第79話 工房ユマ

 「……お前ぇ、それで何する気だ? 」


 (拘束して尋問する為デス)


 「魔封じの素材や加工品はここにはねぇし、儂は作れねぇ。それの手枷や足枷は治安部隊にしかねぇし、作成してる工房も一般向けには絶対に売らねぇ。悪いが諦めろ」


 「そうか……。まあそうだよな」


 魔封じの素材で作った拘束具があれば、手足を折ったり、口を塞がなくていいんだが……。流石に機密性が高いか。まあ牢屋の場所は分かるし、この街を出る際に失敬しておこうかな……。


 「ゲンマ爺、武器は選んだからユマ婆のとこ紹介して! 」


 リディーナとイヴが準備万端といった様子でレイとゲンマの元に戻ってきた。


 「慌てんな。今、弟子を向かわせてる。あの婆さんも歳だからな。生きて工房にいるか確認して、仕事ができそうなら、客が行くと言伝を言い付けてある」


 「「「…… 」」」


 「大丈夫なのか? それ…… 」


 「前回会ったのは随分前だけど、腕は確かなのよね。ちょっとクセが強いけど…… 」


 「「ちょっと? 」」


 …


 暫く待っていると、ゲンマの弟子が帰ってきて、ユマ婆の生存と工房が開いているとの報告があった。ゲンマに礼を言い、武器の新調にまた来ることを伝える。


 「それと、礼って訳じゃないが、リディーナ、魔金剛アダマンタイトの塊があったろ? それ爺さんにやってくれ」


 「そうねー。色々無理言っちゃったし」


 リディーナは鞄から魔金剛の塊をゲンマに渡す。


 「こりゃでけぇ……。いいのか? 元々、金を貰うつもりはねぇが、代金より高ぇぞこりゃあ…… 」


 「あら? それで私達の新しいのを作ってくれてもいいのよ〜? 」


 「へっ、それも悪くねぇな。大事に取っておいても意味ねぇしな。ガッハッハッ! 」


 「世話になった。まあまたすぐに来るけどな」


 「ああ、わかった。『銃』の件は話を通しとく、次来た時には案内してやる」


 「わかった。色々ありがとう」


 …


 工房ゲンマを出たレイ達は、防具を調達しに『工房ユマ』へ向かった。


 「リディーナは場所が分かるのになんで紹介がいるんだ? 初めて会う訳でもないんだろ? 」


 「前回私が会った時でもユマ婆はかなりの高齢だったのよ。物忘れが激しいからか、ユマ婆の古くからの知り合いを通してじゃないと毎回大変なのよ…… 」


 「いくつぐらいなんだ? 」


 「三百歳は、いってないはずだけど…… 」


 聞けば、ドワーフの寿命は三百年程。それも女性の方が長生きで、男性は二百歳前後が一般的らしい。理由は多分酒だと個人的に思う。街の路上でも酒を飲んでるのは男のドワーフばかりだ。


 …


 『工房ユマ』と、書いてある古い看板の掛かった建物の中には、一人の老婆がいた。


 「ユマ婆、お久しぶり。私よ、リディーナよ、覚えてるかしら? 」


 「あー…… 誰だぁい? 」


 梅干し。俺のユマ婆への第一印象だ。顔全体が梅干しのように皺くちゃだ。齢、三百歳近いのも頷けるようなお婆ちゃんだ。目も皺で隠れていて、見えてるのかもわからない。


 建物内は、シックなテーラーを思わせるように様々な種類の服が見本の様に飾られ、生地のサンプルが額に収めて掲示してある。さっきのゲンマ爺さんの工房とは対照的に、センスのある調度品や家具で落ち着いた雰囲気のある室内だ。


 (服屋? )


 てっきり鎧などの防具屋を想像していたが、どうやら違うみたいだ。


 「やっぱり忘れちゃってるのかしら? まあ無理ないけど……。ユマ婆、私達、服を新調しにきたんだけど、さっきゲンマ爺から紹介きたでしょ? 」


 「あー? 」


 ユマ婆は、ゆっくりした動作でリディーナの元に向かい、身体をペタペタと触りだした。


 「あっ……んっ……はぁ……あんっ 」


 身体を触られ、リディーナから艶めかしい声が漏れる。


 アレがジジイだったらぶっ殺してるところだが、素人目でも、身体のサイズを確認してることは分かる……が、何というか、手つきがヤバい。揉んだり摩ったり、身体の隅々まで撫でるように触るユマ婆。


 「あー…… リディーナかい? 」


 「あら思い出したの? 相変わらず、身体を触らないと誰だか思い出さないのね…… 」


 頬を赤く染めながらリディーナが答える。呼吸も若干乱れ、ちょっとエロい。


 「久しぶりだね、リディーナ。少し変わったかね? 」


 「え? そう? どこが? 」


 「さぁてね。ヒョッヒョッ」


 「ところで、そっちの二人は何だい? 」


 「同じパーティーのレイとイヴよ。二人にも服を新調したいの」


 ユマ婆は、イヴに近寄り、先程リディーナにしたように、イヴを触りまくる。


 「いやっ……あっ……あんっ! んっ……んっーーー! 」


 口を押さえながら床にへたり込むイヴ。顔も真っ赤だ。


 (この変態ババア、わざとやってんじゃないだろうな…… )


 「うっ! 」


 ユマ婆は、続いてレイを凝視し、上から下まで舐めるように見ると、レイの身体を触りはじめた。


 スー ハー スンスン クンカクンカ ハァ〜


 ニギニギ にかぁ


 レイを触りながら至るところの匂いを嗅ぎ、最後に股間を揉んで笑顔になるユマ婆。


 (……やっぱ殺そう)


 「レイ、ユマ婆は触らないとダメなのよっ! そんな汚物を見るような目で見ないであげてっ! ……気持ちはわかるけど」


 「……ひょっとして目が見えないのか? 」


 「あー? 見えるよ? 」


 (くっ! このババア…… )


 「で? どんな服が欲しいんだい? 」


 「外套は同じ紺色で揃えて頂戴。防水、防炎、防風、防汚、防刃、対魔法防御とフードには認識阻害の機能もお願い。レイ、後は何かないかしら? 」


 「……そ、それで十分じゃないか? というかできるのか? 」


 「あー できるよ。けど、ちょいと値が張るし時間が掛かるよ? 」


 「金額はいくらでもいいわ。それと普段着も何着かお願いしたいの。仕上がりは、いつぐらいになりそう? 」


 「ひと月は掛かるよ」


 「そんなに? 前はもっと早かったじゃない」


 「もう注文は知り合いからしか受けてないからねぇ~。素材の在庫が足りないから、次の魔戦斧隊に素材を頼むからそれ次第さね、ヒョッヒョッヒョッ」


 「「「…… 」」」


 「急ぎなのかい? 素材があれば一週間で出来るよ~ 」


 「因みに足りない素材は? 」


 「鬼蝦蟇 オーガフロッグ鎧蛇アーマースネーク七色蜥蜴レインボーカメレオンの皮だね~。この辺りにゃいない魔物だから時間が掛かるさね」


 「どうするレイ? 」


 「流石に一か月は待てないな……。婆さん、機能を落としたらもっと早くできるか?」


 「防水と防刃、認識阻害がいらないなら一週間かねぇ~ 」


 「どれも省きたくない機能だな…… 」


 「『龍』の皮があれば代用できるし、三日でできるよ~。持ってるかい? 」


 「リディーナ、持ってるか? 」


 「ある訳無いでしょ。『龍』なんてほとんど伝説の魔物よ? どこにいるかも知らないし、討伐だって無理よ」



 「『龍』なら火口にいるよ~ 」


 「「「は? 」」」



 

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