第26話 告白
俺とリディーナは、さっき確保した宿の俺の部屋に場所を移した。
リディーナが紅茶の準備をしてくれてる間、俺はリディーナに何処まで話すか考えていた。
(異世界人か……。リディーナには別の世界から来た人間というものに対して、信じられないと言うよりは、過去に存在していた事実としての認識があるのだろう。あまり曖昧な説明で逃れるよりは、リディーナが言うように今後の旅路を円滑に進める為にも正直に言うべきか。逆に正直に言うことで、この世界のことを聞き易くなると思えば、正直に話した方がいいかもしれない)
「はい、お茶入れたわよ」
リディーナが紅茶のカップを二つ持ってテーブルに戻ってきた。
「じゃあ、話してくれるかしら?」
「わかった。だがその前に、このことは他言無用で頼む。話しを聞いた後で一緒には行けないと判断したならそれでも構わない。ただ、メルギドの場所と行き方だけ教えてくれればいい」
「わかったわ。約束する」
そうして、俺はリディーナに話し始めた。
こことは違う世界で生まれて、病気で死んだこと。前世では殺しを生業にし、兵士としても活動していたこと。女神アリアに依頼されて、この世界で暴走してる勇者を殺しに来たこと。この若い肉体は女神に与えられたもので、前世では四十年以上生きていたこと。この世界に来てまだ一か月程で、女神から与えられた情報はあるものの、この世界の常識や文化はあまり分からないことを正直に話した。
「私を助けてくれたのも、その依頼ってヤツだったのね」
「少し違う。あの場に居たのは偶然だ。正直に言うと、襲ってたヤツらが『勇者』じゃなかったら助けてたか分からない。……幻滅したか?」
「でも、襲われた所を助けてくれたし、怪我も綺麗に治してくれたじゃない。感謝してるのは変わらないわよ? それに色々納得できたわ。精霊に関しても女神様が与えた身体なら当然かもと思えるわね。回復魔法のことも納得かも。女神様から魔法の力も頂いたんでしょう?」
「いや、魔法の知識は基本的なことばかりで、具体的な発動方法なんかは無かった。魔法に必要な呪文も知識には無い。ほぼ独学だ」
「嘘でしょ? ほぼ独学って……。おかしいわよ絶対! 無詠唱なんかも独学だって言うの?」
「魔法の話は長くなりそうだから後でゆっくり教えるが、あっちの世界の知識も応用してる」
「それは、是非後でゆっくり聞きたいわね」
…
……
………
それから暫くリディーナに質問攻めにあったが、答えられるものは全て答えた。万一、リディーナが勇者達に捕らえられて俺のことを話されても困ることはあまり無い。勇者達が自分達に暗殺者を差し向けられたことを知るくらいだが、それはいずれ知られることだ。
「他に聞きたいことはあるか?」
「家族はいないってこの間言っていたけど、向こうにも?」
「いない。父親は元々居なかったし、母親は子供の頃に死んだ。兄弟もいない。親戚の存在は調べてないから分からない。いたとしても面識はないから、いないも同然だ」
「け、け、結婚とか…… こ、こ、こ、恋人とか……は?」
「? ずっと独身だった。勿論子供もいないし、特定の恋人も作らなかった」
「勇者を殺したら、向こうに帰るの?」
「考えてもみなかったな。だが、帰れたとしても帰るつもりはないな」
「そう……。後は……勇者は何人いるの?」
「全員で三十二人。俺が四人殺したから後二十八、いや、確かこっちに来て三人が死んで、一人が行方不明になったと言っていたから二十四+一人ってとこか」
「そんなにいるの? やっぱり魔王が現れたのかしら……」
「いや、この国が勝手に召喚したらしいぞ? 聖女も殺されて女神がカンカンだ」
「聖女を? なんて恐れ知らずな」
「ああ。しかも何人かは、リディーナを襲った奴らより厄介な能力があるらしい。俺が武器を求める理由が分かっただろう?」
「確かに。でも、いくら
「まあそれについては、今練習している魔法でなんとかなる。隙を作ったり、牽制の為にも頑丈な武器が欲しい。魔法主体と思わせたく無いのもあるしな」
「アナタの使う魔法についても色々聞きたいけど、それは後でいいわ。それより、勝てるの? アイツらみたいな奴らに」
「まだ知らない能力があるからそれ次第だが、能力が分かれば対策は打てる。世の中、完全無欠なんて存在しない。人間、疲れもするし、腹も減る、眠くもなる。空気を吸わずに人は生きていけない。何も剣と魔法で戦うだけが殺す手段じゃない。それに能力を使ってなきゃ、ただの人間だ。……やれるさ」
「
「……でも弱点があるだろ? 大丈夫だ」
「フフッ なら大丈夫ね」
笑顔で紅茶を口に運ぶリディーナ。
「無理に付き合う必要はないんだぞ? 妹さんのことも親に報告しなきゃならんだろ? 国に帰らなくていいのか?」
「勿論、報告はするわよ? でも帰るのは後でいいわ。先にメルギドに行きましょ」
「行くのに二ヶ月だろ? いいのか?」
「あら、あと二、三年は大丈夫よ?」
(くっ、このエルフの時間感覚、まったく理解できん)
「どうしてだ。何故そこまでする?」
「わからない。確かにレイに助けてもらったお礼をしなきゃって気持ちもあるけど、アナタと一緒に行動すべきって強く思うの。勘、みたいなものだけど、結構当たるのよ? エルフの勘」
「そうか」
「それに、レイ一人でメルギドに行っても、まともな武器、売ってくれるか分からないしね」
「何故だ?」
「手を見せて? 話しを聞いて納得したけど、綺麗な手よね。とても武器を握ってた手じゃないわ」
「……確かにな」
「ドワーフって職人気質が強くて、すごく頑固なの。レイが一人で行って武器をくれって言ったら、金槌飛んでくるわよ? 素人に売る武器は無ぇ! なんてね。私がいれば、私の細剣を打った人がまだ生きてると思うから口利きできるわ」
失念してた。前世で俺はなるべく手のケアを怠らなかった。握手や見た目で力量や職業がバレるのを防ぐ為だ。剣を振ってタコや豆は出来ないが、掌に独特な厚みができる。タコが出来るのは最初のうちだけで、出来てる奴は力が入り過ぎてる証拠だ。ただ、銃を使い慣れた者には独特のタコができ、日常では使わない箇所に皮に厚みが出たりする。見るものが見れば、日常的に銃を扱う人間だとバレてしまう。日本人だと猶更目立つのだ。
今は逆に、俺の手は真っ新だ。熟練した鍛冶職人に軽く見られても仕方ない。金さえ出せば売ってくれる物もあると思うが、ある程度の実力を示さなければ、本物は売ってくれないだろう。これは日本の刀匠に対しても同じことが言える。
昔、
(それにしてもリディーナのヤツ、結構観察力が鋭いな……)
「レイは、どんな武器が欲しいの?」
「出来れば、刀。と言っても分からんか。……片刃の反りが入った曲刀、長さは70センチ以下の剣が欲しい」
因みにこの世界はメートル法だ。共通語と一緒に大陸で統一されている。
「カタナ……。もしかして、ニホントウってやつかしら?」
「知ってるのか?」
「二百年前の勇者の一人が使っていた武器に、そんな名前の剣があったわ。当時、同じような剣が沢山作られたらしいけど、使い熟せる人は居なかったみたい。メルギドで見たことがあるわ」
これは、期待してしまう。最悪、特注しようかと思ったが、どれだけ時間と金が掛かるか分からない。それに刀を使うのはリスクもある。この世界に存在しない日本刀を帯刀してれば、俺が日本人、異世界人だとバラすようなものだからだ。だが、実際に存在するなら問題は無い。
「レイは剣が使えるの? あれだけ回復魔法が凄くて剣術もやるなんて、規格外にも程があるわよ……」
「魔法はこっちに来て初めて使うが、剣は前世で嗜んでいた。体術の次に剣は使える」
「えっ? こっち来てからって、向こうの世界では魔法を使ってなかったの?」
「前にいた世界では魔法は存在しない。そもそも魔素があるかも怪しい。魔物もいないしな」
「嘘でしょ? 魔素が無い? 魔物もいないの?」
「無い。リディーナのような亜人もいない。人間同士で常に戦争してる。こっちと違って対人戦闘に特化した技術が主流だ。剣術も弓術も向こうじゃ廃れた技術で『銃』という武器が主流だな」
「ジュウ?」
「ああ。火薬を使って鉛の弾丸を発射する武器だ。弓より強力で誰でも扱える」
「よく分からないけど、火薬ならこっちにもあるわよ?」
「火薬があるのか?」
「メルギドで見たことあるわ。凄いわよね、あれ。『爆発』って言うんでしょ? 音が煩くて、私はあまり好きじゃないけど」
(これは是が非でもメルギドに行かねばならんな)
…
夕食をそのまま部屋に運んでもらい二人で食べた後、リディーナを自分の部屋に戻す。しつこく居座ろうとしてたが、風呂に入って早く寝ろと追い出した。これから時間はたっぷりあるんだ。話はいつでもできる。
俺は風呂に入る前に、ベースキャンプに置いてある魔石を回収しに光学迷彩を掛けて、街を出た。
俺は街を出て、探知魔法を展開しながらキャンプのある場所まで走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます