結果から言って、警戒を強めておいて良かったですね。

 結果から言って、警戒を強めておいて良かったですね。




 深夜、扉の鍵がカチャリと音を立てて開きました。


 扉の蝶番には予め油を差してあったのか、音もなく開いていきます。


 そして工房に踏み入る数名の男の影。




「そこまでですよ」




 魔法具の灯りが侵入者たちを照らし出します。




「チ。気づかれたぞ!」




「関係ねえ。錬金術師のひとりやふたり。とっとと攫っちまおうぜ」




「おうよ!」




 昼間に見た嘘つき冒険者に加え、更にふたりの冒険者が私の工房に侵入を果たしていました。


 目的は言わずもがな、私とホルトルーデを攫うことでしょう。




 素早い動きで私の方へ突進してくる男たちは、見えない壁にぶつかりつんのめります。


 予め設置してあった〈ディメンション・ウォール〉の魔法です。


 咄嗟に魔法を撃つのは苦手なので、予め魔法を仕込んでおきました。




「なんだこの見えない壁は……!?」




「壊せ、魔法具かなにかだろう!」




 さてさて、大人しくしてもらいましょう。


 私は腰から短杖を抜きました。




「――〈スリープクラウド〉」




 壁の向こう側に催眠ガスが発生します。


 闇属性の範囲催眠魔法〈スリープクラウド〉ですね。


 多人数を一気に無力化するのに適した魔法です。


 闇属性は私にとっては得意属性。


 無属性魔法と時空属性に並ぶ主力魔法のひとつです。




「吸うな――ぐぅ」




「う……やめ……」




「しまった……」




「こんな小娘に……」




 バタリバタリと男たちが倒れていきます。




「ホルトルーデ。武装解除を手伝ってください。手錠を使って拘束します」




「はい、お姉さま」




 私たちは眠りこけている男たちから武器を取り上げて、後ろ手に手錠を嵌めます。


 さあ、衛兵を呼びにいきましょう!




 * * *




「これは……」




 武装解除され、手錠を嵌められて眠りこけている冒険者四人を見て衛兵たちは状況を理解したようです。




「深夜、鍵をこじ開けられて侵入されました。幸い、私は闇属性の魔法に長けていたので〈スリープクラウド〉で眠らせましたけど……」




「そうか、そいつは危ないところだったな。分かった、こいつらは馬車で詰め所に連行するよ。冒険者ギルドにも話を通しておく。女の子ふたり暮らしの家への住居不法侵入だ。決して生ぬるい罰じゃ済まないだろうな」




「逆恨みが怖いので、もし解放されるようなことがあれば、私に知らせてください」




「分かっている。被害が無かったからと言って、軽い刑罰にはなるまい。最低限、冒険者登録の剥奪とこの街からの追放はあるだろうな」




「それならば安心です。確かに王国法に照らせばそのくらいの量刑になりそうですね」




「お嬢ちゃん、王国の法律に詳しいのかい?」




 おっと、しまった。


 一介の錬金術師が学院で学ぶ王国法に詳しいわけがないじゃないですか。


 夜中なので頭が回ってなかったようですね。




「いえ。私はただの錬金術師です。法律なんてよく分かりません」




「んー? まあいいか。ともかくコイツらを連行だ。おい、運ぶぞ!!」




 衛兵たちは四人を馬車に運び、彼らにくだされる罰が決まったそのときは、私たちにも連絡が来るようにしてくれるそうです。


 治安の悪い街だと思っていましたが、なかなかどうして、衛兵たちはしっかりと訓練されているようでした。




 住民としては安心できますね。




「さあ、夜ふかししてしまいましたね。今日はもう休みましょう、ホルトルーデ」




「はい。寝ます……」




 目をこすっているホルトルーデをベッドに誘導して、私も眠ることにしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る