第75話 俺の女

 吉岡莉奈ヨシオカリナ山本ジェシカヤマモトジェシカ加藤拓真カトウタクマの三人は、酒場で絡んできた冒険者達を路地裏で瞬殺した後、大通りで住民達から歓声を浴びている『魔戦斧隊マジクス』を見物していた。

 

 「へー、ドワーフの狩り部隊みたいね~ 」


 「凄い人気だねー。パレードみたい」


 「インパクトもあるわね。オブライオンじゃ、まず見られない魔物ばかりだし」


 「それにドワーフが小さいから、やたらデカく見えるよねw 」



 「拓真っち、どうしたの? ボーっとしちゃって…… 」


 「おい見ろよアレ、絶対ぇエルフだ! うひょー、めちゃくちゃ美人じゃんか!」


 加藤が指差した方向には、テラス席にいたレイ達がいた。


 「おー、確かに! 耳長っ! あたし、エルフって初めて見たよー! てか、マジで超美人じゃん! 」


 「確かに凄い美人ね。でも隣も凄いイケメンじゃない? 」


 「あーホントだ! めっちゃイケメン! まあアタシの好みじゃないけどw 」


 「くぅ~! 隣の青髪のコも捨て難い! よしっ! 行こーぜ! 」


 「ちょっと待って、流石に人通りが多いわよ? 何する気? 」

 

 「声かけに行くに決まってんじゃん! ちょっと行ってくる! 」


 そう言って加藤拓真は、通りを横切り駆けていった。


 「あーあ、行っちゃったー 」


 「イケると思ってるのかしら? 」


 「完全に隣のイケメンが見えてないよねw 」


 「面白そうだからちょっと見ときましょ? 」


 「莉奈は性格悪いね〜w 玉砕に金貨一枚! 」


 「私は逆ギレして魔法をぶっ放すに金貨一枚」


 「いつものパターンじゃん! 賭けになんねぇーw 」



 レイ達三人は、追加のデザートを楽しんでいた。レイは紅茶のおかわりだけだが、リディーナとイヴは、果実のタルトのようなデザートを美味しそうに頬張っている。木苺の様な様々な種類の果物と生クリームのようなホイップがタルト生地の上に飾られ、甘い香りと果物の香りが席に漂う。メルギドにもジルトロ共和国の食材が入ってきてるのか、オブライオン王国より甘い物のメニューが豊富だ。


 「んー! なかなか美味しいじゃない♪ 」


 「美味です! 」


 二人の喜ぶ顔を見て、レイは苦笑しながら紅茶に口をつける。


 (やっぱどの世界も女は甘い物には目が無いみたいだな…… )


 「ん? 」


 通りを横切るようにして、黒髪の魔術師らしい格好をした男が、レイ達のいるテーブルに近づいてくる。


 (珍しい…… アジア人顔の冒険者か……ん? 勇者だとっ! )


 レイの脳内にある、召喚された勇者達の顔が近づいてくる男と一致する。



 「こんにちわ〜 」


 加藤拓真は、そう声を掛けるなり、リディーナの横の席にドカリと腰を下ろす。


 「お姉さん、エルフだよね? めちゃくちゃ美人だよねー。ちょっと俺と付き合ってよ! 」


 リディーナとイヴがゴミを見るような目で加藤を見る。レイは、加藤を視界に入れながら他に仲間がいないか急いで辺りを探る。


 「無視しないでよ〜、ちょっとだけだからさ〜 」


 (いた……女二人。吉岡莉奈と山本ジェシカか、それにこいつは加藤拓真だな。俺達のことは知らないみたいだ。剣聖や弓聖とは別グループか? しかしなんてセンスの無いナンパなんだ。しかも酒臭い。酔ってやがるな……。リディーナは気づいていないか……。今まで会ったヤツらは全員同じ制服を着ていた。コイツは一見、魔術師の冒険者だ。首には銅の冒険者証、C等級? こいつら以前、高橋が言っていた『探索組』か……。くそっ、能力が分からないヤツらだ…… )


 レイが思考を巡らしてるうちに、リディーナが表情を無くして呟く。


 「台無しだわ…… 」


 リディーナはデザートを食べていた手を止め、冷たい目で加藤を見る。


 「消えて」


 「冷たいなぁ~、こう見えて俺『勇者』なんだけど? 仲良くしといて損はないぜ? 」


 リディーナとイヴの動きが止まり、目を見開く。どうやら気づいたようだ。


 「勇者? 」


 リディーナが呟き、腰の細剣にそっと手を掛ける。イヴはじっと加藤を凝視している。


 「そうそう。だからちょっと付き合いなよ~ 」


 加藤がリディーナの肩に手を回し、触れようとした瞬間、加藤の右腕が飛んだ。



 「汚ぇ手でに触れるな」



 レイは無意識に刀を抜き、加藤の腕を斬り飛ばしていた。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ! 腕ぇ! 俺の腕がぁぁぁ! 」


 加藤は斬られた腕を押さえ、床をのたうち回る。周囲からは悲鳴と人の視線が一気に集まった。


 抜刀した刀を加藤に向け、加藤を見下ろすレイ。


 「テ、テメー…… なんてことしやがんだ……俺の腕ぇ……俺を誰だと…… 」


 レイの言葉にリディーナが赤面する。イヴはいきなりの出来事に驚くも、リディーナとは違った意味で二人を見て赤面する。


 人混みをかき分け、吉岡莉奈と山本ジェシカが駆けてくる。その二人を視界に捉えつつ、レイは加藤の首目掛けて刀を振るう。


 ガキンッ


 レイの刀はドワーフの戦斧に阻まれた。いつの間にか『魔戦斧隊』のドワーフがレイと加藤の間に割って入っていた。


 「にぃちゃん、ちょっとやり過ぎじゃねーか? 何があったか知らねーが、いきなり斬りつけて殺そうとするなんてよ? 」


 「邪魔をす…… 」


 魔戦斧隊のドワーフに気をとられた一瞬、加藤拓真は走り出し、人混みに消えた。吉岡と山本の二人も人混みに消え、勇者三人をレイは見失ってしまった。


 リディーナはレイを見つめてボーっとしている。


 イヴはその二人に目が釘付けだ。


 魔戦斧隊の他のドワーフ達も集まり、屈強な男達がレイを囲む。


 「悪ぃが、拘束させてもらうぜ。剣を置きな」


 周囲の目が一斉にレイに集まっており、レイは仕方なく刀を仕舞い、床に置く。首から冒険者証を取り出し、目の前のドワーフに告げる。


 「S等級冒険者だ。拘束は勘弁してくれ」


 「なんだぁそりゃあ? 何訳のわからねぇこと言ってやがる」


 (あれ? )


 ここのドワーフ達には「S等級冒険者」が知られてないのだろうか? ゲンマの爺さんは知っていたのに、魔戦斧隊のドワーフ達には、まったく通じない。


 我に帰ったリディーナが、ドワーフ達に声を上げる。


 「ちょっと! 私達はS等級よっ! 」


 「知るかっ! こんな場所で真昼間から刃傷沙汰を起こしやがって! おい、エルフの女と青髪の小娘もこの小僧の連れだな? 一緒に来てもらおう。……腕飛ばされた小僧はどこ行ったぁ? 」


 レイ達三人は、話が通じない上、周囲の注目を浴びてしまった為、一旦ドワーフ達に従うことにした。

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