第21話 戦いですか?

「あんた、名前くらい名乗ったらどう?」


 アイリスちゃんが僕を刺した人に向って話した。


「ふむ、そいつが生きていた事に免じて、死んでゆく貴様らに最後の餞別として教えてあげよう」


 自信満々に話しているけど、この殺気、とんでもなく強い事くらい分かる。


「俺は暗殺ギルド『ロキ』の幹部の一人、ディランという」


 暗殺ギルド『ロキ』?


 聞いた事ないギルド名だった。


「そのディランさんは余程、勝つ自信があるんだろうね」


 アイリスちゃんの言葉に、ディランの口元が緩んだ。


「貴様らを殺そうと思えば、既に殺している」


 きっと、ハッタリではないだろう。


 戦う前から、既に僕とアイリスちゃんの冷や汗は凄い事になっている。


 それだけ、目の前の彼が強い事を肌で感じていた。


「さあ、選べ。苦しんで死ぬか、泣き叫びながら死ぬか」


 それ一緒じゃねぇかよ!


 選べないから!



「確かにあんたは強い、でも最初から私一人で護衛をしていることを不思議とは思わないわけ?」


「ふっ、貴様のような隙だらけの素人に何が出来る」


 確かに、アイリスちゃんが戦う所なんて見た事ない。


 彼女は大きく息を吸って吐くと、ディランを指差した。


「あんたなんかにアレクを殺させたりはしないわ!」


 う~ん、よく考えると、それは僕が言うべき台詞なんじゃ……。


「解放! 魔女ノ衣!」


 アイリスちゃんから禍々しい黒い光が漏れだした。


 解放? 魔女ノ衣??


 それを見ていたディランの表情に一切の余裕がなくなった


「成程、貴様、魔女家系だったのか」


 黒い光が終わり、禍々しい衣装がうねうねと動いていた。


 見た目通り、生きている衣装、な感じだ。



「へぇ、あんた、意外と物知りなのね」


「くっくっくっ、これはとんだ偶然だな、あの時・・・殺しそびれたガキが、貴様だったとは」


「!? あんた……まさか!!」


「くっくっくっ、魔女ノ森を滅ぼしたのは他でもない、我々『ロキ』だ」


 魔女ノ森? 滅ぼした?


 よく分からないけれど、アイリスちゃんに関わっているのだけは理解出来た。


「あんただけは……絶対許さない。ここで成敗してくれる!」


「くっくっ、幾ら魔女といえ、ガキ如きに――」


 アイリスちゃんとディランがぶつかり合った。



 アイリスちゃんの衣装は影の触手のように、幾つにも分かれてディランを襲った。


 ディランは両手に短剣より長めの二振りの剣を持っていた。


 アイリスちゃんの影の触手をディランが素早く斬り跳ね返している。


 たった数秒で、僕に聞こえる音は数十回にも及ぶ、ぶつかり音だった。


 僕が息を飲む間に、二人の戦いはますます激しくなった。



 アイリスちゃんが攻め勝っているように見えていたが、影の触手の隙間にディランの剣戟が差し込まれた。


 それを読んでいた彼女もまた、剣戟を振り払った。



 二人が距離を取り、一瞬の静寂に戻った。



「ガキだと思っていれば、中々やるな」


「あんたこそ……幹部というだけの事はあるわ」



 見た雰囲気だと、アイリスちゃんの方が有利に見える。


 しかし、表情に余裕があるのは、向こうディランの方だ。


 流石に戦いの場数の差はどうしようもないのだろう。



「アイリス、大丈夫?」


「え、ええ、でも、あいつ……やっぱり強いわ」


「うん。見てる感じ、スキル無しであんなに強いからね」


「そうね、私もまだ本気ではないけど、向こうもそうだとすると……ちょっと危ないかも知れないわ」


「ねえ、アイリスちゃん。ここは――――――――」


 僕は思っていた作戦をアイリスちゃんに伝えた。


「――分かったわ。それで行きましょう」


 決してディランから目を離さず、睨みながら聞いていたアイリスちゃんが頷いて返してくれた。




「くっくっ、ガキの悪知恵は決まったかな? では本番と行こうぜ!」

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