血で血を洗う

Jack Torrance

第1話 血で血を洗う

あの淫乱の売女めが。


俺はてめえのかみさんを呪った。


娘のプルーフが生まれて1年半。


保育園に娘を預けて、てめえはどっかのボンクラとモーテルでしっぽりてか。


俺が汗水垂らして道をほじくり返していやがる時によ。


「チャド、おめえには言いにくいんだけどよ。かみさんには気を付けといた方がいいぜ。俺、見ちまったんだ。おめえのかみさんが何処の馬の骨とも知れねえ奴とよ、モーテルから出て来るところうを」

ダチがかみさんがそのボンクラとモーテルから出て来んのを目撃してなかったら俺は、とんだ頓馬になっちまうところだったぜ。


煮えくり返る腸(はらわた)


抑えきれねえ憤怒と憎悪。

亭主が子供が生まれちまったらかみさんが亭主そっちのけで子供にすっかり愛情を注ぎ込んじまって亭主が不貞に走るって話はよく聞くけどよ。


かみさんが亭主も子供もほっぽり出して不貞に走るなんてよ。


この貞操観念のねえあばずれがよ。


俺はかみさんをぶっ殺そうと思ってアマゾンにアーミーナイフを発注した。


日曜の午前中にその物(ぶつ)は届けられた。


14時。


かみさん、いや、もう、そう呼びたくもねえ。


あの、あばずれが言って来やがった。


欠伸した口元を掌で隠しながら。


「プルーフもお昼寝したみたいだから、あたしもソファーでちょっと一眠りしてもいいかしら」


けっ、この、かまととが。


俺は微笑みを浮かべながらキッチンの椅子に座っているあばずれの背後に回り肩を揉みほぐしながら言った。


「ああ、ちょっと横になってゆっっくり休めよ。シャーリーン、お前も子育てで疲れてるだろうからよ」


あばずれがソファーに横になって5分もしねえ内に軽い鼾をかきだした。


俺はアマゾンの包装を開封してアーミーナイフを取り出してじっくり拝んだ。


出窓から降り注ぐ陽光に反射し妖艶な煌めきを発していた。


研ぎ澄まされた刃先に俺のにやついた表情が歪んで映った。


俺は躊躇無くあばずれの喉元にそのアーミーナイフの刃先を走らせた。


掻っ切られた喉元がぱっくりと開きあばずれが何が起こったかも理解出来ずに掌で喉元を押さえた。


深紅の鮮血があばずれの指の間から舞い上がり俺の手を真っ赤に染めていく。


けっ、自業自得だ。

あばずれには、お似合いの最期だな。


くたばれ、この、あばずれめが。


俺は娘を寝かしつけている部屋に向かった。


此奴も、あの、あばずれの血を引いていやがる。


親父は人殺し。


おふくろは、あばずれ。


娘も生きていても、こんなんじゃ幸せな人生なんて送れねえよな。


いっそ殺してやった方が娘の為だ。


俺は娘の顔をタオルで覆い心臓を一突きにした。


娘の心臓から溢れ出る血が俺のあばずれの血で汚れた手を洗った。


その時、俺は正気に戻った。


今の娘には何の罪もねえじゃねえか。


たとえ、あの、あばずれの娘には違いねえにしても。


あばずれの冷たい血で汚れた俺の手を娘の温かい血が洗い流していく。


血で血を洗う。


俺は、ふと思った。


娘には確かにあばずれの血が半分入ってるには違いねえが俺の血も半分入っていやがる。


大それた事を仕出かしちまった。

そう思った瞬間、涙腺から涙が止め処もなく溢れ出してきやがった。

この世に清廉潔白な人間なんていやしねえ。


てめえも例に漏れずそうじゃねえか。


俺はてめえの喉元に刃先を当てて躊躇無くてめえの喉を掻っ捌いた。


俺は薄れ行く意識の中でてめえに言い聞かせた。


どうせ生きてても豚箱行きじゃねえか。


生きるも地獄。


死ぬも地獄。


そんなら、いっその事、地獄の門でも叩こうじゃねえかってよ…

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血で血を洗う Jack Torrance @John-D

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