品質を下げるために〈複製〉の錬金術を使いましょう。
アンチドーテポーションの錬成は私がします。
ホルトルーデには引き続きお菓子と保存食の量産に努めてもらいます。
ゆくゆくはポーションも作れるように指導したいものですが。
忙しいので後回しなんですけどね……。
さてまずは蒸留水を錬成します。
〈ストレージ〉内のストックもかなり減ってきましたから、ここは気合を入れて量産しておくことにしました。
天然酵母作りでも必要になりますし、何より作成が簡単なので量産に手間はかかりません。
後で安定剤を作るので、空き瓶の数にだけ注意が必要です。
さあ次は安定剤です。
ここで作成する安定剤は解毒効果を高めるために、コボルドの実を使用します。
コボルドの実はどんな地質でも水気があれば育つ生命力旺盛な草の種で、これを使った安定剤はアンチドーテポーションの品質を高めてくれます。
古代語の文献から得た知識ですから、これは一般的な錬金術師の知識ではありません。
蒸留水とコボルドの実を投入して錬金釜をかき混ぜます。
予めコボルドの実を均等に刻んでおくと錬成が早く終わります。
このような魔力を使わない下処理も錬金術師の腕の見せどころですね。
はい、無事にコボルドの実の安定剤が完成しました。
次はいよいよアンチドーテポーションの錬成です。
解毒草、青ダケ、蒸留水、安定剤を錬金釜に投入して魔力を注ぎながらかき混ぜます。
一定の魔力量が必要になるので、ここはガンガン魔力を流していくのがコツです。
すべて溶けて混ざりあったら、最後にお玉ですくって劣化防止の小瓶に注いでいきます。
はい、これでアンチドーテポーションの完成なのですが……。
等級はギリギリ六級です。
依頼されていたものよりも高い等級ですね。
品質を下げるために〈複製〉の錬金術を使いましょう。
一本の六級アンチドーテポーションから、三本の七級アンチドーテポーションが作れるはずです。
必要数は三十本ですから、十本のアンチドーテポーションを〈複製〉にかければいい計算ですね。
ではパパっと錬成してしまいましょう。
はい、あっという間に三十本の七級アンチドーテポーションが出来上がりました。
あまり仕事が早すぎると忙しくなるので、二日ほど置いてから納品に向かいましょうかね。
* * *
薬屋のおばあちゃんのところに納品を済ませて帰ると、工房の前にお菓子職人のシルビーナが工房の前に立ちはだかっていました。
仁王立ちですよ。
「いらっしゃいませ、シルビーナさん。お待たせして申し訳ありません」
「別に? ……あなたが作ったカステラを食べに来たのよ。評判もいいから、気になっていたのだけど忙しくてなかなか来れなかったの」
「はい。それではカステラをすぐに用意しますね」
私は工房を開けて、こっそりと〈ストレージ〉に保管してあったカステラを一箱、取り出しました。
工房ではホルトルーデが錬金術に励んでいましたが、客あしらいができないため、居留守を使うように言い含めてあります。
「はい、こちらがカステラになります」
「銀貨一枚ね」
「はい」
差し出された銀貨を受け取ります。
するとシルビーナは箱を開けて、その場でカステラを見分し始めました。
「柔らかそうな生地ね。焦げ目はわざと?」
「はい」
「シンプルなのね。どんなものかと思ったけど……」
そして一切れを懐から取り出したフォークを使ってパクリ。
私の目の前で食べ始めましたよ。
「――!」
「お気に召しましたか?」
「この焦げ目……良いアクセントになっているわね。砂糖を焦がしたような味がする」
「はい。ザラメを使っています」
「そう……この味はザラメだったのね」
二切れ目も口にしたシルビーナは、無言で傍らに置かれていた小箱を差し出してきました。
「今回も引き分けね。見た目に騙されたけど、立派なお菓子だわ」
「ありがとうございます」
「次こそ勝つわ。新しいお菓子を用意して、首を洗って待ってなさい」
一方的に告げると、シルビーナは颯爽と立ち去りました。
忙しい合間を縫ってやって来たのでしょう。
さて小箱の中身は何なのかな?
開けてみると、エクレアがふたつ入っていました。
ホルトルーデと一緒にお茶の時間に頂きましょう。
……あれ、そう言えばまた新しいお菓子を作らなければならなくなってますよ?
ただでさえホルトルーデにお菓子と保存食を量産させているのに、品目が増えるのは喜ばしいことではありません。
いやでも、カステラも話題になって広まったので、第三弾となる別のお菓子は確かに必要かもしれません。
うーん、さて何を作りましょうかね。
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