第107話 収監再び

 「ちょっとアンタ達っ!」


 「「ッ!」」 


 リディーナとイヴが振り返ると、二人の前には、五人の冒険者らしい男女がいた。剣士らしい二人の男と、その連れらしい派手な格好をした女三人。女はそれぞれ剣士と魔術師らしい装備を身に着けている。剣士三人と魔術師二人の冒険者パーティーだ。


 リディーナとイヴに声を掛けたであろう、魔術師らしき茶髪の女は、再度二人に声を上げる。


 「見てたわよ? 一体どういうカラクリ? あんな高い店で、大量の服を代金も支払わず出て来るなんてね。なんかあの店の弱みでも握ってるわけ? それにその、便利なモノ持ってるのねぇ~」


 リディーナが小さく舌打ちする。以前のソロの時ならやらかさないミス。普段は大量に買い物をした場合は、一旦宿の部屋まで運んでもらい、誰の目にも触れない部屋で鞄に収納するところを、今日は迂闊にも店内で入れてしまったのだ。しかもあんなに騒いだ後に、だ。自分たちの裸の石像に動揺してたなんて言い訳にもならない。


 「え? なになに? この女、魔法の鞄マジックバッグ持ちなの? てか、エルフじゃん! しかも超イイ女っ!」


 軽薄そうな男が前に出てきて、上から下にとリディーナをいやらしい目つきで見てくる。もう一人の男もねっとりとした視線をリディーナに送る。


 「「……」」


 「黙ってるけど、そっちの青髪も持ってるでしょ、魔法の鞄~」


 「おいおい、一人一つ持ってるって、どっかのお姫様かな~? そこらの貴族だって持っちゃいない超貴重品だぜ?」


 「ちょっとツラ貸しなよ? どっかのお姫さんかもしれないけど、護衛も連れずにノコノコ散財してんだ、ちょっと世の中の厳しさを教えてやるよ!」


 「いいね~、俺らが世間ってやつを手取り足取り教えてやるヨ! 勿論、授業料は払ってもらうけどなっ♪」


 そう言って二人を囲む冒険者達。ため息を付きながらもそれに従うリディーナとイヴ。


 どうせ、人目を避けた裏路地にでも連れ込んで鞄を奪うつもりなのだろう。それに男達はそれ以上の要求もしてくることが目に見えていたリディーナは、路地に入ったらさっさと殺そうと考えていた。それぐらい『魔法の鞄マジックバッグ』を所持しているということは、知られないに越したことはない。所持してることが広まれば、いつ誰が襲って来るか分かったものではないからだ。


 だが、それに水を差す声が掛けられる。


 「おいっ! そこの者っ!」


 声を掛けてきたのは三人の衛士達。


 「そちらのに何をしているっ!」


 「「「「「ッ!」」」」」


 「ちっ……。いやいや何でもないですよ~、ちょっと話してただけじゃないですか~」


 軽薄そうな男が、ヘラヘラ笑いながら衛士達に手を振る。男達が下手に出るのは、ここ「メルギド」が陸の孤島だからだ。この国を出るには、魔導列車か、強力な魔物が跋扈する森を走破するしかない。何か罪を犯して追われれば、捕縛されるのは必至だ。


 「本当ですか?」


 衛士の一人がリディーナに尋ねる。リディーナは、何故この衛士達が自分達のことを知っているかのような態度なのか疑問に思ったが、先ほどの『ファッションセンターめるぎど』の石像が頭をよぎる。それはイヴも同様に思ったようで……、


 ((ま、まさか……))



 「お前達、何をしている!」


 リディーナがどう返答しようか迷ってる間に、別のドワーフ達から声が掛かる。衛士達とは違う重装備を纏った『魔戦斧隊マジクス』だ。先頭には顔に包帯を巻いたギル・アクス・メルギドの姿と十数人の隊員達がいた。


 ギルは、リディーナとイヴの顔を見るなり、ニヤリとした顔で隊員達に指示を飛ばす。


 「全員連行しろっ!」


 「お、お待ちくださいっ! コイツらはともかく、この御二人は……」


 「黙れ! たかが衛士が、この俺に口答えするのか?」


 「し、しかし……」


 「無礼者め、おい、コイツらも一緒に拘束しろ」


 「「「はっ!」」」


 絡んできた冒険者五人と、リディーナ、イヴの二人、それと衛士達三人が『魔戦斧隊』に拘束され、連れ去られた。


 …


 『魔戦斧隊』の本部の地下にある牢には、装備を押収されたリディーナとイヴ、冒険者五人がそれぞれに分けられ収監されていた。牢に使用してる素材は全て『魔封の素材』で出来ている。身体強化魔法は勿論、イヴの魔眼も封じられる牢だ。


 「どうしますか? リディーナ様……」


 「どうもこうも待つしかないわね。でもあのギルって代表の狙いと、衛士達も同時に拘束されたのが気になるわ。あまり楽観して待つのも拙そうね」


 「迎賓館の会議室で、レイ様に難癖を付けていた男ですね。ひょっとして逆恨みでしょうか?」


 「かもしれないわね。私達を拘束してレイに対する当て付けにでもする気かしら?」


 「バカなんでしょうか?」


 「バカなんでしょ」


 …


 「お前達は釈放だ。とっとと出てけ」


 冒険者達五人を収監していた牢を開けながら、牢番の隊員が五人を釈放する。


 「ふー、まったくエライ目にあったぜ~」

 

 「ほーんとよね~」


 「あ、そうそう衛士さん、さっきの二人の荷物にと武器があったでしょ? アレ、私たちのなんだよね~、引き取っていっていいかしら?」


 「あん? ……ちょっと待ってろ、確認する。それとな、俺達は誇りある『魔戦斧隊』だ! 衛士と一緒にするんじゃねぇ!」


 「はーい。……おーこわ」


 …


 『魔戦斧隊』の地下牢を出た五人は、それぞれ牢で手にした物を見ていた。


 「あー、やっぱり中身は開けないかー」


 「魔力を登録した本人しか開けないんだろ? でも鞄だけでも一生遊んで暮らせるぜ?」


 「それが二つもだもんね~」


 「まったくダメ元で言ってみるもんだぜ! まさか本当に渡してもらえるとはなっ!」


 「ホントよね~、ドワーフってバカなのかしら? キャハハハ~♪」


 「こっちはハズレだ。なんだこの細剣レイピア魔銀ミスリル製みてぇだが、刃毀れがすげぇ。売れるかわかんねーぞ?」


 「こっちの短剣はアタリだぜ? これ多分、魔法剣だ」


 「おおっ、すげぇなそれ……。じゃあ売るのはもったいなくね?」


 「でも持ってたって使えねぇよ。適した属性魔法が使えなきゃただの短剣だぜ?」


 「へー、適した属性魔法って、何の属性? アタシなら使えるかな?」


 「さあな、どっかで『鑑定』でもしてもらえば分かんだろ?」


 「えー、お金もったいなくない? どうせ売るんでしょ?」


 「バーカ、俺達はもうすぐ超金持ちになるんだぜ? 鑑定代ぐらいケチってどうすんだ? それに武器はこの国で売るより「ジルトロ」の方が高く売れるが、『鑑定』はここでやっといた方がもっと高く売れんだよ」


 「そっか!「メルギド」の鑑定書付きの方が価値が上がるもんね!」


 「そういうこと♪ それに次の列車まで日数もあるしよ。全部鑑定して、ゆっくり分け前でも考えようぜ?」


 「「「「賛成~♪」」」」

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