第23話 リディーナの話②

魔銀ミスリル魔金オリハルコン!)


 ファンタジー定番の金属がこの世界にあるとはな。この世界の金属については女神の知識に無かった。正直、ロメルで見聞きした限り、武器に関しては諦めていた。鉄製の武器では、身体強化で強化した力に耐えられない。日本の刀を持ち込めても同じだろう。その辺のチンピラならなんとかなるかもしれないが、魔法で強化した相手には正直厳しい。それに一昨日見た飛竜にも通用しないだろう。斬れず、折れる可能性のある武器に命を預けるくらいなら素手の方がマシだ。


 この世界のファンタジー素材はまったく試せていないので分からないが、リディーナの細剣レイピアを見て期待が持てそうだった。ドワーフの国『メルギド』か……。だが剣のこと以外に気になることもリディーナは言ってたな。


『戦争でも起こるのか?』


 武具の輸出入を制限するってことはそういうことだ。


『それは無いと思うけど? だって私が生まれる前からだから、もう百年ぐらいこんな感じよ?』


(百年? こいついくつだ?)


『今なんか失礼なこと考えてない? 言っとくけど、エルフの中では私まだ若いのよ?』


『……話を戻すぞ。戦争をする気が無いのに武具の流通を制限する理由は何だ?』


『さあ? 理由は知らないわよ。私はこの国の人間じゃないし、今まで考えたこともなかったわ』



 まあいいか。あの桐生みたいに能力で強力な武具を生み出せる奴がいるんだ。この国の武具のレベルは関係ないか。……だが、俺が不利だ。


『その『メルギド』って国は、ここから遠いのか?』


『そうね~。オブライオン王国からだと、国を一つ跨ぐからかなり遠いわね。普通に行けば、大体二ヵ月ぐらい掛かるかしら?』


 二ヵ月。勇者達の元に向かう前に装備を揃えに行くか、予定通り王都へ向かうか。だが、その前に俺はこの国からはまだ自由に出れない。密出入国となるがそれはいい。……問題は金だ。


『因みに魔銀ミスリル魔金オリハルコンの武具は高いのか?』


『そりゃ高いわよ。安くても金貨百枚からじゃないかしら?』


『くっ! マジか……(日本円で一千万以上だと?)』


 

 リディーナがニヤニヤしながらこちらを見ているのに気づく。


『どうした?』


『私が武器のお金を融通してもいいけど~? メルギドへの案内付きで!』


『……』


(コイツ、なんでドヤ顔なんだ? 一体どういうつもりだ?)


『お礼はいらないって言ってたけど、それじゃ私の気が済まないし、気にしないでいいのよ? こう見えて私、結構お金持ってるし?』


『好意は有難いが結構だ。俺は駆け出しの冒険者で、自由に国は出れないしな』


(それに、荷物は調べたが、この女、金なんか持って無かっただろ……)


『え? 冒険者なの? なら話は早いじゃない』


『どういうことだ?』


『言ったでしょ? 私が冒険者だって。これでも一応『B等級』よ? 私とパーティー登録すれば、自由に国を移動できるわよ?』


『な……に?』


(そういえばコイツの首に冒険者証みたいのがあった。俺のと色が違い、普通の首飾りだと思ってたが……B等級?)


『知らないの? 上の等級の者とパーティーを組めば、一番上の等級の者の権利がパーティーに及ぶのよ。勿論全てじゃないけど、国を移動するのは全然問題無いわ』


『それは知らなかった。ずっと一人だったしな。規約にも書いてなかったぞ?』


『因みにあなたの等級は?』


『……F等級だ』


『なら知らないのも当然か……。上の等級の権利や特典はC等級に上がった時に知らされるから、D等級以下は知らなくてもしょうがないわね。というか、あなたの実力でF等級? 昇級試験は受けなかったの? 回復魔法が使えるだけでD等級には余裕で上がれるのよ?』


『経歴も無いし、目立ちたくなかったんでな。第一、ギルドは俺が魔法を使えるのを知らないし、言うつもりも無い』


『まあ気持ちは分からなくもないけど……。経歴が無くても回復魔法が使えると申告して証明できれば無条件でD等級になれるわ。それぐらい回復魔法の使い手は貴重なの。それにF等級からC等級に上がるまで、この国では結構時間が掛かるわよ?』


『この国では? どういう意味だ?』


『この国の環境が大陸で一番温いからよ。他国の冒険者と等級を合わせる為に大体倍くらいの時間と依頼件数が掛かるって聞いてるわ』


 なんてこった。ロメルのギルドマスターの説明の足りなさにもどうかと思うが、この国そんなハンデがあるのか……。それにしてもこのリディーナ、使える。今のところ女神を含めて、この世界に来て一番情報を持ってる存在だ。これは迷うな……。


『私といれば、国を移動できて、武器も買えるわよ? どう? 私の「御礼」、受け取ってみる気はない?』


 暫し考える。紅茶はとっくに冷め、腹も減ってきた。落ち着け俺! 冷静に考えろ。メリット、デメリット、リスクを素早く天秤に掛ける。


 念の為、最後に聞いてみる。


『俺は勇者を殺した。いずれ国に追われることになる。それでもいいのか?』


『追われるって誰に? 人間に? 私はエルフよ? 例え『勇者』であったとしても「エルフ殺し」よ? 人間の国から追われたって、故郷に帰って百年もすれば人間なんて皆忘れるわよ。私は気にならないわ。あなたも何ならエルフの国に来る? 私と一緒なら入れるわよ? ……多分だけど』


 エルフの時間感覚、そうかそうだよな……。エルフって資料だと寿命が約五百年以上だっけか? 人間からすると地元に十~二十年くらい帰ってる感覚か? うーん、わからん。だがリディーナにとっては大した事じゃないんだろう。それにこの女と一緒ならエルフの国に行けるのか……。正直興味はあるが、一緒……か。


 このままこの街にいても、他国の情報や武器が手に入る可能性はかなり低い。この女が勇者達と仲間の線もゼロだ。俺が、ちまちまこの街で等級を上げる時間で、他国へのルートと武器が手に入る……か。


『で、ではお言葉に、あ、甘えてさせてもらおうか、な……?』


(何故、俺はこんな卑屈な態度になってるんだろう?)


『じゃあ、決定ね。これから宜しくね! ……えーと、名前! あなたの名前は?』


『……レイだ。よ、宜しく頼む』


『改めて、リディーナよ。宜しくね!』

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