第112話 古代遺跡④
「何、投げてんだよ。俺に拾えってか?」
「「「「「――ッ! 」」」」」
リディーナ達の手錠の鍵を放り投げた側近の首が、レイの『風刃』によって切断される。
息を呑む『魔戦斧隊』の隊員達。理不尽に仲間が殺されたにも関わらず、誰一人として声を上げる者はいない。レイの放つ殺気は部屋を覆いつくす程であり、先程までの
一歩でも動けば、一言でも発声すれば命は無い。そう誰もが思った。
そんな重い雰囲気の中、レイの後方から一人の衛士が駆け出し、床に落ちた鍵を拾ってレイに恭しく差し出す。
「ありがとう」
レイがその衛士に礼を言うと、衛士はサッと敬礼し、後方へ下がって行った。
((彼こそ勇者ね(です)……))
…
「信じてたわレイ! 必ず助けに来てくれるって! 」
レイの手によって『魔封じの手錠』を外されたリディーナが、レイに抱き着きながら囁く。イヴも手錠を外されて安堵した表情でレイを見つめる。
三人を邪魔することなく、直立不動で後方に待機する衛士隊。それとは対照的に、『魔戦斧隊』は誰もが俯き、武器を捨てて床にへたり込んでいた。
「見える所の傷は治したが、他に怪我はないか? それと他に何かされてないか? 」
「大丈夫よ、私もイブも何もされてないわ。ただ、昨日から何も食べてないし、水も飲ませてくれなかったからお腹ペコペコ、喉もカラカラよ」
「なんだって? 」
レイが視線を『魔戦斧隊』に向け、威圧するように呟く。
「くそが……」
ビクンと顔を上げ、怯える『魔戦斧隊』の隊員達。もはやエリート部隊の面影はどこにも無い。
「リディーナ殿、イヴ殿、これを」
衛士隊の一人が、二人の装備を持ってくる。五人の冒険者に持っていかれた二人の武器と
「ありがと」
「ありがとうございます」
二人は装備を受け取り、それぞれ確認する。魔法の鞄から取り出した水を飲みながらリディーナが尋ねる。
「それより、どうして攻撃が止んだの? さっきレイが知らない言葉を言ってたけど、ひょっとして古代語?」
「ん? ああ。ここに来る途中にも古代語の表記が色々あったしな。それで分かったこともある。……だが今はそれより『
顔を青ざめる『魔戦斧隊』の隊員達。
「俺の女をこんな目に遭わせやがって……」
レイはリディーナとイヴをその場に残して、『魔戦斧隊』に向かって歩き出す。
「人間風情が……。もう少し、あと少しだったんだ……。それなのに……。畜生……。…………テメーさえいなければっ! 」
ギルが突然、魔戦斧を振りかざし、レイに襲い掛かる。
「そこの女ども生贄にして、俺が力を……オブッ」
瞬く間にギルの目の前に移動したレイが、刀をギルの腹に突き刺す。
「今なんつった? 生贄? 」
「オブッ オ、オエッ」
レイは刀を捻じり、苦痛を与える様にギルを弄る。ギルは魔戦斧を手放し、慌てて刀を両手で掴む。レイは刀を掴まれたまま、刃を強引に横に寝かせ、真横に力を入れる。
「や、やめ……」
「おまえが死ね」
ギルの抵抗空しく、レイに力任せに刀を振り抜かれ、ギルの腹が真横に斬り裂かれた。
白目を剥き、絶命して床に崩れ落ちるギル。
「次は誰だ? ……いや、面倒だ。全員まとめて殺してやる」
レイはそう言って、目の前に魔力を収束させる。魔力の塊からは紫電が迸り、電撃を帯びた球体が形成される。
「や、やだ……。なんか今日のレイ、ちょっと乱暴だけど……カッコイイかも」
「はい、カッコイイです……」
リディーナとイヴの呟きにドン引きの衛士達だったが、一人の勇者が声を上げる。
「お、お待ちくださいレイ殿っ!」
先程鍵を拾ってきた衛士だ。直立し、敬礼をしながらレイに願い出る。
「で、できれば、この者達は連行して、国の裁きを受けさせたいのですが……」
「……」
静まり返る室内。『魔戦斧隊』の隊員達が一斉に息を呑む。
「……次は無い。二人にまた何かあれば、国ごとバラバラにしてやる」
「「「ヒィッ」」」
レイはすぐにでも全員殺したかった。だが、衛士達の献身的な協力が無ければ、助けが間に合わなかったかもしれない。多少冷静になり、協力してくれた衛士達の意を汲むことにした。
「……後は任せる。リディーナ、イヴ、帰ろう」
レイは魔力を霧散させ、刀を納めて二人を連れて部屋を出て行った。
…
「レイ、さっきの話の続きだけど……」
「私も気になります」
リディーナとイヴが、遺跡の通路を歩きながらレイに話しかける。
「古代語のことか。この通路にもあるが、壁に模様みたいのがあるだろう?」
「「?」」
「擦れて見難いが、これは古代語で『C-1通路』って書いてあるんだ。それにあっちの部屋みたいな空間の入り口の上には『第三会議室』、殆ど劣化して読めるのは一部だけだが、中には「軍」に関係する用語なんかの表記もあったんだ。ここは古代の軍事施設だよ」
「「軍事施設?」」
偶に見かける擦れた古代語の文字を見て、レイはそう結論付けた。厳密に言うと、地球のビル内部の表記や文言に似ているのだ。「備品室」や「第〇〇会議室」などの表記や、「弾薬保管庫」、「第〇〇兵舎」など軍事関係を思わせる表記があったのだ。
レイは古代語の解読が進まない理由も分かった気がした。今現在、存在するモノがない言葉は、文脈が読めても翻訳のしようが無い。文字と併記して挿絵でもあれば別だが、存在しない物の文字なんて分かる訳がない。例えば、古代語で『スマホは便利だ』そう記載があっても、『スマホ』の解読は殆ど無理だろう。膨大な文献を照らし合わせて分析しても、自分たちより遥かに進んだ文明を理解するのは難しい。文明が進むほど、生み出される言葉の数や表現が多くなるからだ。
それに軍施設の名残なら、地下深くに階層が築かれ、下層ほど貴重な発掘品が多いのも納得できる。地球の大規模な軍事施設は、空爆を受けても基地機能が失われないよう、地下深くに建造されることが多いし、深い階層ほど、重要な機密や研究室などが設置、保管されるからだ。
「
「それが本当なら凄い発見よ? 他の古代遺跡もそうなのかしら?」
「それは見てみないと分からないな。全部がそうじゃないと思うが、他も同じようなものかもしれないな」
「さっきの最下層の部屋は何でしょうか?」
「訓練施設か実験施設だろうな。火口の奥にも同じような部屋があったろ? 恐らくこの地下遺跡はあそこまで繋がってるんだろう。大昔、ここで軍事技術の実験でもしてたのかもしれないな。さっきの死神みたいなヤツも、戦闘訓練のプログラムのようだったぞ? あまり考えて言った訳じゃなかったが、古代語で中止と言ったら止まったしな」
「「ぷろぐらむ?」」
「詳しくは俺も説明し難いが……。まあ、予め決められた手順を実行するよう命令されてるんだ。あれらが本物の魔物かは分からないが、作られた存在であることは間違いないだろうな。あの部屋に入った者に魔物をぶつけて訓練か実験を行っていたんだろう」
「そう言えば、消滅した
「そう言えばそうね。作られた存在って、大昔にそんな技術があったなんて……」
(斬った感触からして幻影みたいな幻じゃなかったが、地球なんて目じゃない超高度な軍事技術だ)
「あのギルって代表が「勇者が力を得た」とか、私達を「生贄」とか言ってたけど、何だったのかしら?」
「『勇者』が以前にここを訪れたことがあるってことでしょうか?」
「さあな、その辺は代表のジジババ連中に聞けば分かるだろ」
「「あっ!」」
「どうした? 二人共」
「今ので思い出したわ。あのババア……。帰ったら問い詰めないとっ!」
「?」
「私たちの裸の石像が、ユマ婆の経営する服飾店にあったんです。しかも迎賓館で見たものとポーズが違うものが……」
「……」
レイは、三人の胸像が街の職人や店に拡散しているのを、捜索の途中で知っていた。だが、そのおかげで通報があり、二人を助けることができたのだ。別に胸像ぐらいは仕方ないか、と思ってはいたが、裸の石像が出回ってるとなれば話が違ってくる。
「あのババアには、一度キッチリ言っておかないとな……。けど、俺達の胸像はもう手遅れだな。殆どの店や職人の手に渡ってるらしい。まあそのおかげで二人を追跡できたんだが……」
「「そ、そんなぁ……」」
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