第35話 竜王国ドライゼン①
――『竜王国ドライゼン』――
竜王国ドライゼンは、
竜人はほとんど人間と変わらない容姿をしているが、頭に生えた角と爬虫類を思わせる尻尾、体の一部に鱗を持つのが特徴の亜人だ。人間よりも膂力があり、魔法も使える者の割合が人間より多い。
そして、竜王国の最大の特徴は『守護龍』の存在だ。
――『
首都近くの氷に覆われた独立峰の火口に住み、竜王国ドライゼンを守る体長五十メートルの巨龍。氷属性の竜が長い年月を生きて成長した『龍』で、人語と魔法を操り、竜人達から崇められる存在だ。
竜人は、古龍が人化して人間と交わり生まれた子が祖とされているが、ドライゼンを守る氷古龍が祖であるかどうかは分かっていない。
…
……
………
オブライオンとドライゼンを東西に隔てる山脈、その山脈の麓の村では、三百人ほどの竜人が平和に時を過ごしていた。
「ん? なんだあれは……」
一人の竜人の青年が、山脈の山頂付近から何かが流れてくるような動きに違和感を感じ、ジッと山を見る。
「土砂崩れ?」
それにしては不自然だ。疑問に思った青年だったが、特に何をするでもなく日常に戻っていった。
その後、平和な村は不死者の群れに飲み込まれた。
…
……
………
オブライオン王国、第二騎士団の騎士達は、南星也の不死者軍団から大きく遅れて山脈を越え、やっとの思いでドライゼンの村に辿り着いた。だが、待っていたのは凄惨な光景だった。至る所に血だまりと人体の一部が散乱していたが、肝心の死体がなかった。
「占領だと? 冗談を言え、統治すべき人間がいないじゃないか……」
団長のオーレンは村の光景を見て呟く。
「心配すんなよ。不死化させるのは首都までの道中にある集落だけだ。これまでと変わんねーよ。ただ前進あるのみだ。俺のやり方に不満があるならいつでも言え。
不意に現れた南が、馬鹿にしたように団長に言い捨て、そのまま去って行った。
「くそっ! なにが『勇者』だ……」
南の不死者軍団は、これまでの道中、進路上にあったオブライオン王国の村々の住人や魔物を蹂躙して進み、不死化させてその数を増やしていた。竜王国に入った後もそれは変わらず行われ、不死者と化した竜人達をその軍勢に加えていた。
道中の生物を飲み込み、竜王国の首都に向けひたすら直進する。その数は一万体にまで膨れ上がっていた。
…
……
………
――『竜王国ドライゼン首都』――
「伝令ー! 伝令ー!」
「何事だ!」
「不死者の群れが、真っ直ぐこちらを目指して進行してきております!」
「「「何だとっ!」」」
首都、王宮の玉座の間にて、竜王国の国王とその家臣達に急報が届いた。
「不死者の群れは、途中の村々を飲み込み、我らの同胞を不死化して首都に向かっております! その数、約一万以上!」
「な、なんだと? 一体どういうことだ……」
「不死者の群れが急に現れたなどと……。しかも真っ直ぐにこちらへ向かってきてるだと?」
「はい。襲われた村から逃げ出した者からの情報です。知らせを受けて飛竜の偵察部隊を飛ばして確認いたしました、間違いありません」
「ここまでどのくらいだ?」
「二日、いや一日もないかと……」
「避難……いや、間に合うまい。城門、城壁に戦えるものを至急配置につかせろ! 総動員だ! 周辺の村々にも伝令を出して街の中へ避難させろ。間に合わない村へは首都から離れるよう通達を出せ! 不死者のスタンピードだ!」
「飛竜部隊と重竜部隊を直ちに出させろ! 首都へ辿り着く前に数を減らすのだ!」
「ワシは、ヘーガー様へ報告してくる。ワシの飛竜を用意せよ!」
「「「はっ!」」」
守護龍と謁見できるのは王だけだ。守護龍の氷古龍ヘーガーは騒がしいのが嫌なのか、護衛を付けて謁見することを嫌う。王は各位に指示を飛ばすと、用意された飛竜に跨り、一人守護龍の住まう山へ向かう。
…
……
………
慌ただしく竜人達が動いている頃、首都近くの山を目指し、九条彰が飛翔の魔法で空から向かっていた。
上空から守護龍がいるであろう山の火口へ、九条彰は魔法で炎の塊を放った。
暫くして、体色が淡い水色の巨大な龍が火口より現れた。ゆうに五十メートルを越える体長。厚い鱗と筋肉質な肉体、鋭い爪と牙。蝙蝠のような巨大な翼をもち、西洋の竜そのままの姿だ。
「おっ、出てきた出てきた♪」
『何者だ』
重く圧が掛かった声で龍が呟く。先程放った炎でダメージを負った様子はないが、怒りの感情が見て取れる。
「へぇ、喋れるんだ……。ボクは九条彰。この世界じゃ一応『勇者』って呼ばれてるね」
『勇者だと……? バカな』
「とりあえず、ボクのペットになるか、死んで使役されるか選びなよ。できれば生きたまま従ってくれると嬉しいんだけどな~」
『我、氷の龍の王 ヘーガーなり 愚弄は万死に値する』
龍の口に魔力が集まり、氷の
「いきなり? 全く……。もう少し話したかったけど……『聖鎧召喚』!」
九条は、白金に光る鎧を召喚しその身を包んだ。腕を十字に交差し、
「ひゅー、すごい威力だ。だが、
『馬鹿な…… 聖鎧だ……と?』
「フフフ……。勇者って信じてくれたかな? 『聖剣』も見せてあげてもいいけど、それじゃあすぐに殺しちゃうからね。これで削らせてもらうよ」
『聖なる炎よ 我 その力を統べる者 その聖なる爆炎にて 敵を討て
九条から放たれた無数の白い火球が巨大な龍を囲み、それぞれが激しく爆発する。
『ガアアアアアアアアアアーーー』
次々に起こる爆発に、氷古龍はその巨体を激しく揺らす。厚い鱗は吹き飛び、鮮血が舞う。翼の膜も破れ、もはやどのようにして空中に浮いているか分からないほどの損傷を受けていた。
「なかなかしぶといね。どう? ペットになる気はない?」
『貴様のような矮小なるものに我が身を捧げるなどっ! 死ね!』
氷古龍は、体当たりでもするかのようにその巨体で九条に突撃する。牙をむき出しにし、鋭い爪で九条を引き裂こうと襲い掛かる。
「おっと、ヤバい『聖剣召喚』!」
白く光る聖剣を召喚した九条は、両手で握った聖剣を振り回し、無数の斬撃を氷古龍に放つ。とても剣術とはいえない、めちゃくちゃに振り回した剣だったが、発生した斬撃はいとも容易く龍を切り裂いていく。
それでも氷古龍は止まらない。その瞳は真っ赤に染まり、刺し違えても九条を仕留める気だ。
「くっ! もういいっ!」
焦った九条は、飛翔の魔法により素早く上空に上がり、龍との距離を空ける。
『聖なる光よ 我 その光を統べる者 その光の力をもって 敵を貫け
九条の両手から無数の光線が放たれ、氷古龍を貫いていく。蜂の巣のように風穴を開けられた氷古龍は、力なく地表に落下していった。
「ふぅ。結局殺しちゃったよ……。あーあ、皆に言うの恥ずかしいなぁ~」
バツが悪そうに、九条は落ちた龍の元へ降りて行った。
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