鬱ゲー世界に転生した弱者のお話

樽尾太郎

堕ちた英雄クサナギ

プロローグ

世界は余りにも残酷だ。


「すぅ、すぅ、すぅ」

やつに見つからないように息を潜める。大きく吐き出したい空気を肺で留め、音を極限まで殺す。

「くっそぉ!あんのクソガキ!次は絶対に捕まえるからな!」

いつも笑っているデブの店主から奪ったじゃがいもを腕に抱え逃げていた俺は店が立ち並んでいることを利用し、その路地裏に逃げ込み、何とかその店主を巻くことに成功した。



弱者は犯罪を犯さなければ生きていけない。


「あれは」

(ちっ、あんのゲス野郎ども·····!)

ほんの一時の休息を体で感じていたら、路地裏のほんの少しの間から見える馬車を見つけた。その馬車の荷台には首輪をつけられた大量の子供が乗っていた。奴隷である。

奴隷は皆俯いた表情なのに対し、その馬車を操っていた長髭の男は醜悪な笑みを浮かべ、満足感でいっぱいといった表情だった。



この世界で罪を犯した者、奴隷商人に捕まってしまった弱者は皆全て奴隷になる。


この世界は弱者を嫌う。まるで世界の異物かのように弱者を排除しようとする。

それがこの世界。



「だが、すまんな、俺は今を生きるのに精一杯なんだ」

今、奴隷とされた者達へ謝っている男もまた弱者。


幼少期に弱者と認定された彼は親に捨てられ、この都市から離れた荒地で暮らしている。

だが暮らせているだけ十分幸せだと言えるだろう。この世界で奴隷になるということは死ぬことより辛いことなのだから。




世界は残酷だ。救いなどない。

今、明るい太陽を晴れ晴れとした青空を見て、明るく生きている大多数の人間の下には誰かに縛られ、自由な生き方をさせて貰えない人間が数多存在する。


こんな差別を容認する世界。



だからこそ弱者は望む、自由を、弱者は望む、力を、弱者は望む、英雄を·····。


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