せっかくなので、今回はお酒も錬成してみようかと思います。
「魔素食いの花? それなら俺様が取りに行ってやろう」
「いえ、だから薬液が高く付くので採算が合わないのです」
「保存食の件で世話になったからな。安く卸してやる。そもそも魔物肉の下処理ができなければ、俺様たち冒険者が飢えるぞ」
「え、冒険者ってそんなにカツカツの生活なんですか?」
「いや、俺様くらいになるとそうでもないのだが……それでも装備に金がかかるからな。貯蓄はしておきたい。そうすると削られるのは食費だ。魔物肉は美味いし安い。冒険者はみなあの肉を食べているんだ」
「だったら尚更、安く買い叩くわけにはいかないのでは……?」
「気にするな。魔素食いの花は第十五階層だ。俺様たちの腕前なら朝飯前だぞ」
アルベリクさんの暴走ではないかと仲間たちに視線をやりますが、「保存食で世話になった恩返しになるなら」と言ってくださいましたよ。
かくして数日後、魔素食いの花を格安で大量に仕入れることに成功しました。
* * *
魔素抜きの薬液は、魔素食いの花とお酒で錬成できます。
せっかくなので、今回はお酒も錬成してみようかと思います。
市場で買ってきた葡萄と蒸留水を、錬金釜に投入します。
葡萄は予め房から果実を取っておき、果実だけを投入します。
そして〈加速の魔法陣〉を投入してよくかき混ぜます。
この手順、覚えがありませんか?
そうです、リンゴの天然酵母を作ったときと同じやり方です。
今回はワイン用に葡萄の天然酵母を作りました。
完成したら清潔な瓶に移して、酵母は完成です。
次に葡萄の果実と天然酵母を錬金釜に投入します。
ここでも〈加速の魔法陣〉を投入し、発酵を早めます。
よくかき混ぜたら、中身の液体を樽に移していきます。
そして錬金釜の底に沈殿している葡萄のカスに対して〈原質分解〉を行います。
取り出す形質はワイン以外のすべてです。
トングで固形化した形質を取り出していき、残ったワインを先程の樽に入れて混ぜます。
次に樽に入ったワインと乳酸菌を錬金釜に投入し、かき混ぜます。
凝った人ならば乳酸菌も自作するのですが、私は面倒なので市場で購入してきました。
混ぜること一時間。
こんな感じで出来上がったワインを再び樽に戻し、今度は樽ごと錬金釜に投入します。
ここでも〈加速の魔法陣〉を使用します。
樽に混ぜ棒をぶつけないように慎重にかき混ぜます。
樽に入ったワインが熟成したら、瓶に移し替えて完成ですね。
〈加速の魔法陣〉を都合三枚も使用しましたが、最近はホルトルーデに工房の仕事を任せているので、枚数には余裕があるのでワインの醸造に挑戦してみました。
少しだけ舐めてみると、若いワイン特有のフルーティな甘みが口の中に広がります。
さあ、それでは魔素抜きの薬液を錬成しましょうか。
魔素食いの花と先ほど作ったワインを錬金釜に投入します。
そしてよく魔力を流してかき混ぜれば、あっという間に魔素抜きの薬液が完成しました。
……うん、品質が高いですねえ。
素材に魔素吸いの草ではなく魔素食いの花を用いたせいでしょう。
あとワインも出来が良かったので、高品質の魔素抜きの薬液が完成してしまったのです。
通常、市場に出回っている薬液はこれより遥かに品質で劣ります。
今回は一部を取り置いて、〈複製〉を使って品質を下げたものを量産しましょう。
品質の高い薬液は、魔素を多く含んだ魔物肉用に使えるので、これはこれで需要があるのです。
〈複製〉した結果、市場に出回っているのと同程度の薬液を量産できました。
瓶が足りなくなったので、錬金釜に蓋をしておき、瓶を買いに走るハメになりましたが。
とにかく薬液は完成です。
薬屋のおばあちゃんに売りに行きましょう。
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