第111話 古代遺跡③

 「「「「「ぜぇ ぜぇ ぜぇ……」」」」」


 「「はぁ はぁ はぁ……」」


 『魔戦斧隊マジクス』の隊員達は、疲労の限界に来ていた。隊員の一人が『死の騎士デスナイト』に惨殺され、後先考えずに魔力を全開にして戦った隊員達。一人殺されはしたが、その後は死者を出すことなく、何とか十体全てを討伐できた。流石「メルギド」の最高戦力と言われるだけの部隊ではあるが、その代償は大きく、ほぼ全ての隊員達の魔力は底を尽きかけていた。


 リディーナとイヴも、肩で息をし体力に余裕が無くなっていた。回避に専念していたものの、魔法も身体強化も使えずに、かすり傷とは言え、いくつも手傷を負っていた。


 これが最後であってくれ、もう一度、敵が湧いたら終わりだ。『魔戦斧隊』の誰もがそう思っていた。


 「早く錠を外しなさいっ! このままじゃ本当に全滅するわよっ! 」


 「くっ……」


 疲弊した隊員達を見渡し、苦虫を嚙み潰したような顔のギル・アクス・メルギド。だが、二人の手錠を外すかの判断を迷う間に、無常にも再度アナウンスが流れる。


 ―『&〇$”×#〇▽$!&%』―


 ―『ε』―


 ―『Δ』―


 ―『γ』―


 ―『β』―


 ―『α』―


 カウントが終わり、壁から現れたのは五体の『竜骸骨スカルドラゴン』。『竜』の骨格をした骸骨スケルトンは、体高およそ五メートル、尻尾を入れた全長は十メートルはある。広いと感じていた部屋の大きさが、狭く感じるほどの圧倒的な存在感。



 「だ、だめだ……。勝てない……」



 一人の隊員がそう声を漏らし、膝を付いた。


 「バカ野郎っ! なにしてるっ! 立てっ! 」


 他の隊員が慌てて叱咤し、心が折れた隊員を引き起こす。同時に一体の『竜骸骨』の口が開き、魔力が収束していく。


 「まさかっ! 息吹ブレスが撃てるの……? 」


 リディーナの疑問に答える様に、隊員二人に向けて『竜骸骨』の息吹が放たれる。



 「「あばああああぁぁぁ……」」



 息吹を浴びた隊員達は、装備した鎧ごと肉を溶かされ、最後には骨も残さず溶けてしまった。



 「「「「「ヒィッ!」」」」」


 

 「酸性の息吹アシッドブレスッ! 早くしなさいっ! 死にたいのっ! 」


 ギルの胸倉を掴み、叫ぶリディーナ。『竜』の骨格とは言え、ただの骸骨。『竜』の特徴である『息吹ブレス』を放てるとは思っていなかったリディーナは、その能力と威力に焦った。あれが五体一斉に放たれれば、魔法の使えないリディーナ達に防ぐ手立ては無い。


 「ぎゃあああ」


 「うごっ」


 五体の『竜骸骨』が隊員達を襲いはじめる。巨体から繰り出されるパワーは尋常ではなく、攻撃範囲も広い。いつの間にか何人かの隊員達の手に持つ魔戦斧からは光が消えており、魔力が無くなって動きが鈍った隊員から『竜骸骨』の餌食になっていく。鋭い爪で引き裂かれ、長い尻尾に叩き潰される隊員達。


 「ば、ばかな……俺の『魔戦斧隊』がまた……。そんな……力が手に入るんじゃなかったのか? 勇者が得た力を……」


 リディーナに胸倉を掴まれたまま、呆然と潰された隊員達を見ていたギルは、力無くブツブツと呟きリディーナの問いかけに反応する気配が無い。


 

 「レーーーイッ!!! 」


 リディーナがレイの名を叫ぶ。イヴはその場でへたり込み、諦めようとしたその時、

 

 ゴン


 ゴン


 ゴン


 部屋の扉の外から衝撃音が響く。


 ピシッ


 扉に線が走る。次第にその線が多くなり、扉がバラバラと崩れていく。




 扉の向こうには『魔刃メルギド』を手にしたレイが立っていた。


 「レイっ! 」


 「レイ様っ! 」


 ギルを突き飛ばし、レイに駆け寄るリディーナ。イヴも慌てて起き上がり、レイの元へ駆ける。他の隊員達は『竜骸骨』から逃げ回っており、二人に構っている状況にない。


 「二人共、遅くなってすまない」


 レイは、駆け寄ってきた二人の負った傷を見て表情を変える。


 「全員殺す」


 そう言ってレイは無言で二人に『回復魔法』を掛け、次に『浄化魔法ピュアフィケーション』を放って『竜骸骨』を消し去る。


 「「「「「―――ッ!」」」」」


 目の前で『竜骸骨』が消滅し、何が起こったのかと困惑する『魔戦斧隊』の隊員達。


 「(相変わらず凄い威力ね……。まさか一瞬で全滅させるなんて。ていうか、レイ、めちゃくちゃ怒ってる?)」


 「(ヤ、ヤバいですね……。私たちに向けられたものじゃないと分かっていても殺気が半端じゃないです……)」


 レイは冷たい目で室内を見渡す。部屋には、ギルと『魔戦斧隊』の八名、それと中央上空には『不死魔術師リッチ』が健在だった。


 (レイの『浄化魔法』を受けても『不死魔術師』が無傷? どういうこと?)


 リディーナが疑問に思うも、『竜骸骨』が全滅したことで『不死魔術師』から再度アナウンスが流される。


 ―『&〇$”×#〇▽$!&%』―


 ―『ε』―


 ―『Δ』―


 「レイッ!」


 「何が『』だ。ふざけやがって……」


 「「え?」」


 ―『γ』―


 ―『β』―


 ―『α』―


 周囲の壁から三体の『竜骸骨スカルドラゴン』が現れる。その手には剣と盾、鎧に覆われ、言うなれば『竜骸骨騎士スカルドラゴンナイト』と言えるような姿形だ。


 ―『浄化』―


 レイは先ほどと同じように魔法を放つが、『竜骸骨騎士』は消え去るどころか何の影響も無いかのように、レイに襲いかかってきた。


 「レイの『浄化魔法』が効かない? まさかあの鎧の所為? 」


 「そんな……。魔物が魔法装備マジックアイテムを? 」


 通常、魔物が武器や鎧を装備していることは、珍しいが無いわけでは無い。特に「上位種」と呼ばれる一定の知性がある魔物は、人間のように武装することを好む魔物もいる。だが、『魔法装備』を装備した魔物に関して、イヴは聞いたことが無かった。


 「関係ない」


 レイはそう言い捨てると、『魔刃メルギド』を振り抜き、迫る『竜骸骨騎士』を一刀で両断する。


 とても片腕による斬撃とは思えない、凄まじい威力の斬撃が、『竜骸骨騎士』を襲う。一体がまたも簡単に両断され、残る一体が魔力を収束し息吹を放つも、レイの瞬時の『炎の壁ファイヤーウォール』の魔法で防がれる。その隙に素早く背後に回ったレイは、最後の一体も一刀で斬り伏せる。


 唖然とする『魔戦斧隊』と部屋の入り口でレイを見ていた衛士隊達。そして、何故かうっとりした表情でレイを見つめるリディーナと、目を丸くして驚くイヴ。


 ―『&〇$”×#〇▽$!&%』―


 再度アナウンスが流れる。


 「『戦闘中止。訓練は終了だ』」


 レイがで言い放つと、部屋中央上にいた『不死魔術師リッチ』が靄となって消えていく。


 「「「「「へっ?」」」」」


 レイは、呆気に取られていた近くの『魔戦斧隊』の隊員に刀を向ける。


 「二人の手錠の鍵はどこだ」


 刃を向けられた隊員は、慌ててギルの側にいる側近の隊員を指差す。少しでも反抗すれば斬り殺される、そう瞬時に思わせるほどの殺気を向けられ、無意識に同僚を指差してしまった隊員。


 「お前が鍵を持ってるのか? 早くよこせ」


 鍵を持っているであろう側近は、指示を仰ごうとギルを見る。



 ヒュッ



 レイが無言で『風刃エアカッター』を放ち、側近の腕を斬り飛ばす。


 「ぎゃあああああ」


 斬られた腕を押さえ蹲る側近。それを無視して、黙って冷たい視線を送るレイに、側近の隊員は慌てて懐から鍵を二つ取り出して、震えた片手でレイに放り投げた。



 ヒュッ



 側近が鍵を放り投げた途端、またも『風刃』でその首が切断された。



 「何、投げてんだよ。俺に拾えってか?」



 「「「「「――ッ!」」」」」

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