……ていうか、お菓子屋さんじゃないんですけどね。
小麦粉、砂糖、塩、ミルク、バター、蜂蜜を市場で仕入れます。
商人たちから「新しいお菓子を作るのかい?」などと尋ねられたりしました。
どうやら私がお菓子作りをする錬金術師だと知られているようです。
毎日のようにリンゴや小麦粉、卵などを仕入れているのでバレバレですね。
後は……重曹、クエン酸、とうもろこしを購入しておきます。
さあ、新しいお菓子作りを試しましょう!
* * *
ホルトルーデと工房に戻ってから、私はひとりで新しいお菓子作りに励むことにしました。
レシピを確立しなければ、ホルトルーデに教えられませんからね。
〈ストレージ〉内にあるお菓子のメモを取り出し、よく読みます。
今回作るお菓子はワッフルです。
まず膨らし粉を作りましょう。
とうもろこしを錬金釜に入れ、〈原質分解〉の混ぜ棒でよくかき混ぜます。
〈アナライズ〉でデンプンだけを残すようにトングで他の形質を取り出していきます。
錬金釜にとうもろこしのデンプンだけが残ったら、重曹とクエン酸を投入して普通の混ぜ帽でかき混ぜていきます。
重曹とクエン酸はだいたい十対八の割合ですね。
魔力を流しながら十分ほどで膨らし粉が完成しました。
次はいよいよワッフルの作成です。
素材をすべて錬金釜に投入して、混ぜます。
ここではひたすら魔力を注いでいくだけです。
一時間ほどで香ばしい香りがしてきましたので、完成ですね。
蜂蜜が練り込まれたワッフルの完成です。
天然酵母を使わないため、量産も苦にはならないでしょう。
さっそく味見をしてみます。
ホルトルーデにも味見をさせました。
「お姉さま、このお菓子、とっても美味しいです」
「うん。よく出来ているね」
満足のいく出来栄えだったので、お店のラインナップに加えました。
* * *
その日の夕暮れどき、スーザンちゃんが工房にやってきました。
「フーレリアお姉ちゃん! お小遣いが貯まったよ!」
「いいタイミングで来たね、スーザンちゃん。ちょうど新しいお菓子ができたところなの」
「え!? 新しいお菓子!? どんなお菓子なの!?」
「蜂蜜が練り込まれたワッフルよ」
「ワッフルかあ。カステラが気になっているんだけど……」
「カステラの方がいいの? ワッフルなら一番乗りなんだけど」
「う~。そう言われると真っ先に食べたいかも」
「どっちでもいいよ。スーザンちゃんの好きな方で」
「じゃあお姉ちゃんのオススメのワッフルにします!」
「はい。ちょっと待っててね」
私はこっそりと〈ストレージ〉からワッフルを取り出します。
そして紙袋に入ったそれをスーザンちゃんに手渡しました。
「どうぞ、召し上がれ」
「うん! いただきまーす!」
スーザンちゃんはパクリと一口食べて目をまんまるにします。
一瞬の停滞の後、勢いよくワッフルを食べきりました。
「凄いよ、お姉ちゃん! このワッフル、蜂蜜の味がする!」
「ええ。蜂蜜を練り込んであるんですよ」
「すっごく美味しかった! あ、でもリンゴのクッキーの方が驚きがあったかなあ」
「そうなんですか?」
「うん! あんなにリンゴの風味がするクッキー、初めてだったもん!」
「そっか……もう少し工夫が必要かもしれませんね」
錬金術なので多少無理のあるお菓子だって作れます。
私は無意識のうちに無難なお菓子作りになってしまっていたのを反省します。
……ていうか、お菓子屋さんじゃないんですけどね。
スーザンちゃんは店の奥にいるホルトルーデに気づいて首を傾げます。
「お姉ちゃん、あっちのお姉ちゃんは誰?」
「ホルトルーデというのです。私の妹分で、錬金術の弟子なんですよ」
「妹……じゃないんだ。でもすっごくよく似ているよ?」
「ええ。記憶喪失のところを拾ったんです。似ているのには驚きましたけど……」
なんとか糊塗した設定でホルトルーデのことを誤魔化します。
納得したのか、スーザンちゃんはお店の方に戻っていきました。
ですが数日後、私のもとに驚くべき報告が舞い込んできました。
なんと記憶喪失のホルトルーデの家族が現れたのです。
……は?
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