第74話 エンジョイ勢の勇者達

 「ただいまー 」


 「あ、おかえりー。ゲットできた? 」


 「後三日掛かるって。一々面倒臭いのよね、あのジジイ」


 「えー マジー? この街つまんないから早く出たいのにー 」


 「まーた暇になったなー 」


 メルギドの高級宿の一室に黒髪の男女三人が、それぞれ愚痴を言い合っていた。


 軽剣士フェンサー吉岡莉奈ヨシオカリナ


 拳闘士グラディエーター山本ジェシカヤマモトジェシカ


 魔法使いウィザード加藤拓真カトウタクマ


 召喚された勇者達の『探索組』の一チームである彼女達は、メルギドにある遺跡探索の為にこの国を訪れていた。


 「どうする? 遺跡に潜るか? 」


 「冗談言わないでよ。あの遺跡、私達とは相性悪いじゃない」


 「いいのかよ? 攻略してないって言ったら怒るぞ? 」


 「馬鹿正直に言わなくても、何も無かったって言えばよくない? 」


 「まあ、バレないとは思うけどさ…… 」


 「はフィネクスみたいなんだから、ガチ勢に任せりゃいいじゃん」


 「そうよ、不死者アンデッドの遺跡なんかどうせハズレなんだし」


 「まあいいけどよ。……そう言えば、莉奈の武器の代金どうすんだ? 結構高ぇって言ってなかったか? 」


 「払うわけないでしょ? 金貨百枚よ? ボッタクリにも程があるでしょ」


 「あの爺さんも吹っ掛けるよね~ 」


 「それにしても良く作ってくれたよな。あの偏屈爺さん、癖あり過ぎだろ」


 「まあ私、お爺ちゃん子だし? 響ほどじゃないけど、結構腕に自信あるしねー 」


 「白石さんは、ちょっとチート過ぎるよな〜 」


 「へ~、白石ねぇ~? ひょっとして拓真っち、ホの字? 」


 「バ、バカ言ってんじゃねーよっ! ジェシカだって「亜土夢くぅ~ん」とか言ってんだろっ! 」


 「言ってるよ~。だってカッコイイじゃん? 硬派だし! でもあの貴族の女とデキてるっぽいのがムカつくけど」


 「二人共、もういいから。あと三日は暇になっちゃったけど、ホントどうする? 」


 「冒険者ギルドがねーから魔物を狩りに行っても意味ねーしなー 」


 「何、等級とか上げたい系? 」


 「ロマンだよ、男のロマン! やっぱ冒険者って言ったらA等級でドヤりてーじゃん? 」


 「単純w 」


 「別にC等級で十分じゃない? 稼ぐ必要無いんだし」


 「でも贅沢できないじゃんか。高槻達からの仕送りだって、アイツらが管理してんだしさ」


 「娼館にでも行きたいんでしょ? 」


 「バカ言え! 行かねーよっ! 」


 「ホントにぃ? 大丈夫? 溜まってんじゃないのぉ~? 」


 「これだからDQNは……。もういいから酒でも飲みいこーぜ? 」


 「賛成ー、この街、お酒だけは種類あるもんねー 」


 「私は飲まないけど、甘い物が食べたいわ」


 「それも賛成っ! 」


 「とりあえず出掛けよーぜ」


 …


 街の酒場に来ていた三人の勇者達は、各々飲みたい物や食べたい物を好きに頼んで談笑していた。全員が黒髪という以外、三人の格好はそれぞれバラバラで、若い冒険者パーティーといった格好だ。日本ではまだ未成年の彼女達も、この世界では成人扱いで堂々と酒が飲める。一人だけ飲んでいない吉岡莉奈と、体質的に酒に強い山本ジェシカは平静だが、加藤拓真は飲み慣れない酒に酔っていた。


 「けどまあ『探索組』としてオブライオンを出て正解だったな~ 」


 「確かに。ここまで文化レベルが違うとは思わなかったわ」


 「『王都組』はまだ制服着てんのかなー? ウケるよね~ 」


 「オブライオンあっちじゃ服も碌な物がなかったしね。洗濯して大事にまだ着てるんじゃない? 服もそうだけど、食事もなんでも差があり過ぎるわよね」


 「甘い物とか碌なのなかったっしょ? 」


 「俺はやっぱ、獣人だなぁ~、あの猫耳とか堪らんよ~ 」


 「ったく、アタシらもいるんだからレイプ紛いはやめてよね~ これだからDTはさぁ~ 」


 「うっせーよっ! もう違ぇよ! いんだよっ! 俺達は『勇者』なんだからよぉ~ 」


 「ホント、男子は節操無いよねぇ~ 」


 「はぁ~ 私もイケメンの貴族にでも見初められたいわ~ 」


 「えー アタシはヤダなー 偉そうな態度がイラつくんだよね~ 」


 「ジェシカは、その辺のゴリマッチョの冒険者がお似合いだもんな! 」


 「はぁ~? 殺すよ? この素人DTがっ! 」


 「おもしれ―、やってやんよっ! 」


 「店員さ~ん、これおかわり~ 」



 

 「若ぇクセに随分羽振りいいじゃねーか、ガキども……。ヒック」


 いかにもベテラン冒険者といった風貌の中年が酔っぱらって勇者達に絡んできた。


 「「「…… 」」」


 「オメーラみてぇなガキがこの街に何の用だぁ~? まさか武器でも買いにきたんか? ひょっとしてどっかのボンボンかなぁ~?  」


 「おい、やめとけ。すまないなキミ達、こいつ酔うと面倒なんだ、気にしないでくれ。ほら行くぞ」


 金髪の一見爽やかな男が勇者たちに謝り、酔った男を連れて行こうとする。


 「あーあ、お酒が不味くなっちゃったー 」


 「ったく、躾がなってねーよなー 」


 「身の程を知ってほしいわよね」


 ピタリと金髪の男が足を止め、茶髪の中年が振り返り、ギロリと睨む。


 「オイオイ、何だってぇ~? 」


 「キミ達、こちらも迷惑をかけたが、ちょっと言葉が過ぎるんじゃないかい? 」


 「別にぃ? てかヤる? 」


 「暇だし、いいわよ? 」


 「オッサンら外行こーぜ? 暇だし相手してやるよ」


 「「…… 」」


 二人のベテラン冒険者の連れらしい三人がガタッと席を立つ。どうやら五人パーティーの冒険者らしい。


 「ちっと、ガキどもには説教してやらねぇとな」


 ベテラン冒険者五人と勇者三人は、酒場を出て裏路地に入る。


 「おめーら、泣いても許してやら……グハッ」


 拳闘士、山本ジェシカの拳が中年の冒険者の腹を突き破る。ショートカットの天然パーマに褐色の肌、アフリカ系の父親と日本人の母親のハーフであるジェシカは、その出自から幼い頃から差別を受けていた。だが、恵まれた身体能力で、虐めてきた相手を拳で黙らせてきたジェシカは、日本にいた頃から人を殴ることに躊躇しない。加えてこの世界に来て得た能力スキル『剛力』は並の身体強化を凌ぐ膂力があり、その拳や蹴りは金属製の鎧を容易に貫く。


 「は? なんだこの女……ギャッ」


 軽剣士の吉岡莉奈は、フェンシングで全国上位の実力をもつ選手だ。切れ長の細い目に黒髪のポニーテール、すらっとした長身。能力『神速』によりその突きは常人には認識できない速さで刺突を繰り出せる。細剣レイピアより更に細く、刺突に特化したフルーレ剣により、瞬く間に金髪の冒険者の顔が穴だらけになる。


 「他愛のないパ・ダ・ムール…… 」


 「「「ひぃ! 」」」


 残った三人の冒険者達は、揃って後退るも、加藤拓真の魔法により、その場から逃げることはできなかった。


 「凍れっ! 『氷の柱アイスピラー』」


 伸ばした髪をオールバックにしつつも、顔つきは幼さの残る普通の高校生の加藤拓真。『氷属性特化』の能力で、魔法使い系の能力でも氷属性に特化した魔法使いである加藤拓真は、短縮した詠唱により瞬く間に逃げようとした冒険者達を凍らせる。


 「相変わらず、すごいよね~コレw ハッ! ヤッ! セイヤッ! 」


 山本ジェシカが三つの氷の柱を拳と蹴りで粉々に砕く。中の冒険者達も粉々になり周囲に散らばった。


 「あースッキリしたー♪ 」


 「相変わらずのコンボよねー 」


 「別に俺はジェシカのサンドバックを作ってるわけじゃねーんだけどな」


 「なんか私だけ地味よねー。……早く新しいフルーレが欲しいわ~ 」



 

 裏路地から離れた表通りから歓声が聞こえる。


 ―「『魔戦斧隊マジクス』が帰ってきたゾー! 」―

 

 三人は、その歓声に興味が沸き、互いに目配せして表通りへ向かった。

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