第82話 龍の宝

 『炎古龍バルガン』を討伐したレイは、その解体作業を行っていた。『龍』が大き過ぎるので、三人の魔法の鞄マジックバッグに分けて入れることにしたのだ。傷みやすい内臓のある胴体と頭部は、時間停止機能のあるリディーナの鞄に入れ、四肢や尻尾はレイとイヴの鞄にそれぞれ仕舞うことにした。


 「竜はどの部位も捨てる所が無いほど貴重だけど、私も解体なんてしたことないし、帰ってゲンマ爺かユマ婆に聞いてみましょう」


 「『竜』の素材は冒険者ギルドでも滅多に入荷しない素材ですからね。この『龍』が『古龍』かは疑問ですが、属性をもった『龍』であることは間違いありません。どれほどの価値があるか、想像もつきません…… 」



 黒い刀で豪快に『龍』の四肢を落としていくレイ。


 (試しに鉄製の短剣で『龍』の皮膚を切ってみたが、全く切れないどころか、短剣の刃が傷んでしまった。さっきはあっけなく斬れたと思ったが、どうやらこの刀の性能のおかげだったみたいだ。マジで凄いなコレ)


 「しかし、すごいわね~、その黒い刀」


 「『龍』がスパスパ斬れてますね。ちょっと『鑑定』しても宜しいでしょうか?」


 「ああ、後でイヴに頼もうと思ってたから丁度いい、鑑定してみてくれ。ゲンマ爺の師匠が作った刀らしいが、まだ未完成みたいなんだ。十分過ぎる斬れ味だけどな」


 「未完成? とてもそうには見えないわね…… 」


 「……『魔刃メルギド』。どうやら未完成なのは、刀身内にある『黒龍』の魔石が原因みたいですね」


 「魔石が原因? 」


 「レイ様、その刀『意思あるインテリジェンス武器ウェポン』です。恐らく『黒龍』の魂が宿っていて、その意思が魔力を遮断しているようです。……とんでもない剣ですよ? 」


 「なんたるファンタジー武器…… 」


 「その武器の状態が『閉』の状態と視えるので、恐らく『開』の状態もあるのかと…… 」


 「『開』ねぇ……。まあこのままでも十分凄いけどな。因みにその『開』の状態にするにはどうするか分かるか? 」


 「申し訳ありません。そこまでは視えません」


 「そうか、でもまあ呪われてる訳じゃないんだろう? 」


 「それは大丈夫です。装備者に何かしらの異常がでるような表示は視えません」


 「なら十分だ」


 (剣の力を開放っ! ……なんて、厨二過ぎる。いいよこのままで)



 「……ん?」


 「あっ」


 「?」


 話ながら『龍』を鞄に収納していると、奥に扉が出てきた。周囲の壁が溶けているにも拘らず、その扉は少しも傷んでいない。


 「何かしら? 少し大きいけど、人間サイズの扉よね? 」


 「扉に何か文字が見えますね…… 」


 「古代語だな。所々文字が擦れて見えないが…… 」


 (第三……軍……研究室? やけに現代っぽい単語だ。さっきまで『龍』だのファンタジー要素で溢れてたのに違和感が半端ないな)


 「どうしたの? そんな難しい顔して? ……レイ? 」


 「ん? ああ、なんでもない。どいうやら古代文明時代の物だな。とりあえず開けてみるか」


 (何が出てくるか分からないし、危険かもしれないが、ここで開けないで帰るってのはちょっとな…… )


 扉は特に鍵が掛かっているわけでもなく、簡単に開いた。ゆっくりと慎重に扉を開く。


 (罠や仕掛けみたいなのは無いようだな…… )


 「うわー、ちょっと何これ! ひょっとして龍の宝ってやつ? 」


 「竜は光物を集める習性があるってお伽話は本当だったんですね…… 」


 「確かに凄い光景だな…… 」


 部屋の中には金や銀の塊と様々な宝石類、それに、魔銀ミスリル魔金オリハルコンの塊が大量に積まれている。それに人間から集めたのだろうか、金銀細工の王冠や首飾り、華美な装飾が施された武具なども山の様にある。いくつもある宝箱のような箱には金貨がぎっしり詰まっていた。


 (確か、大陸共通の硬貨ができたのは冒険者ギルドの設立された二百年ほど前ぐらいだったはずだから、この宝は二百年前からこれまでの間に集められたものか? あの『炎古龍バルガン』の年齢と合うっちゃ合うが、装飾品や武具はもっと古い物の様な気がする…… )


 「一つ一つ『鑑定』していたら何日掛かるかわかりません…… 」


 「とりあえず、頂いて…… 」


 ……おこう、とレイが言う前に、リディーナとイヴが、すでに手分けして財宝を魔法の鞄マジックバッグに放り込んでいた。


 (二人共、目が金貨になってるぞ…… )


 みるみる室内の財宝が鞄に仕舞われていき、部屋の壁が見えてきた。レイがこの世界にきて初めて目にする近代的な壁。六角形のタイルのようなものが精巧に張られており、半球状の部屋だと分かってきた。それに、光源が無いにも関わらず、部屋全体が明るい。


 (ドーム状の部屋か……。今まで見た街のどの部屋よりも近代的だ)


 「レイ、本が何冊か出てきたけど…… 」


 「古代語の本か? ちょっと見せてくれ」


 かなり古くて薄い本ばかりだ。ボロボロで文字も微かにしか読み取れない。


 「日誌? ……研究……実験……失敗? 」


 「何が書いてあるの? 魔導書? 」


 「いや、何かの研究日誌みたいだが、劣化が激しくてどれもほとんど読めない。イブ、壁を『鑑定』してみてくれないか? 」


 「……『対衝撃』、『防爆』? 『防火』素材とありますが……。どうやら千年以上前の物みたいです」


 「やはり、古代の実験施設みたいだな。さっきの『龍』とは関係ない部屋みたいだが、中身の財宝はあの龍が集めた物だろうな。金貨もあるんだ、年代が合わないだろう」


 「そう言えば、イヴは『鑑定』で古代語は読めないの? 」


 「古代語という鑑定結果がでるだけで、文字は読めないんです…… 」


 「へー、そんなんだ……。ん? レイ、奥にまた扉があるわよ? 」


 「行ってみよう」


 しかし、扉を開けた先には土砂で埋もれて先へは進めなかった。この部屋が特別に頑丈に作られたのか、この部屋だけ空間が保たれていたようだ。


 「それにしてもおかしな部屋ねー。何もないのに明るいし」


 「壁自体に発光機能があるようですね。こんな壁は視たことがありません」


 「古代文明の遺物だろうな。引っぺがして持っていったら何かに使えそうだが、崩落が怖いな。他に何も無いならもう帰るか…… 」


 「でも凄いお宝よね~。もう一生稼がなくていいくらいよ? ウフフ~♪ 」


 「私が後で責任を持って『鑑定』して選別致しますっ! 」


 「イヴ、助かるわ~ 」


 (龍を倒して、お宝ゲットか……。いかにもファンタジーな話だが、この部屋の近代的な場違い感の方が気になる……。それに龍の弱さや年齢も気になるし、日誌の単語も気になる。第三と扉にあったが、第一や第二もあるのか? 埋もれた先にそれがあったのかもしれないが、今は分からないことだらけだ。その他にもこの刀のことも気になるし、イヴの出自も気になる。龍の血か……。確か、竜人と呼ばれる種族がいたはずだが、イヴとは見た目が違う。マネーベルを襲った不死者の中に竜人族がいたが、角や尻尾が生えていた。竜人と龍は違うのか? まあ考えても答えは出ないが、気になることだらけだ。ピースの足りないジグソーパズルをやっているようでモヤモヤする…… )


 「どうしたの? レイ? 」


 「いや、何でもない。そろそろ帰るぞ。結界を張るから二人共離れるなよ? 」


 「「は~い」」

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