第85話 包帯幼女魔族ですか?

「――――以上が、僕の説明です」


 僕の説明を静かに聞いていた包帯幼女魔族は、目を開ける。


 深紅の美しい瞳が僕の瞳を真っすぐ見つめる。


 噓偽り一つない事実を伝えたい、その想いで彼女の瞳を真っすぐ見つめた。


「では、一つだけ質問させてくれ。聖剣はどうしてお主が手にしておるのじゃ?」


「あ~聖剣はですね……僕には『ゴミ収集』という能力がありまして、クラフトくんをボコボコにしてゴミ・・として聖剣を捨てて貰ったんです。それを収集したので僕の物になった感じですね」


 その言葉に信じられないという表情になる魔族三人。


「こほん、俺は『自由国大総統』のヘルドだ。そいつの能力はそういう・・・・能力だ。嘘など一つもない。俺の剣に誓って」


 ヘルドさんが珍しく助け船を出してくれた。


 それにしても……ヘルドさん、少しかしこまってない? いつもなら俺様って……。


 公共の場だからなのかな?


「そうか、お主がヘルドか……クラフトより強い人間にして最強の座にいながら……其方が認めるとなれば……そうじゃな。間違いなかろう。その話はにわかには信じがたい話じゃが信じるとしよう」


 何とか納得して貰えたのかな?


「では、魔族側からも状況を教えてください」


「そうじゃな。これは正直に話すとするかの…………実はこの戦争になった原因は、我々魔族にあるのじゃ。この戦争の切っ掛けを作ったのは、勇者クラフトの両親の殺害事件から起きる事となるのじゃ。

 我々魔族でも好戦的な輩がいてな、その中には人間を滅ぼすべきだと考えていた強硬派の連中がいたのじゃ……そんな強硬派の連中が最初に考えたのは、勇者の可能性を潰す事じゃ」


 勇者の可能性?


「勇者には生まれる特殊な条件があるのじゃ。十歳のギフトを見なくても分かるのじゃ。そして、強硬派の連中がその条件を満たす存在を見つけた……それがクラフトの両親じゃ。

 強硬派の連中は全力でクラフトの両親を狙うモノの、失敗していまい……クラフトが生まれた。しかし、失敗したとは言ったが、実はその時、父親を亡き者に出来たのだ。

 クラフトの母はその事からクラフトを遠くの親戚に預け、自分はひたすら囮となり逃げ延びたのじゃ……そして、十年。勇者の誕生。そして、聖剣を手にした勇者は魔族を滅ぼす事を決意したのじゃ」


 クラフト……そんな悲しい過去を持っていたのか……。


 さっきはそんな素振りは全くなかったのに……。


「それから更に十年。勇者クラフトによる魔族狩りが止むことはなかった……既に強硬派の連中は全員亡き者になっておるが……クラフトは魔族は全員同じだと言い、魔族全員駆逐すると言い放ったのじゃ……私が剣を捨て、話し合いを求めても尚……斬り掛かったのじゃ」


 あ……それで包帯でぐるぐるにされているのかな?


「我々魔族に、あの聖剣から受けた傷は決して癒えないのじゃ。だから……既に私は魔族を束ねる資格などないのじゃが……」


「エヴァ様! そんな事はありません! 我々はいつまでも貴方様と共にします!」


 包帯幼女魔族の言葉に、イケメン魔族とエロ魔族が立ち上がり反論した。


 包帯幼女魔族さんはとても偉い人なのだろうか?


「アレクとやら、我々魔族にはもう戦おうとする意志はない。恥ずかしい話、私の甘い考えから強硬派を止めきれなかったのが悪いとは思っている……虫が良すぎる提案だとは思うが……この戦いを止めたい。それが今の魔族の代表としての提案じゃ」


 包帯幼女魔族の深い深紅の瞳から力強い意志が伝わって来た。


「分かりました! 僕達もそのつもりで来ましたから……それでは、これからは人間と魔族、戦わないように話を進めましょう」


「そうか、それはありがたい……そう言えば、其方の『ゴミ収集』? とやらで聖剣を手に入れたと言っておったな? それはどういう風にすれば成立・・するのじゃ?」


「あ~所有者が『ゴミ』と判断して捨てたモノを、僕が収集すれば出来ますね」


「そうか……『ゴミ』として捨てる……か」



 こうして包帯幼女魔族代表と、僕の話し合いは終わり、人間と魔族の間に平和が訪れる事となった。

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