では素材を揃えに行きましょう。

 一等級のアンチドーテポーションの錬成に必要な素材は、解毒草の濃縮液と竜白石、そして安定剤です。


 解毒草は薬師ギルドで購入すれば問題ありません。


 竜白石は以前、キュアストーンポーションを錬成するときにオルナバスが置いていった素材の余りがあります。


 本来ならば返却すべきなのでしょうけど、特に返せと言われていないので使ってしまいましょう。


 冒険者ギルドに行けば購入もできるので、返せと言われたら弁償も問題なく出来ます。




 そして最後の安定剤が肝になります。


 安定剤の品質によっては等級が下がることもあるので、高品質な安定剤を作る必要があるのですが、これがまた面倒な作業なんですね。


 安定剤の素材は蒸留水と光苔が良いでしょう。


 そうして出来上がった安定剤と光苔とを錬成して、安定剤の品質を高めていきます。


 五回か六回、繰り返せば一等級に必要な安定剤の品質に届くと思います。


 光苔は冒険者ギルドで購入できるはずです。




 では素材を揃えに行きましょう。




 * * *




 素材を揃えました。


 まずは安定剤の錬成からですね。




 蒸留水と光苔を混ぜます。


 第一の安定剤は簡単に作成できました。




 この安定剤と光苔を混ぜて第二の安定剤を錬成します。


 このとき必要魔力が上昇しているので、多めの魔力を流して完成させます。


 第三の安定剤の錬成も同様に、光苔を混ぜて作ります。


 やはり必要魔力が上昇するため、この辺りからかなりキツくなってきます。


 ドッペルゲンガーたちにも手伝わせることにしました。




 第四と第五の安定剤を作成した結果、第五の安定剤の品質が規定に達したのを確認しました。


 これで安定剤の錬成は終わりです。




 次は解毒草の濃縮液ですね。


 解毒草十本を錬金釜に入れて、〈原質分解〉を行います。


 解毒の形質以外を取り除き、蒸留水を加えて普通の混ぜ棒で混ぜることで濃縮液が完成します。




 そして最後に、すべての素材を錬金釜に投入してかき混ぜます。


 このときかなり大量の魔力を使わないと混ざらないので注意が必要ですね。


 チビチビと魔力を流していても素材が溶けないので、一気に魔力を流し込みます。




 そうして完成したものが一等級のアンチドーテポーションです。




 魔力をバカ食いするので、一日に一本作成するのがせいぜいですね。


 残りの二本は明日と明後日に仕上げましょう。




 * * *




 三本の一等級のアンチドーテポーションをドッペルレリアに渡して、海港都市に送り出します。


 これで無限水環は入手できたようなものでしょう。




 乾きの石と永久氷片も入手の目処が立っていますが、不死鳥の羽根だけはどうしようもないですね。


 アンチドーテポーションの素材を購入するときにチラリと在庫を伺ったのですが、さすがに不死鳥の羽根は取り扱っていませんでした。


 ダンジョンから産出されるという記述を読んだことがあるので、この街のダンジョンでも大丈夫だと思うのですが……。




「お姉さま、シルビーナさんが来ていますよ」




 ホルトルーデが工房の入り口でシルビーナの接客をしていました。


 少し久々ですね、シルビーナ。


 きっとお店が忙しいのでしょう、迷宮都市で一番のお菓子屋さんらしいですから。




「御機嫌よう、シルビーナ。今日はシュークリームが目当てですか?」




「ええ。でももう売り切れてしまったみたいね。限定十食……さすがに出遅れたわ」




「大丈夫です。シルビーナさんがいつ来てもいいように、ひとつは取り置いているのですよ」




「本当!? じゃあシュークリームを是非、お願いするわ」




「はい。ただいまお持ちしますね」




 冷蔵庫から出すフリをしながら〈ストレージ〉からシュークリームを取り出します。


 カミーリアがいつ来てもいいように毎日ストックしてありますから、〈ストレージ〉内には割と多くのシュークリームがあるのですよね。




「お待たせしました。これが当工房のシュークリームです」




「冷えていて美味しそうね。さっそくいただくわ」




 シルビーナはシュークリームにかぶりつきます。


 コロコロと表情を変えますが、最終的に眉間に皺の寄った怒ったような表情に固定されました。




「憎らしいったらありゃしない。悔しいけど美味しいわ。私も錬金術を学ぶべきかしら」




「理論的にはお菓子は普通に作った方が美味しいはずですよ。もちろん錬金術で美味しいお菓子を作るのに工夫もしていますが……」




「ふん。お菓子職人としては負けてられないわね。……はいこれ。今日のお菓子は自信作よ。それじゃあまた来るから、新しいお菓子を用意しておいてよね」




 白い箱を渡して、シルビーナは颯爽と立ち去りました。


 箱の中身はくしくもシュークリーム。


 同じお菓子で勝負、ということでしょうか。




 ホルトルーデと一緒に食べることにしましょう。


 ドッペルゲンガーたちには残念ながらありませんので、私たちの工房で作ったシュークリームをおやつに出しましょうかね。




 なおシルビーナのシュークリームは中身がチョコレートクリームの変わり種でした。


 美味しかったです。




 * * *




「本体、暗号化されていた文章を一部、解読できましたよ!」




「本当ですか。どんな内容でした?」




「これが解読されたレシピです」




「…………ふむふむ。これは、もしかしなくても賢者の石のレシピでは!?」




「はい。卑金属を黄金に変換するという賢者の石ですよ」




 凄いものが出てきましたね。


 エリクサーといい賢者の石といい、この書物の作者は錬金術を極めていたようです。




 賢者の石の素材は、竜の血、辰砂、ルビー、そしてエリクサーです。


 竜の血は不死鳥の羽根と同じく冒険者ギルドで入手可能です。


 辰砂は硫黄と水銀から錬成することができます。


 ルビーは宝石屋に行けば購入できるでしょう。




 問題となるのはエリクサーと竜の血ですね。


 不死鳥の羽根もそうですが、希少素材である竜の血の入手難易度はかなり高いと言わざるを得ません。




 というかエリクサー、素材だったのかお前。




 これは驚きですね。


 しかし同時に納得もしました。


 万能の霊薬エリクサーくらいの非常識な物質が必要となるのですから、賢者の石の効果は確かだろうと。




 しかし必要になるルビーも結構な量が要求されています。


 破産させる気か!




 いえ、一応は保存食量産のときの金貨がまだかなりあるので、問題なく購入はできると思うのですが。




 とはいえ不死鳥の羽根と竜の血にかかる金額を考えると、やっぱりそれでも足りないのです。




 これはドッペルレリアを使って直接、ダンジョンに乗り込ませるしかないか?

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