイの勘が訴える。


 (魔法を使わせたらヤバイ。だが俺も魔法が使えないのはかなり不利だ。さっきの謎の男の言葉も気になるが、今はこっちだ。全力でやらないと殺られる!)

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